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クトゥルー神話創作小説同盟コミュの連作小説:戦え!ハスター1 第五話「死霊」

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「ユウキさん、ユウキさん」誰かが祐樹のことを呼んでいた。
 その声のおかげで、彼は目覚めることができた。
 彼はとても恐ろしい悪夢を見ていた。目覚めた途端にそれがどんな夢だったのか忘れてしまった。ただ、途轍もない恐怖の印象だけが心に残っていた。
 目を開けると、とても眩しかった。明かりに慣れてくると、目の前に小さな人影があるのがわかった。
「きみは?」祐樹は言った。
 長い黒髪に大きな瞳の子供だった。彼ははじめそれが女の子かと思った。
「ぼくの名はデミアン。ルゥ・デミアンです」と自己紹介するのを聞いて、ああ少年なのかと理解した。
「ぼくを呼んでくれたね」
「ええ、悪夢にうなされていたでしょう」
「うん、助かったよ。でも、どうして……、いや、ここは……?」
「ここは病院ですよ。《オリオン》本部の中の」
「そうか、ぼくは……」
 彼は思い出した。彼はヨグ=ソトースの球体と呼ばれるものに飲み込まれ、そこで恐ろしいものを見たのだった。
「あなたも、あれを見たんですね」ルゥ・デミアンは言った。
「あれをって。きみ、わかるのかい?」
「ええ、ぼくも見ました。たぶん、同じものを……。だからわかったんです。きっと今ごろ恐ろしい夢を見ているだろうなって」
「それで……。でも、きみはいったい……?」
「水でも飲みますか?」少年はサイドテーブルの上の水差しを取った。 
「ん、ああ」そう言われれば、ひどくのどが渇いていた。
 祐樹は少年がコップに注いでくれた水を飲んだ。何だかやっと落ち着いた気分になった。
 時計を見ると3時を少し廻ったところだった。窓の外は夜だった。
「ねえ、きみはどうしてこんな時間に、こんなところにいるんだい?」
「だから言ったでしょう。怖い夢を見ているだろうからって」
「そのために……わざわざ……」
「そうですよ。それと、ハスター1のパイロットの顔を見ておきたいってこともありましたけど」
「えっ、きみは……、どうしてそんなことを?」
「そんなことより、今はゆっくり眠ってください。だいじょうぶ、もうきっと悪夢は見ませんよ」
 そう言うと、少年はドアの方へ歩み寄り、明かりを消して部屋から出て行ってしまった。


「ルゥ・デミアンがここへ来たの?」霧島冴子が言った。
「ええ」祐樹はベッドの上で上半身を起こして答えた。
 少年が言ったとおり、あれから彼は悪夢を見ることもなくぐっすりと眠れた。
「何者なんですか。あの子は?」祐樹は尋ねた。
「それは……、今はまだ言えないわ。いずれ正式に紹介するけど」というのが冴子の答えだった。
 朝になって祐樹は精神科医による診察を受けさせられた。一応のところ異常がないことが確認されると、彼女はやってきた。
 祐樹の家族にはアルバイト先で具合が悪くなり、一晩泊まっていくと連絡したと知らされた。電話に出た母親は、音響によるサブリミナル・コントロールで心配もせず納得しているとのことだった。
「無理しなくていいから、思い出せることを話して」冴子は昨日の彼の体験について聞き出そうとした。
 このとき祐樹が知ったのは、ハスター1があの球体に飲み込まれたのは、祐樹ひとりの幻覚であり、客観的にはその間ハスター1は巨大な球体を支えて空中で静止し続けていたということだった。
 彼はその幻覚の内容を冴子に話した。
 学校の教室、赤い空、鳴り出した電話。そしてその声の主、体育教師の熊田が言った言葉。「窓の外を見ろ」と。
 祐樹はそこで言葉を切った。その時見た光景を思い出すと身体が震えだした。
「何を、あなたは何を見たの?」冴子が尋ねた。
「あれは……、一言では……とても、とても恐ろしいとしか……。あれは、地獄の風景……、あるいは何か歴史のようなものだったのかも……」 
「歴史?」
「ええ、宇宙の歴史というか、宇宙的な恐怖の……」
「それはつまり『神話』ということかしら?」
「神話……?」
 祐樹はなぜ彼女が急にその言葉を持ち出したのかわからず戸惑ったが、そう言われるとそれがぴったりという気がした。つまり彼が目にしたのは神々の姿だったのだ。だとすればそれは忌まわしき邪神と呼ばれるべき存在だった。邪神に支配された宇宙の歴史を彼は見たのだった。それは一瞬の出来事のようでもあり、同時にそれは無限の時間でもあった。彼の悪夢の中にはそれがくりかえし再来していたのだった。
 今にして思えば、あの時、あの少年ルゥ・デミアンが彼を呼んでくれなければ、彼は狂気の淵から二度と目覚められなかったのかもしれなかった。


 それから、何事もなく一ヶ月ほどが過ぎた。
 夏休みもそろそろ終わりという頃、祐樹とユリカは相変わらず戦闘訓練を続けていた。
 ヨグ=ソトースを撃退したことで、もう当分の間アウトサイダーの襲来はないだろうと弥生は言っていた。《ネクロノミコン》の出すデータもその予測を裏付けていた。
 そのこともあって、祐樹は間もなくハスター1のパイロットを解任される予定だと告げられていた。
 解任の理由はもう一つあった。間もなく量産を前提とした新型機ハスター2.0がアメリカから送られ、それとともに新しいパイロットもやって来るのだった。
 その日の午後、新型機はパイロットとともに横須賀米軍基地から、この《オリオン》本部に到着することになっていた。受領を確認した後、祐樹は正式に任務を解かれるとのことだった。
 祐樹はこれでもう気が狂うか、死ぬかという極限的な戦闘に参加しなくてすむと思うとほっとした。だがその半面、ハスター1の機体には愛着を感じ始めていたし、何よりユリカを残して自分だけがこの基地を去ることには割り切れない思いがあった。
 なぜユリカだけが任務続行なのか疑問に思ったが、臨時雇い的な祐樹とは扱いが違うらしかった。
 ユリカと祐樹は司令部で待機していた。
 弥生が新しいパイロットの資料を持ってきた。
「祐樹くんはもう彼と会っているのよね」彼女は言った。
 渡された写真を見ると、それはあのルゥ・デミアンだった。彼はまだ14歳の少年なのだった。
「あの時、彼はちょうど指令にあいさつに来ていて、あなたたちの戦闘を見ていたのよ」
「でも、まだ14歳で、こんな危険なことを……」
「それは仕方がないのよ。彼はひじょうに優れたの過視能力の持ち主で、アメリカで訓練も積んでるわ。それにアウトサイダーの襲来も当分は無さそうだし、機体の性能も上がってる。祐樹くんが体験したほどの危険はもう無いと思うわ」
 突然、オペレーターが声を上げた。「横須賀基地より緊急連絡です」
「何だ」塔の上から鳴海司令が問い返した。
「基地内で原因不明の大規模な爆発が発生。ハスター2.0およびパイロットの所在不明」
「一体何が?」弥生が言った。
「まさか……、アウトサイダーが」冴子が呟いた。
「どうして《ネクロノミコン》のデータでは……」
「予測は完全ではないわ」
 鳴海司令は指を組み無言で考え込んでいた。
 その時「テケリ=リ、テケリ=リ」という警報が鳴り響いた。
「第二パーティにアウトサイダー現出。タイプ〈スペクター〉です」オペレーターが叫んだ。
「星野祐樹くん」鳴海司令が呼びかけた。「どうやら、もうひと働きしてもらわねばならないようだ」
「はい」祐樹は答えた。
「二人とも、格納庫へ」弥生が指示した。
 祐樹とユリカは走って司令部を出た。


 ハスター0はマグナム44イノミナンダムを、ハスター1はロイガー突撃銃を装備して出撃した。両機はならんで地上に出た。
 遠くに巨人のような黒い影が見えた。モニターの画像を拡大した。
「あっ、あれはっ」祐樹は思わず声を上げた。
 それは、ハスター1とほぼ同じ機体だった。だがダーク・グレーとネーヴィー・ブルーのカラーリングを施されているため印象はかなり違った。
「あれは、ハスター2.0じゃないんですか」祐樹は通信機に呼びかけた。
「そう、でも反応は確かにアウトサイダーのものよ。油断しないで」
「で、でも。パイロットは、あれにはルゥ・デミアンが……?」
「落ち着いて祐樹くん。外見に惑わされてはだめ。ユリカ、前衛に出て。祐樹くんは援護を」
「はい」ユリカの声は冷静だった。
 ハスター0はマグナム44イノミナンダムを構えて前進した。
 祐樹もハスター1にロイガー突撃銃をいつでも射撃できる体勢をとらせた。
 スペクターはゆっくりと前進をつづけていた。
 ハスター0が接近すると、弥生が指示を出した。「ユリカ、脚を狙って」
「了解」
 ユリカは答えて、マグナムを連射した。
 二発の銃弾がスペクターの大腿部に命中した。貫通した装甲から青い液体が噴き出した。
 スペクターはそれでも、まるでダメージを受けた様子も無く跳躍し、一気にハスター0との間合いを詰めた。
 着地直後、回し蹴りでハスター0のマグナムを弾き飛ばした。
「祐樹くん、撃って」弥生が叫んだ。
 ハスター1は格闘するスペクターの背にロイガー突撃銃の照準をさだめた。
 だが、まだ彼はトリガーを引くことにためらいがあった。その時、モニターに新たな画像が表示された。ハスター2.0から送信されたものだった。
 そこに映し出されたのは、何かに憑かれたような表情で必死に操縦桿をあやつっている少年の姿だった。
「ルゥ・デミアン……、弥生さんっ、この映像は……、やっぱりあれにはパイロットが」
「祐樹くん惑わされないで。これは敵の心理攻撃よ。彼はもう、人間ではないのよ」
「そんなこと言ったって……」
「撃つのよ。このままではユリカが危険だわ」
「でも……あの時、彼が呼んでくれなければ、ぼくは……」
 ハスター0はほとんど一方的にスペクターに殴られ続けていた。
「うっ、く、くうぅぅくっ」祐樹はうめき声を上げた。
 ハスター1がロイガー突撃銃を投げ捨てた。
「祐樹くん、落ち着いて。何をする気なの」
「ぅうわあぁぁぁぁぁあ」祐樹は叫んだ。
 ハスター1は走り出した。スペクターに接近して、その頭部に殴りかかった。
「祐樹くん、だめよ。格闘戦では敵のほうが……」もう、弥生の指示は祐樹の耳にはまったく届いていなかった。
 スペクターはハスター0を突き放し、ハスター1へ向かってきた。
 ボディ・ブロウがハスター1を襲った。
 パワーの差は圧倒的だった。ハスター1は敵の攻撃をブロックするだけで精一杯だった。
 パンチが決まるたびにモニターにノイズが走り、敵の姿をまともに見ることすら困難だった。
「ユリカっ、ユリカ、応答して」弥生はさかんにユリカを呼んでいた。
 ハスター0は棒立ちになったまま、動こうとしなかった。
「いったい……、何が起こっているんだ……?」祐樹は心の隅でそう思った。
 そもそも、彼はなぜ自分がこんな無謀な格闘戦を挑む気になったのか、よくわからなかっていなかった。
 その時、変化が起こった。
 ハスター0は獣のような前かがみの姿勢をとった。全身が痙攣したように震えだした。その直後、すべての装甲がいっせいに弾け飛んだ。
 装甲の下から現れたのは、生白い異様な怪物だった。それは人間の身体の胸から上に魚の頭部を継ぎ足したような悍ましい姿をしていた。
「な、何なんだ。なんであんなものが、ハスターの中に……」祐樹は言った。
 見ているだけで吐き気を催してきた。
 スペクターは攻撃をやめ怪物の方を向いた。
「ギイイィィィィィ」という叫び声を上げた。そしてそのグレーの機体もまた全身を震わせ、すべての装甲を脱ぎ捨てた。
 それは、人型をした、黒くぬらぬらと光った蛞蝓のような怪物だった。
 向き合った白い怪物と黒い怪物は、それぞれ突進し、ぶつかり合うと、絡み合うように乱闘をはじめた。
「な……、何なんだよ、これは……」祐樹は呆然とつぶやいた。
 通信回線を通して司令部での会話が聞こえた。「どういうことなの冴子。あれは……、ハスターはロボットではなかったの?」問い詰めるように弥生は言った。
「そう、あれはロボットというよりはサイボーグなのよ。本当の名は、ディープ1というの」
「ディープ……ワン……」
 祐樹は自分の身体が震え出すのを感じた。
 ヨグ=ソトースの球体の中で幻視した、あの地獄の光景、冴子が神話と呼んだ恐怖の宇宙史が、ありありと脳裏によみがえってきた。そして同時に彼を悪夢から救ってくれたルゥ・デミアンのことを思い出した。
「うう、うぐぅ……」
 そのうち彼は震えているのは自分の身体だけではないことに気づいた。ハスター1の機体が激しく震動しているのだった。
「まっ、まさか……」
 装甲が弾け飛ぶのが見えた。地面の水溜りに影が映っていた。それを見て彼は、ハスター1もまた白い魚の頭部を持った怪物へと変貌したことが解った。
「うわあぁぁぁぁぁぁあぁ」彼は叫び声を上げた。
 祐樹の白い怪物はもはやコントロールを受け付けず、勝手に暴走していた。
 そして黒い怪物につかみかかると、魚の頭部でその肩の皮膚に咬みついた。
「ギイイイィィィィィイ」怪物が絶叫した。
 押さえつけられていたユリカの怪物も自由になって、黒い怪物のわき腹に喰らいついた。
 白い怪物は二体で力をあわせて黒い怪物を圧倒した。
「アウトサイダーを……喰ってる……」弥生の声が聞こえた。
 二体の怪物はその魚のような頭を寄せ合って、黒い怪物の全身を貪りつづけていた。
「《インスマウス計画》……、いよいよはじまりですね。指令」冴子が言った。
「ああ、すべてはこれからだ」

(つづく)

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