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エッセイストコミュの『釣り師の手は縛っておけ・・・』〜少年は大山椒魚を語った〜

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『釣り師の手は縛っておけ・・・』〜少年は大山椒魚を語った〜

わたしは友と岐阜にいた。

ふたりでの長い釣行でここに立ち寄ったのだ。
おりしも、その街のというか村の公会堂では、有名でもの書きで世界を釣り歩いている男の講演
が行われていた。

『寄ってみるか・・・』
『いや、いいさ・・・どっちみち・・・・』
『そうだな』

同じ思いであった。

ふたりは釣りをはじめた。
あまりにも天気が良く、ドライフライ(水面に浮かべる疑似餌)には出ないなあ、とわたしは思った。
それで、ニンフ(水中に沈める疑似餌)を流した。
流した先に、川の小さなスポットがあるのがわかっていて、そこがなんとなく気になっていたのだ。
2,3度流したら、竿にものすごい重さを感じた。
グイグイ、って引く。
わたしは必死にこらえ騙したがだめであった。糸がプツンと切れた。
がっかりしながらも・・・・

待てよ、これはつがいの鱒かもしれない。
もう一匹いるかもしれない。
淡い期待をもってもう一度、ニンフを結び直し、キャストした。

1回で出た。
またグイグイ引っ張る。
川の少し先でそれは頭を出した。魚種が判別できない位にわずかに。
わたしは友を呼び続けた。
しかし、川の流れの音で気が付かない。
また、読んだ。
今度は気が付いた。
友は、わたしの竿が曲がっていることに気が付き、おおっ、という顔をした。
その瞬間、竿は曲がりをやめた。
『・・・・・』

鯉かもな。友が言った。(この友は必ずこう言ってわたしを容認しなのだ)
そんな馬鹿な、ここは鯉が生きられるところではないぜ、って、わたしは憮然とした。


近くに少年がいて、石に腰掛けてルアーをいじくっている。

わたしは、少年に尋ねた。
『ねえ、ぼく。ここに鯉はいるかい』
振り向いた少年は、分厚くて大きな近眼鏡をかけていた。
『鯉はいないよ・・・』

ふいに現れたおじさんに少年は息せき切ったように言った。

『おじさん、ここは大山椒魚の生息地だよ!』
『ああ、知っているよ』
『ぼくはこの間、釣りをしようと石に座っていたんだ』
『そうしたら、その石が動き出したんだよう〜』
『ぼくは、大山椒魚の上に座っていたんだ・・・・』

話すこと話すこと。

わたしと友は少年から少し離れたところで顔を見合わせた.
友は言った。『あいつ、将来大物の釣り師になれるなあ〜』
『確かに、違いないぜ・・・』

ふたりは大きくいつまでも笑った。

公会堂では、まだ講演がつづいているようであった。
今頃、講師は、その手を広げているに違いない。
そうしてこう言っているに違いない。

『釣り師の手は縛っておけ・・・』って。

スペインを旅するあの風来坊は今アンダルシアのどのあたりで、虫を食ったようなことを言っているだろう。スペインにも大山椒魚はいるのかなあ、って思う。

確か、秋茜が飛んでいた気がする。

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