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クトゥルー神話創作小説同盟コミュの宇宙的恐怖参加作品:『コズミック・ミラー』

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「うわぁあああああぁっ!」


 諏訪は自分の叫び声で目を覚ました。
 ひどい悪夢だった。だがそれがどんな夢だったか、まったく憶えていなかった。
 夜明けまでまだ少し間があったが、彼は日課であるランニングに出た。
 一時間ほど走り朝日が昇り始めたころマンションに戻った。
 帰りがけにポストを覗くと紙切れが一枚入っていた。郵便ではなく直接投函されたもののようだ。二つ折りにされた紙片を開いてみる。三角形を二つ重ねたマークにつづけて手書きの文章が記されていた。

  途切れた高速道路の下で
  本日午後一時に

「仕事か……」諏訪はそうつぶやいてメモを握り潰した。
 部屋へ入ると彼は丸めたメモに火をつけ、燃え尽きるのを眺めていた。
 諏訪は、表向きは防犯コンサルタントと防犯グッズのインターネット販売を生業としていた。だがそれらは大した収入にはなっていない。彼の本当の仕事は別にあった。


 途切れた高速道路というのが何処を指しているのかは、すぐにわかった。この街には実際に公共事業の見直しとやらで百メートルほど作られたきり放棄されている高速道路があるのだ。その先にも点々とコンクリート製のT字型の支柱だけが森の木々の上に突き出していた。
 午後一時ちょうどに諏訪はその場所に到着した。
 車を降りると不意に背後から声をかけられた。「諏訪さんですね」
 振り返るといつの間にかそこに男が立っていた。
 痩せた男だった。黒いコートを着ていて、病に冒されているらしい浅黒い肌をしていた。
「あんたか、おれを呼び出したのは?」
「はい、鳥村といいます」
「で、用は?」
「仕事を頼みたいのです」
「そう言うからには、おれを職業を知ってるんだろうな?」
「ええ、もちろん。あなたは腕のいい泥棒だ。それを見込んでお願いするのです」
「何を盗んで欲しい?」
「鏡です。鏡を一つ、それだけでいいのです」
「ふむ、大きさは?」
「たてが70センチ、幅が50センチほどの楕円形で下が少し窄まっています。卵をさかさにした形とでもいいましょうか」
「値が張るんだろうな?」
「いえ、まあ、人によっては……ゲフゴホッ、ゴホッ」鳥村は突然咳きこみ始めた。口を覆ったハンカチに血がにじんでいた。
「おい、大丈夫か?」
「ええ、失礼しました」
「その鏡というのは、どこにあるんだ?」
「この先の」と鳥村は高速道路が伸びる予定だった森を指差した。「大きな水門のある貯水池をご存知ですか?」
「ああ、知ってる」
「その近くに、今は人が住んでいない洋館があるのですが」
「知らんな」
「あの辺は他に建物はありませんから行けばわかるでしょう」
「無人の館なら、あんたが自分で盗んでくればいいじゃないか」
「いや、そういうわけには……、じつはこれまでにも何人かの人に同じように鏡を盗んでくるようにとお頼みしたことがあるのです。便利屋とか私立探偵とかそんな連中です。しかし、あの館に足を踏み入れて無事に戻って来た者は一人もありませんでした」
「どういうことだ?」
「呪いです。私の求める鏡には恐ろしい呪いがかけられているのです」
「ふん、おれはそういうものは信じない立場でね」
「そういう方を探していました」
「安くは雇えないぜ」
「ええ、百万ということでいかがでしょうか?」
「百万か……、うん、悪くないな」
「では、前金で五十万、残りは鏡と引き換えにお支払いするということで」
「いいだろう」
 鳥村はコートの内ポケットから紙幣の入った封筒を取り出した。諏訪は封筒を受け取ると透かしを確認し、枚数を数え始めた。
「館は二階建てで、ほかに屋根裏部屋があります。問題の鏡はその屋根裏部屋に設置されているらしいのですが、二階から屋根裏へ上る方法はわかっていません」
「それは何とかなるだろう」
「それとこれを」と鳥村は黒い石のナイフを取り出して諏訪に手渡した。
 皮製の鞘と紐が付いていて、首にかけられるようになっていた。
「何だこれは?」
「黒曜石のナイフです。盗みに入る時に持っていって下さい。呪いに対する、まあ御守りのようなものです」
「おれには必要ないな」
「そう言わずに、仕事をする上での条件と思って必ず身に付けていくようお願いします」
「ま、邪魔になるほどでもないし、持っていってもいいが」
「し、仕事は、ゴフ、ゲェッゴホッゲホッ」また鳥村は血を吐きながら咳きこみだした。
「おい、本当に……」
「だ、大丈夫です。ご心配なく。仕事は今日中に終えていただきたいのですが」
「ああ、いいだろう」
「では、明日また同じ時間にこの場所でお会いしましょう……ゴッ、ゴフ」


 諏訪はいったん自室に戻り、泥棒七つ道具を車に積んでから貯水池へ向かった。
 鏡を一つ盗むだけで百万とは、いい仕事だ。罠ではないかとも思う。
 だが、あの鳥村という男、呪いがどうとかと言っていた。案外たんに迷信深いだけなのかもしれない。これまでこの仕事に失敗した奴らというのは、盗みに関してはシロウトだったんだろう。
 水門のある貯水池の近くへ来た。しばらく森の中を走っているとそれらしい洋館を見つけた。そう大きくはないが、頑丈そうな白い石造りで壁は半ば蔦に覆われていた。窓は鎧戸で閉ざされていた。
 諏訪は車を降りて、館のドアの前に立った。重そうな黒い木の扉だ。すると不意に、自分は前にもここに来たことがあるのではないか、という感覚に襲われた。いわゆるデジャヴと呼ばれるものだろうか。
 真鍮製のドアノブを引くと扉はすんなりと開いた。
 一階はキッチンや寝室などいくつかの部屋に分かれていた。長年使用されていないため埃や蜘蛛の巣がそこらじゅうを覆っていた。ペンライトで照らしながら階段を上る。階段には最近誰かが昇ったらしい足跡があった。
 二階は大きな広間になっていた。鎧戸の隙間から陽光が射していた。そこには鹿や狼、鷹や梟といった動物や鳥の剥製が大量にならべられていた。
 動くことのない生物たちを眺めていると、時間の止まった世界に迷い込んだような不安な感じになる。
 鏡は屋根裏部屋にあるという。そこへ上る方法を見つけなければならないのだが……。
 壁には蝶や甲虫の標本を収めたガラスケースがいくつもかけられていた。それらを眺めていると、一方の壁に周囲に蔦草の彫刻された金属のプレートが埋め込まれているのを見つけた。その中央は鍵穴になっていた。ただ鍵穴があるだけで扉があるわけではなかった。ともかく、これに合う鍵を見つければ、屋根裏に上る道が開けるのではなかろうか。だが、その鍵は何処にあるのか?
 ここには剥製と虫の標本以外には何もなかった。
 諏訪はそれらを一つ一つたんねんに観察していった。鹿、狼、山猫、狐、貂、鷹、鷲、雉、孔雀、梟……。
 彼は梟の前で足を止めた。その剥製には奇妙なところがあった。首が真後ろを向いているのだ。
 梟は、首が360度回転するという説があるが、これは間違いである。それでも270度ほどは回転できるのでそんな伝説が生まれたのだろう。だからといって首が後ろを向いた状態で剥製にするのも妙である。
 諏訪は梟の頭部に手を伸ばした。案の定、そこをつかむと頭部だけが外れるようになっていた。中は空洞で、鍵が吊り下げられていた。
 鍵を取り出して、壁の鍵穴の所へ行った。差し込んで廻す。
 壁の奥で歯車が作動し、鎖が引き摺られるような音が聞こえた。天井の一部が開いて階段が降りてきた。


 諏訪は屋根裏部屋へ上った。天窓があるため暗くはない。
 屋根を支える梁が縦横に組まれている。柱の近くに小さな机が置かれていた。
 机の上には古びた書物が一冊あった。表題は漢字で『死霊秘法』と記されている。他に目に付くものはない。
 柱の反対側に回ってみると、そこに鏡らしきものが掛けられていた。
 鳥村の言っていたとおり大きさで、卵を逆さにしたような形だった。
 たが、これが鏡だろうか。何も映っていない黒い金属盤のようだった。
 近づいて正面から見ると、それは虹色に光っていた。はじめは油の浮いた水面のように角度によって色が変わるのかと思ったが、よく見るとそうではなく鏡面自体が発光しているのだった。それもただの光ではない。オーロラのように波打ちながら拡がりはじめたのだ。
「な、何だこれは!?」
 オーロラ状の光は諏訪の体を包みこんだ。
「うわっ!」視界が光に覆われると、いきなり空中に投げ出されたように感じた。


 寒い。冷たい風に吹き付けられ諏訪は意識を取り戻した。
 そこは一面、氷に覆われた世界だった。雪混じりの突風が吹き荒れていた。
 白夜のような薄暮の空に、オーロラが狂ったように輝いていた。
 前方には、座礁した黒いガレー船がオレンジ色の炎を上げて燃え盛っていた。
 周囲を見回すと、青白い氷山があるあたりに一瞬、黒いマント姿の人影が見えた気がした。だが、風に吹き上げられた雪に遮られ見えなくなった。
――スワサン……、スワサン。
 何処からともなく声が聞こえた。
 テレパシーのように頭の中に直接響いているのだった。それはあの鳥村という男の声だった。
「一体どうなってるんだ。ここは何処なんだ!?」
――そこはヒューペルボリアと呼ばれる世界。あの鏡を通してこちらとつながっていたのです。
「何だそれは。どうすれば戻れる?」
――氷山の中にディル=ゾークという巨大なナメクジのような魔物がいます。そいつを倒してください。
「何でそんなことをしなけりゃならないんだ!」
――ディル=ゾークは鏡を通してこちらの世界に呪いをかけているのです。その呪いを解くためにはそいつを倒すしかないのです。
「そんな話は聞いてないぞ」
――鏡の呪いについてはお話しました。信じなかったのはあなたです。
「ナメクジの化け物なんかとどうやって戦えというんだ?」
――難しいことではありません。お渡しした黒曜石のナイフを突き刺せばよいのです。
「本当にそれで元の世界に戻れるんだろうな?」
――ええ、それが唯一の……。
 それきり鳥村の声は聞こえなくなった。
「くそっ、どうしろというんだ」諏訪はとりあえず氷山の方へ足を向けた。
 近づいてみると氷山には側面に洞窟のような穴が開いていた。
 内部は氷自体が発光していて、不思議な青白い光に満たされていた。
 諏訪は氷の洞窟を奥へと進んでいった。
 複雑に曲がりくねった通路をしばらく進むと前方から人の叫び声のようなものが聞こえた。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!」確かに人の声だ。
 つづいてびちゃびちゃと液体の滴る音が聞こえてきた。
 諏訪はその方向へ走った。するとドーム上の天井を持つ広間へと出た。
 中央部は玉座のような檀になっていて、その上に巨大な白いナメクジが横たわっていた。ナメクジは今まさに生きた人間をむさぼり食っているところで、黒いマントを着た男が噛み砕かれ飲み込まれていくところだった。牙のならんだ口からはよだれのように赤い血が流れ落ちていた。
 吐き気をもよおす悍ましさを感じ、諏訪は思わず後退った。通路の壁に身を寄せて影から様子をうかがうことにした。
 あれがディル=ゾークとかいうやつか。体長は5メートルほどで、身体の表面には所々黒い斑点があり、粘液に覆われぬらぬらと光っていた。
 あの黒マントの男はどこから来たのだろうか。もともとこの世界の住人で、ナメクジのエサとしておびきよせられて来たといったところだろうか。
 ナメクジは食事を終え満足したのか、眠ってしまったように見えた。身体全体がゆっくりと脈動していた。まるで切り取られた巨人の胃袋のようだった。
 諏訪は首から下げていた黒曜石のナイフを手に取った。鞘を外す。
 こんな小さな刃であの巨体に効き目があるのだろうか。
 しかし、逃げ出しても元の世界に帰る当てはなかった。やるならば今が絶好のチャンスだ。
 彼はゆっくりとナメクジに近づいていった。やはり眠っていて気づかないようだ。ナイフを腰だめに構えると、彼は一気に駆け出した。身体ごとぶつかるように突き刺した。
 ナメクジの身体から黒い体液が噴き出した。
「ギィィィィッ」ナメクジが絶叫しながらのた打ち回りだした。
 諏訪は尻尾にはじき飛ばされ、床に叩きつけられた。
 そこへ、ナメクジの牙のならんだ口が襲いかかってきた。


「うわぁあああああぁっ!」


 諏訪は自分の叫び声で目を覚ました。
 このところ毎晩ひどい悪夢に悩まされているような気がした。だがそれがどんな夢だったかよく憶えていなかった。
 夜明けまでまだ少し間があったが、彼は日課であるランニングに出た。
 一時間ほど走り朝日が昇り始めたころマンションに戻った。
 帰りがけにポストを覗くと紙切れが一枚入っていた。
 二つ折りにされた紙片を開いてみる。三角形を二つ重ねたマークにつづけて手書きの文章が記されていた。

  途切れた高速道路の下で
  本日午後一時に

「仕事か……」諏訪はそうつぶやいてメモを握り潰した。


 午後一時ちょうどに諏訪は途切れた高速道路の下へ到着した。
 車を降りると不意に背後から声をかけられた。「諏訪さんですね」
 いつの間にかそこに男が立っていた。
 痩せた男だった。黒いコートを着ていて、左目を眼帯で覆い、包帯が巻かれた右手は首から吊っていた。
「あんたか、おれを呼び出したのは?」
「はい、鳥村といい……ゲホッゴホッ」
 男は激しく咳き込みだした。
「おい、だいじょうぶか?」
「ええ、ご心配なく。仕事を頼みたいのですが」
 鳥村は仕事の内容を説明した。それは貯水池の近くの洋館から鏡を一つ盗み出してほしいということだった。報酬は百万。そう言うあいだにも彼は何度も咳き込み、その度に血を吐いていた。
「それから、仕事の際にはこれを身に付けていって下さい」
 そう言って鳥村は小さな皮袋を差し出した。紐がついていて首から下げられるようになっている。
「何だこれは?」
 受け取って中を見ると、小さな石ころが一つ入っていた。
「それは“賢者の石”と呼ばれるもので、まあ御守りのようなものです」
「何でそんなものが必要なんだ?」
「あの鏡は呪われているのです」
「呪いだと……、おれはそういうものは信じないんだ」
「そう言わずに、必ず身に付けていくようにお願いします」
「ま、いいだろう」
「仕事は今日中にお願いします」
「いいだろう」
「では明日、またこの場所で同じ時間に……ゲホッゴホッ」


 諏訪は自室に戻り、車に道具を積んで水門のある貯水池へ行った。
 洋館を見つけ、その前に立つと前にもここへ来たことがあるという気がした。
 デジャヴというやつだろうか。
 いや、確かに来たことがある。ここへ立ち、デジャヴではないかと思う、そのこと自体、もう何度も繰り返している……そんな気がした。
 ともかく館の中へ入ることにした。ドアに鍵はかかっていなかった。
 警戒しながら階段を上る。二階には動物や鳥の剥製がならべられていた。
 壁に鍵穴を見つけた。
 剥製の中で梟の首が真後ろを向いているのを奇妙に思い、手にとって見ると首が外れて内部に鍵が隠されていた。
 鍵穴に差して回すと天井が開いて階段が降りてきた。
 屋根裏に上ると、柱にかけられた鏡を見つけた。
 近づくと鏡面が虹色の光を放ち出した。
「な、何だこれは!?」
 諏訪はオーロラ状の光に飲み込まれ意識を失った。


 気が付くとそこは氷に覆われた世界だった。
 白夜の空にオーロラが輝いていた。
 黒いガレー船が炎上していた。
 吹雪の中を青白い氷山へ向かって歩く黒い人影が一瞬見えた。
 その時、どこからともなくテレパシーによって語りかける鳥村の声が聞こえてきた。
――スワサン……、スワサン。
「な、何だ!?」
 鳥村が言うには元の世界に戻りたければ、氷山の中にいるディル=ゾークというナメクジの化け物を倒さねばならないのだと言う。
「しかし、どうやって……?」
――お渡しした“賢者の石”を投げつければいいのです。
 諏訪は青白く発光する氷山の内部へ入っていった。
 そこで、巨大な白いナメクジに黒マントの男が食い殺されるのを目撃した。
 食事を終え眠っているナメクジに彼は“賢者の石”を投げつけた。
 石はナメクジの皮膚に当たると、焼けた鉄のように周囲を焦がし煙を上げながらめりこんでいった。
「ギィィィィッ」ナメクジが絶叫しながらのた打ち回りだした。
 諏訪は尻尾にはじき飛ばされ、床に叩きつけられた。
 そこへ、ナメクジの牙のならんだ口が襲いかかってきた。


「うわぁあああああぁっ!」


 諏訪は自分の叫び声で目を覚ました。
 また同じ悪夢を見た、そう思った。どんな夢かはよく思い出せなかった。
 繰り返し同じ悪夢を見ているような気がした。だが、昨日も一昨日も悪夢など見たという記憶はなかった。
 ひどく体力を消耗している気がした。
 それでも日課のランニングに出た。
 帰りにポストを覗くと紙切れが入っていた。

  途切れた高速道路の下で
  本日午後一時に

「仕事か……」諏訪はそうつぶやいてメモを握り潰した。


 午後一時ちょうどに諏訪は途切れた高速道路の下へ到着した。
 車を降りると、背後で男が咳き込み出した。「ゴホッ、ゲホッオェ」
 振り返ると痩せた男が立っていた。黒いコートを着ていて、大きなサングラスで目を覆い、右手は包帯が巻かれ首から吊り、左腕は松葉杖で身体を支えていた。
「あんたか、おれを呼び出したのは?」
「はい、鳥村といいます」血を吐いた口もとを拭いながら男は言った。
 鳥村は、ある鏡を盗むよう諏訪に依頼した。
 不自由な身体で苦労して取り出した前金五十万を手渡すと、つづけて黄色い液体の入ったガラス瓶を取り出した。
 それは“マンドラゴラの霊薬”だという。仕事の際、御守りとして必ず身に付けていくようにとのことだった。


 諏訪は鏡が置かれているという貯水池近くの洋館へ赴いた。
 そこへ立つとデジャブを感じる。
 中へ入り二階へ。梟の剥製から鍵を取り出し、屋根裏へ上る階段を開く。
 屋根裏で鏡を見つけると、オーロラ状の光に包まれ気を失った。


 気が付くと氷の世界にいる。
 鳥村のテレパシーに導かれ氷山の中へ。
 そこでは巨大ナメクジが人を食っている。
 諏訪は“マンドラゴラの霊薬”を振りかけた。
 ナメクジの皮膚は硫酸を浴びたように焼けただれた。
「ギィィィィッ」ナメクジが絶叫しながらのた打ち回りだした。
 諏訪は尻尾にはじき飛ばされ、床に叩きつけられた。
 そこへ、ナメクジの牙のならんだ口が襲いかかってきた。


「うわぁあああああぁっ!」


 諏訪は自分の叫び声で目を覚ました。
 悪夢だ。だが、内容は思い出せない。
 ランニングへ出て、帰りにポストを覗く。
 紙切れが入っていた。


 その指示通りに諏訪は午後一時に途切れた高速道路の下へ行った。
 車を降りると不意に背後から声をかけられた。「す、諏訪……さん……」
 振り返るといつの間にかそこに男がいた。
 車椅子に乗った男だった。サングラスで目を隠し、両手に包帯が巻かれていた。
 ひどい顔色をしていた。
「だいじょうぶかあんた、ずいぶん具合が悪そうじゃないか?」
「ゴフッ、ゴホ、ご心配なく……」
 そう言いながら男は口から黒ずんだ血を吐いていた。
「す、諏訪さん……、あなたに……ぬ、盗んでほしいものが……」
「何をだ?」
「うっ、グフッ……」
 男は血を吐いて咳き込み出した。
「お、おい……」
「だめだ……、もう、間に合わない」
「間に合わないって……?」
 男は電動の車椅子を回転させ走り出した。
「おい、どこ行くんだよ!?」
 諏訪の呼びかけには答えず男は叫び出した。
「あいつが見ている――どこまでも追ってくる――ヨグ=ソトース! 救いたまえ――這い寄る混沌……」
 疾走する車椅子はやがて唐突に横転してしまった。
 諏訪がそこへ歩み寄ってみると男の身体は消えていた。
 残された衣服の中で、黒い泥のような泡立つ物体がかすかに蠢いていた。

コメント(7)

近頃夏バテ気味で予定より多少遅れてしまいましたが、何とか完成しました。

涼宮ハルヒの「エンドレスエイト」のような同じ一日を何度も繰り返す話を書きたいな、というところから構想したものです。
りーだーさん
感想ありがとうございます。

「黒マントの男だけ、繰り返すサイクルから外れている」と思われましたか。
黒いマントの男は二周目以降も一応登場しているのですが……。

同じ悪夢の繰り返しというパターンはりーだーさんの「貌の無い神像」が既にあったのですね。このコミュで公開された当初に読んでいる筈なのですが、内容は忘れてしまっていました。スミマセン。今回読み返したところ、無意識に影響を受けているような気がしました。

ヒューペルボリアが出てくるのは少し前にスミスの「白蛆の襲来」とスミス+カーターの「極地からの光」を読んだためで、そのイメージを使いたいと思って組み入れてみたらこういう話にまとまったのです。
UMAさん、感想ありがとうございます。

コズミック・ホラーを一文字変えるとコズミック・ミラーで
じゃあ鏡だ、という感じで考えた話です。

UMAさんの作品にも感想をお返ししたいところですが、
詩となるとむずかしくて、ちょっと手が出せません。ごめんなさい。

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