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クトゥルー神話創作小説同盟コミュの「彼方から」投稿作品『夢の闇からくるもの』

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一月十五日

今朝から夢日記をつけることにする。なぜならば、ここ毎晩、同じ夢を見続けているからだ。その夢は実に単調で、極めて不快である。毎晩うなされたり、汗まみれになって飛び起きたりするような、怪奇映画にごくありがちな強烈な悪夢ではない。しかしその夢から得られる印象には、邪悪と言えうにも足りぬ、名状しがたいものがあり、それが私を恐怖させ、起きがけに寒気を感じるほど不快にさせる点では、悪夢と言えるだろう。夢の内容はこうだ。
私はどこかの施設内と思しき、暗く、窓すら無い、そして狭い廊下に一人佇んでいる。無機質なリノリウムの床が、私の視線の先にどこまでも続き、奥は深い闇の中へと消えていて、窺い知ることは出来ない。そして夢の中で私は、その闇を目が覚めるまで、いつまでもじっと見つめているのだ。
最初に見たときから、今朝に至っても何ら内容に変化は見られない。ならば日記などつけても、無意味だと思われるかもしれない。しかし、だからこそどのような些細な変化も書き留めておきたいのだ。


一月十六日

 思っても見ないことが起こった。わずかではあるが、早速夢に変化が現れたのだ。まるで私が日記をつけだすのを待っていたかのようだ。
 夢の中で私は、やはりいつものように、廊下の先に口を開ける闇を凝視していた。
しかし私はその闇の中に、姿こそ見えないものの、何ものかの確かな気配を感じたのだ。その気配は闇の奥の奥に佇みながら、まるで鏡の中の自分のように、じっと私の方を見つめているようだった。
「深き闇を覗き込むときは気をつけよ。我々が深淵を覗き込むとき、闇もまた我々を覗き込んでいるのだ」とはニーチェの言葉だったか。正に闇に見つめられている気分だった。あの気配の主が、人間なのか動物なのかはわからない。今後、さらに夢の内容が進行すれば、いずれその正体がわかるだろうか。


一月十七日

 また少しではあるが、夢の内容に進展か見えた。闇の中の気配がさらに強くなったのだ。しかし、まだ何者かはわからない。相変わらず、闇の中から私を凝視し続けていた。


一月十八日

 また内容が進行した。闇の中の気配が、なにかを呟き始めた。低い声で際限なく、呪文のようなものを繰り返し唱えているようだった。声が小さすぎて内容までは聞き取れなかった。夢の内容がさらに進行すれば、これもいずれは聞き取れるようになるだろうか。


一月二十日

 再び、以前に飽きるほど見た、闇を見つめるだけの夢に戻ってしまった。もちろん、あの闇の中の気配はどこにもいなかった。
もしかすると、昨日は夢日記を書かなかったことと、なにか関係があるのだろうか。昨日は朝から多忙で、日記を書くだけの時間が無く、さらには一日中日記の存在を忘れたまま、夜には寝入ってしまったのだ。


一月二十一日

どうやら、夢日記を書くことと、夢の進展には関係があるようだ。なぜならば、今朝見た夢の内容は、一昨日の朝にこの日記に書くべき内容だったからだ。
夢の中に、あの気配が戻った。そして遂に、闇の中の気配が動き出した。相変わらず、ぶつぶつと呪文のようなものを呟きながら、ゆっくりとではあるが、私の方に向かって歩いてきたのだ。しかし深い闇に阻まれて、その姿はまだ影すらも見えない。


一月二十三日

 やはり、闇を見つめるだけの夢を見た。今度は意図的に日記を書かずにおいたのだ。


一月二十四日

 まだ影すら見えないが、闇の中の気配が近づいてきている。呟きごとも、幾分聞こえるようになってきた。しかし内容までは、まだわからない。
これは二十一日に見たのと同じように、一昨日見たのと同じ内容だ。これではっきりした。この夢は、その日見た内容を書き記すことによって進行し、書かなければ延々と、ただ闇を凝視するだけの夢を見続けることになるのだ。はたしてこれはいかなる夢なのだろうか。この夢の内容が最後に辿り着くと、一体何が起こるのだろうか。


一月二十五日

 闇の中の気配がさらに近づいた。闇はどこまで深いのだろう。未だ近づいてくる者の影すら見えない。声もさらに聞こえるようになった。明日あたりには内容もわかるかもしれない。


一月二十六日

 気配が呟いているものが、はっきりと聞き取れた。言葉がわからないため、詳しい内容までは理解できない。しかし、やはりなにかの呪文らしい。はっきりと憶えている。こう繰り返し呟いていた。

「さりゅう さいる むがんむずう いがーふたぐん けうあーふあ ちゅるくたるえむる くとぅるう ふたぐん いあ いあ あーとぅーむ いあ いあ あーとぅーむ」

 はたしてどういう意味なのだろうか。


一月二十七日

 闇の中の気配がさらに近づき、わずかではあえるが、とうとうその影が見えだした。どうやら人のようだ。私よりも一回り大柄だ。闇の中でふらふらと歩くのだけが見えた。


一月二十八日

 さりう さいる むがるむずく いがーふたぐん けうあいふあ
 しゅるくたるえるむ くとぅるふ ふたぐん
 いあ いあ あーとぅ・おーむ
 いあ いあ あーとぅ・おーむ

 今朝起きると、上の呪文が既に日記に書かれていた。私が書いたのだろうか。全く憶えが無い。寝ている間に書いたのかもしれない。一昨日書いたものと、細部が違うが一体どういうことなのだろう。
 今朝の夢の中で、この呪文がより鮮明に聞こえたのと、なにか関係があるのだろうか。


一月二十九日

 人ではない。あれは人ではない。手も脚も顔さえも人にあるべき姿ではない。まるでヘドロが人の形を成したかのようだ。グニャグニャとゴム人形が歩くように動きで私の方へ迫ってくる。


一月三十日

 化け物の姿が鮮明になってきた。筆舌つくしがたい吐き気を催すような姿だ。絶えず流動する粘液で身体が構成されているようだ。人の形を成したりくずれたりしながら、こちらへ向かってくる。


一月三十一日

 化け物との距離はもう十メートルもないだろう。やつはもはや完全に人の形を成していない。代わりに無数の触腕を伸ばして私に触れようとしている。まだ少しは距離がある。これ以上夢を見れば私はどうなってしまうかわからない。今日を最後にこの日記を書くことを止める。また際限なく闇を見続けることになるだろうがそれでも構わない。


二月三日

 さりう さいる むがるむずく いがーふたぐん けうあいふあ
 しゅるくたるえるむ くとぅるふ ふたぐん
 いあ いあ あーとぅ・おーむ
 いあ いあ あーとぅ・おーむ

 夢を解放せよ
 解放された夢を受け取り そして再び解放せよ
 偉大なるアートゥ・オームに夢を捧げよ

コメント(1)

締め切りから一ヶ月以上たっての投稿、誠に申し訳ありません。
大学の文芸サークルの方で手一杯になっていたため、なかなか手をつけられずにいたのが理由です。

「彼方」にいる異形の者に、じわりじわりと距離を縮めて来られるのが面白いだろうと思ってかきました。「彼方から」というキーワードを、かなりセコイ感じで使ってる感はありますが・・・

ちなみに「アートゥ・オーム」や作中で「呪文」と述べている文章は私のオリジナルです。当初は、「黄衣の王」か「ナイアルラトホテップ」を使おうと思ってましたが、どちらもピンとこなかったので、急遽つくりました。オリジナルに不快感をもたれる方にはすみません。

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