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クトゥルー神話創作小説同盟コミュの闇島奇譚?怪異の潜む島(第十九回)

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 「何・・・だと?」大木中尉の眼が大きく見開かれる。小夜子の囁きは三郎にだけでなく、大木中尉の耳にも入っていたのだ。「矢張り!今しがた地底で見て来たぞ!人だか獣だか判らぬあの化け物共は、地下室の入口で我等を迎えたあの猫又共も、みんなお前が獣と交わって産んだものだな!」すると小夜子は清楚な笑みで「わたくしを浅ましき者のように仰らないで下さい。父の血が騒ぎ出すだけなのです」と言う。小夜子の顔に浮かぶのは聖女のような表情だった。
 「大和、俺はお前に一つだけ言わなかった事がある。あの三つ又の尾の犬は、先日、この女が行の最中とやらに、あの海岸で、あのヴーゾムファとやらの祭壇の近くで産み落としたものだ。俺たちは、見ていたのだ!産婆の代わりを務めたのは、あのシャンブロウと言う化け物だ。最初は判らなかった。腹も膨れていなかったからだ。だが、この女は苦しみながらも着物をまとったまま、立って岩にしがみつき、いきなり真下にあの犬を産み落としたのだ!それをシャンブロウが拾い上げると何処かへ連れて行き、この女もすぐに平然とした顔でその場を立ち去ったのだ!」「あら、覗き見なさっていたのですか?女が産褥に苦しむところなど、殿方の見て良いものではありませんわ」小夜子は少し拗ねたような口調になっている。恥ずかしかったのか、心なしか、顔に赤みが差していた。「大和、どうだ。お前をたぶらかしているこの女は、あの父親同様に化け物なのだぞ」三郎には答える術が無かった。三郎は、ただ、一部始終を見て聞いているだけだった。
 天空に光が走った。いよいよヨグ・ソトースが降下を開始していた。「エルダー・ゴッドたちに依って、こちらの世界には出て来られない筈だったのではないのか?」少佐が想わず声を上げると小夜子はにっこりと微笑んで、「わたくしは、彼らの封印を回避して父を召喚する方法を存じております」と言った。「星夫君に、あなたはそれを教えたのかね?」すると小夜子は首を左右に振って、「そんな事はお教えしておりません。そもそも星夫さまが父を召喚しようとしていたなど、初耳です」
 「星夫に召喚呪文を教えたのは、多分、異国人さ」不意に薫子が言った。「ミスター・ウエイトリーですか?」三郎が問うと薫子は驚いた顔になり、「知っておったのか?さよう、あの男と星夫は時折り会っておった」と言う。薫子が言うには、ウエイトリー自身、夜神様を調べる為に鍵守神社に来ていたのだと言う。つい先日、三郎と入れ違うようにして島を後にしたばかりだと教えられ、矢張り昼島に着いた時に見た人影は、彼本人だったのではないかと、今更ながら三郎は想った。
 「待ってくれ」横から巨大な黒犬が口を挟む。ティンダロスから派遣されて来たニリラだ。「ヨグ・ソトースを召喚したのは、あんたなのか?」すると小夜子は「父はいつも決まった時に門を開きます。ただ、普段は少し顔を覗かせる程度なのですが、今宵はわたくしがエルダー・ゴッドの封印を解除し、顔を覗かせている父をこちらに引き込んだのです」「て事は俺等の世界をヨグ・ソトースが通過しかけたのは・・・」「誰かが、父が近くに居ないのに強引にこちらの世界に引き寄せようとした結果でしょう。おそらく父が時空を通貨する際の通り道の一つをねじ曲げたのでしょうが、下手なやり方です。でもティンダロスの支配者が気が付いていなければ、父が誤って地球に出現した可能性はありました。それが北極かアメリカかは判りませんが、おそらく地球の何処かに到達した事でしょう。もっとも、エルダー・ゴッドたちの封印に押し戻され、こちらに出現しているのは僅かな時間だったと想いますが」小夜子は瞳を潤ませて酔ったように言う。
 少佐が一歩前に進み出て「待って下さい、小夜子さん、するとあなたはいつでもヨグ・ソトースを召喚出来る訳では無いのですな?」と尋ねると、「大変だけど、やろうと想えば出来ますわ」とますます顔を赤らめた小夜子は、淫らな流し眼を少佐にくれた。少佐は無視する態度を見せたが、小夜子はなおも粘つく視線を少佐に送り続けていた。「少佐、あなたみたいな逞しい方は、今宵みたいな時にわたくしの近くに居てはいけませんわ」と、小夜子は舌なめずりしながら言う。「なるほど。父君が近くにおられると、血が騒ぎ出してしまうのですな?」少佐があくまで冷静に言い放つと、流石に小夜子は恥ずかしそうに眼を伏せた。
 少佐は天上のヨグ・ソトースを見上げた。光り輝く姿がはっきりと見えている。三郎も見ていた。そして想った。何と言う美しさ!何と言うおぞましさ!相反する感情が心中に渦巻き、三郎は今にもおのれが発狂するかと想った。人間の感覚を超えた物を見てしまったのだ。このまま狂うしかないと、三郎は本気でそう想っていた。少佐も大木中尉も明男も、頭を抱えてその場にうずくまっていた。だが、他のみんなは立って異界からの神を見上げている。
 「父の語りかけに脳が耐えられないのです」と説明してくれたのは昼子だった。小夜子は切なげな表情を浮かべて何かに耐えるように荒い息を吐き出している。
 「うはあ、こりゃ凄いテレパシーだ。この次元の生き物にとっちゃ、相当きついぜ。神経が受容しきれねえだろうぜ」とニリラが言う。
 「僕は平気らしいが・・・?」三郎が呟くと、「クアックスズアッラと何度か会えば、夜神さまに会っても何とも無い身体になるのさ」と薫子が教えてくれた。言われて三郎は想い出した。クアックスズアッラのテレパシーを受ける度、おのれの脳の一部が損傷し、代わってグレート・オールド・ワンの思考に耐えられる部分が少しずつ形成されて行ったらしい事を。これがその成果なのか。
 小夜子がふらふらと千鳥足で三郎の所へやって来て言った。「三郎さん、わたくし、あなたが欲しい。欲しい・・・」小夜子の身体からは強い異臭が立ち上っていた。「小夜子さん、その臭いは、あなたの身体がお父上の血に目覚めている証拠だったのですね」小夜子の臭いは、上空から吹き付けて来る生暖かく生臭い臭気とまるで同じものだった。「ええ、そうです。父は月夜の晩にはいつも接近していました。それで、その度に、わたくしは肉体的な欲求に苛まれていました。でも、それは父の特徴の一つなのです」「まるで豊饒神だ。そうか、ヨグ・ソトースは豊饒神なのか?」「何をもって豊饒神とするのかは判りません。でも、父が産ませた子供は生殖に対して強い本能を持ち、その子供たちも、その子供たちも、又、その本能を受け継いで行き一気に栄えます。わたくしたちも、又、同様です。今、この瞬間、この惑星にどれだけわたくしの兄弟姉妹、甥、姪、従姉妹が居るかは判りませんが、みな、抗えぬ欲求に従って子孫を設けようとしている筈です」「そんなに沢山、あなたの兄弟姉妹は居るののですか?」「居ると想います。人間では、わたくしが最初の筈ですが、父と交わり無事に子供を産む事が出来た人類最初の女が、わたくしの母ズーダラでした」
 不意に、頭を抱えてうずくまっていた筈の日向少佐が立ち上がった。「エイボン同様、滅びた大陸に居たと言う魔女のズーダラか?」「そうです」全身から淫らな気配と異界の臭気を立ち上らせて小夜子が答える。「魔女ズーダラとは何者だったのだ?」今もヨグ・ソトースの語りかけが続いているのか、少佐は顔をしかめて問う。「母ズーダラの母も又、魔道士でした。コモリオム最後の生き残りと呼ばれる狂女でした」「コモリオム?確かエイボンの生まれた年に滅びた都の名では?」「そうです。気が狂ったその女は、わたくしも母も名を知らないのですが、人も獣も居なくなった都に、人間では只一人棲み続けて母を産み落としたのだそうです」「気が狂った?何があったのだ?」「コモリオムを滅ぼしたクニガティン・ザウムに犯されたのです。その女は無謀にも自分の魔法でクニガティン・ザウムを打ち倒そうとして叶わず、わたくしの母を身篭る事になってしまったのです。でも、その結果、彼女はスファトリクルルプの寵愛を受けその信者となりました。そして無人となったコモリオムで生きる事を許され、ヴーアミたちに依って生かされたのです」「待て。ヴーアミと言うのは霊長類とは異なる二足歩行の生き物たちだったな?女神スファトリクルルプを祖先に持つと言われている原始的な亜人類と言われている生き物たちだな?」「そうです。そしてヴーアミの一人と女神が交わった事でクニガティン・ザウムが生まれました。つまり、彼に犯されて発狂した女魔道士は、女神スファトリクルルプにとって義理の娘そのものなのです。そしてコモリオム最後の生き残りの狂女が産んだ娘、すなわち、わたくしの母ズーダラこそは今や神としてヴーアミたちから崇められるクニガティン・ザウムの娘、女神スファトリクルルプの孫なのです」「しかし判らん。都を滅ぼしたクニガティン・ザウムが、どうしてその女だけを犯したのか?」「いえ、クニガティン・ザウムが犯した女は他にも沢山居ました。ただ、他の女たちは犯された際、耐え切れずに死んでしまい、その女だけが心を失った代わりに生き延びたのです」「ではズーダラの弟のジロベンと言うのは何者だ?矢張りクニガティン・ザウムの子供なのか?」「いいえ。クニガティン・ザウムではなくて、只のヴーアミだったようです。それでも彼は母親の資質を一応受け継いだようですが、我が母ズーダラ程では無かったようです。我が母は女神の孫としての力も備えていましたから」「そのズーダラがどうしてヨグ・ソトースの子を産んだのだ?」「人類とは何者かご存知ですか?」その言葉は少佐の不意を突いたらしかった。少佐は眼を丸くして口を閉ざした。「人類はその昔、地球に移住して来たある種族が作り出した生物の子孫です。でも、その人類の中にエルダー・ゴッドの何体かが関わり、彼等の霊的子孫としました。でも、父の血を受けた者がエルダー・ゴッドたちの霊的子孫と交わればその霊的血統は途絶え、代わって父の霊的血統となるのです」「行く行くはヨグ・ソトースの霊的血統で地球を満たそうと言う訳か」少佐がそう言った時だった。「馬鹿な!」叫んで立ち上がったのは大木中尉だった。「大和!聞いたか?お前はそのために利用されようとしているのだぞ!」大木中尉は上空に浮かぶヨグ・ソトースを指差して、「君が、君自身の存在が、今、あの化け物の子孫を増やす一助になろうとしているのだぞ!」と叫んだ。そして、ツカツカと小夜子に歩み寄ると、「さあ、化け物、お前の正体を大和に見せてやるのだ!」と言い、彼女の衣に素早く手をかけた。小夜子は素早く身を翻して逃れたものの、衣は大木中尉の手に残され、肌が透けて見える薄絹一枚の姿になってしまった。「ほう。用意が良いな。ここで、お前の父の前で大和と契る積りだったのだな。ならば、向こうを向け。大和に見せてやれ。お前の正体をな!」そう言うと大木は拳銃を取り出して立ち尽くす小夜子に狙いを付けた。
 上空に稲妻が走った。虹色の稲妻が。色彩が明滅し、辺りは昼間とは違った明るさに染められていた。
 「アアッ!」と小夜子が切なげな声を漏らして身をよじる。ヨグ・ソトースの力に血のざわめきを抑えられないのに違いない。
不意に何か細長い物が地表近くを疾走すると、大木中尉の手を叩いた。大木は悲鳴を上げると銃を取り落としたが、素早く懐から短刀を抜き出すと、おのれを襲った細長い物に斬り付けた。途端に小夜子が苦痛の呻きを発する。同時に似た物が別方向から大木中尉に遅いかかったが、大木中尉は短刀を横薙ぎにして打ち払う。「大和!良く見ろ!」大木中尉が叫んでいる。だが、言われなくても三郎にもはっきり見えていた。大木と戦っている物は、最初に雲の中から出現したヨグ・ソトースの稲妻を想わせる形の器官とまるで同じ形をしていた。そして、それは小夜子の尻から生えていたのだ。獣じみたふさふさした体毛を割って尻尾のように尻から二本の触手が生えていたのだ。薄絹越しに、その様子がはっきり見て取れた。
「小夜子さん・・・!」三郎は想わず小夜子の名を呼んでいた。今にして想えば昼島の真願寺の敷地内にある露天風呂であった時、小夜子が前よりも後ろを隠そうとしていた理由は、おのれの人と異なる肉体的特徴を知られたくなかったからなのだ。奇怪な体毛と異次元の父譲りの器官を見られまいとしていたのだ。
三郎の声に、一瞬だけ小夜子が動きを止めた。その一瞬の間に大木中尉は落とした拳銃を拾い上げると必殺の銃弾を放っていた。「死ね!化け物!」「大木!やめろ!」大木中尉の声と三郎の声、それに銃声が重なった。
「お前は・・・」引き金を引いた大木中尉の正面に居たのは昼子だった。一瞬の間に射線に割り込んだ昼子の額に弾丸は命中していた。だが、昼子は倒れなかった。威力の弱い小型の南部式とは言え、流石に額に真っ直ぐ命中していればひとたまりも無い筈だった。だが、額に穴を穿たれた昼子は直立し、真っ直ぐに大木中尉を見据えていた。額の中央の穴から弾丸がゆっくりと押し出され地に落ちた。「お前も化け物!」悲鳴のような声を上げて大木中尉が続けざまに弾丸を放つ。弾丸は全て昼子の頭部に命中した。だが、次の瞬間、大木の身体は地に崩れ落ちた。昼子の左手の先が大木中尉の腹部を貫いていた。昼子の左手は細長い槍を想わせる形に変わっていた。弾丸を受けて穴だらけの顔は虹色に輝くと黒っぽい粘液状に溶けて再び昼子の顔を形成し始めた。テケリ・リ、テケリ・リ・・・新しく出来てきた昼子の顔から鳥のさえずるような音が漏れる。駆け寄った三郎が大木中尉を抱き起こすと、既に事切れていた。
「昼子さん、君はショゴスだったのか?」三郎が愕然として問うと、「はい」と昼子は頷く。そして、昼子は眼を開いた。「その眼は・・・?」昼子の眼は金色をしていた。瞳に当たる部分は無く、そこは昆虫を想わせる複眼になっていた。「こちらの眼の方が使い勝手が良いのですが、こちらの眼の作り方を憶えたら、人の眼を上手く作れなくなってしまったのです。それで、眼を瞑って盲目のフリをしていたのです」「本物の昼子さんはどうした?」「昼子と言う人間は存在していません」「だが、だが、君は人間だった!肌も柔らかく心もあった!」
テケリ・リ、テケリ・リ・・・と言うさえずりが周囲からしていた。見ると、昼子の他の姉妹たちが、五人がショゴスのさえずりを奏でていた。薫子と明男も驚愕の表情を浮かべている。
「成る程。姉妹全員ショゴスだったと言う訳か」少佐が呟く。すると昼子は少佐の方に向き直り、女王のような威厳をもって「わたくしは第一世代のショゴスです。この姿は、かつて、巫女としてわたくしに仕えた娘のものです」と語った。「第一世代?君たちショゴスは一体何者なのだ?」少佐の問いに昼子は答えた。自分たちは、かつて人類を誕生させるに至った異星種族がその前に作った可変種族なのだと。もともと擬似知性しか与えられていなかったが本物の知性を獲得し叛乱を起こしたのだと。その後、ショゴスたちは主にグレート・オールド・ワンに仕えるようになったが、一部のショゴスたちは独立して地球の各地に散った。昼子もそうしたショゴスの一体だったのだ。年経たショゴスたちの中には人格を形成する者たちもおり、蛇の進化した生物たちと付き合い、後、エイボンやズーダラの居た大陸で人間たちと付き合った昼子は心らしきものを形成するに至った。この時点で昼子はまだ固有の名前を持っていなかった。ショゴス同士はテレパシーで交信するので、わざわざ特定の周波で空気を振動させて個体を区別する必要が無かったのだ。いや、人と付き合いながらも、暫くは、昼子も人が個体を区別するやり方と言うものを知らなかったのだ。
昼子が日本に来たのは二千年近く昔の事だったらしい。まだ、本来の姿のままで居た頃の話だと言う。海底でたまたま朽ちかけたエルダー・サインを見かけて好奇心から近付いた昼子は、修復に来たエルダー・ゴッドたちから攻撃を受け、傷付いてこの国に流れ着いたのだった。だが、この国で昼子は歓迎を受けた。浜に打ち上げられた昼子を見付けた人々にとって、浜に流れ着くものは全て有難いものなのだと言う事を、昼子はその時、知った。そして人々は、これといった形を持たず、しかし明らかにおのれの意思をもって動く物体を、実に珍しく有難いものだとして神として祀ったのだ。蛭子と呼んで。
「まさか・・・!」そこ迄、話を聞いて少佐は見る見る蒼ざめて行った。「我々が蛭子と呼んでいたのが君の事だと言うのか?日本全国の蛭子神社で祀られているのが君の事だと?」「はい、そうです」「では、君の姉妹たちは何なのだ?」「姉と呼んでいる二人は人間の心が入っています。朝子はズーダラの弟子だった女性の心をまだ擬似知性しか持っていなかった若いショゴスに複写したものですが、完璧ではなく、人格に偏りが出来てしまいました。曙子は彼女自身が死に際して心を転写したものですが、死にかけた心を移したせいか、気力といったものが一切失われた人格になってしまいました。妹たちは、後になってこの国に流れ着いた第二世代のショゴスたちです。知性はありますが、人格がまだ完全に形成されていません。それでも肉の悦びを得られる程には心も感覚も発達しています」
「だが、君の身体は柔らかかった。温かみもあった。何故だ?」三郎は、そこが納得出来ていなかった。
「三郎さんが最初に知ったショゴスたちは、まだ変身が上手く出来ないショゴスたちだったのです。それに人格もまだ出来ていません。見たところ、お志世だけはあと何年かすれば擬似人格と呼べる程度のものは備わるかも知れませんが、それでも肌を重ね合わせても正体が知られない程度に変身出来るには相当の年月がかかります」「僕に抱かれたのは何の為だ?」「最初に抱かれたのは、単に客人に対するお役目だったからです。でも、三郎さまの抱き方が優しくて気持ちが良くて、一回だけでやめにしたく無くなってしまったのです」「待ってくれ。君たちはショゴスだ。ショゴスが人のように快楽に溺れると言うのか?」「感覚が発達すればそうなります。酒や鴉片の味を覚えれば人で言う中毒患者のようになるショゴスも居るでしょう。肉の交わりについては、ショゴスは妊娠する事がありませんし、肉体の交合程度で疲弊する事もありません。又、人が耐え切れない程の快感をも受容出来ます。それで我々姉妹の場合、クセになってしまっているのです」
「色情狂のショゴス共と言う訳か」そう言う少佐の顔には嫌悪の表情が貼り付いていた。すると昼子は少佐に向かって「今も言いましたが、我々ショゴスは疲れを知らず、忘却能力が無いので一度学んだ技巧は完璧に使いこなせますし、人には不可能な体位も取れます。代々のお館様の中には人よりショゴスの方が良いと言って下さる方もおられました。試してみられますか?」と言う。だが、少佐は嫌悪の色を増々濃くしただけで何も答えようとしなかった。
「お待ち!代々のお館様はお前たちの正体を知っていたと言うのかい?」それ迄、呆然とやりとりを聞いていた薫子が口を挟むと昼子は薫子の方を見て、「はい。小夜子様とお館様だけが知っておいででした」それから小夜子の方を向いて、「小夜子様、小夜子様が血のざわめきを感じておられぬ間は、三郎さまの相手をさせて頂きたく存じます」と気軽な感じで言う。「良いわ。わたくしにとって、あなたは母のようでもあり姉のようでもある存在。構いませんよ」と小夜子が答えるのを聞いて、想わず三郎は、僕は物や(*)女じゃないぞと想ったが、何故だか嫌悪感のようなものは感じられず、そんなおのれの反応に愕然としてしまった。これもクアックスズアッラに脳を変えられてしまったせいなのか・・・
「待て」そう小夜子に言ったのは少佐だった。「今の、母のようでもあり姉のようでもあり、と言うのは何の事なのだ?」「母がわたくしを産み落とした時、わたくしを取り上げ、育ててくれたのが彼女だったのです。当時は母に変身し、母が表に居る間はわたくしの面倒を見てくれ、母がわたくしの面倒を見ている時には雑用をしてくれていたのです。わたくしがこの国に来た時も、わたくしを見つけてここへ招いてくれたのです」「ここと言うのは、つまりこの島の事なのか?」「いえ、今の鍵守神社です。元々あそこには何も無くて、少し下の洞窟の中に蛭子神社があったのです。皆さんが、海岸へ降りる時に通った螺旋の通路の入口の所にあったのです。今は鍵守神社に合祀されていますが、鍵守神社が創建される前はあそこに小さな社があったのです」言いながら、小夜子は辛うじて身体に貼り付いていた薄絹を肩から滑らせるように脱ぎ捨てていた。美しく淫らな裸身が妖しく三郎を誘っている。「さあ、三郎さま。夫として、わたくしを抱いて下さいませ」今では小夜子の肉体的特長は明らかだった。白く美しい肌に覆われているが、股間を覆う体毛がそのまま尻を覆い尽くし、そこから二本の触手が延びている。それだけではない。父親の出現で肉体の各部に眠る血が覚醒したのか、脇腹に鱗のようなものが見られ、乳房のすぐ下の辺りには刺青のような模様が浮かび上がり、しかも虹色の輝きを放っていた。ショゴスの輝きとは異なる色彩で、ヨグ・ソトースの放つ光にそっくりだった。
半ば人であって人でないものに変貌しつつある小夜子は、一歩、又、一歩と三郎に迫って来ていた。


* この時代、女性に人権は無く、こういう見方をする男も当時としては珍しくなく、決して三郎が特異な差別論者であった訳ではない。

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