グッドラック感動のお奨め映画コミュの「赤ひげ」至高の映画

「赤ひげ」は山本周五郎原作の『赤ひげ診療譚』を基に黒澤明監督が、仲間の脚本家、井出雅人、菊島隆三・小国英雄（「椿三十郎」「天国と地獄」「隠し砦の三悪人」）らとタッグを組み、ヒューマニズム溢れる人情ドラマを作り上げた傑作映画。クリント・イーストウッド監督が黒沢作品でもっと好きな作品と云ってるが、私も生涯忘れることのできない邦画の最高作品と常に紹介しています。

　江戸時代の小石川養生所を舞台に、そこを訪れる庶民の人生模様と通称赤ひげと呼ばれる無骨な所長と御殿医を目指す青年医師の心の交流を中心に描かれる。長崎で和蘭陀医学を学んだ青年・保本登（加山雄三）は、医師見習いとしていやいや小石川養生所に住み込むことになるが、破門を望んで養生所の禁を犯してばかりいる。しかし、赤ひげの診断と医療技術の確かさ、心の病まで迫っていく姿、彼を頼る貧乏な人々の姿に次第に心を動かされていくのだった……。

「赤ひげ」 　 　(1965) 監督/脚本
「天国と地獄」 (1963) 監督/脚本 　
「椿三十郎」 　(1962) 監督/脚本
「用心棒」 　　 (1961) 監督/脚本

　この時代は「フラガール」のハワイアンセンターがオープンした時期でもあります。１９６３年にはジョン・Ｆ・ケネディが暗殺され同じ年、我らの英雄力道山も刺されて死亡。翌年は東京オリンピックが開催されます。

　多感な小学６年生だった私は「赤ひげ」を見た映画館やそのときの雰囲気まで良く覚えています。大阪・難波にあった東宝敷島映画館。先日その辺りを歩いてみましたが、当時の面影はなくケバケバしい店が建ち並び家族連れというよりは若者の街と化していました。もうじき新作の「椿三十郎」が公開されますが、オリジナル方もごらんになってみて下さい。

　映画は白黒ですが今見ても決して気になりません。若い加山の演技だけが少し神経を逆なでますが、重厚な三船の演技は他を圧倒していきます。しかし登場する脇役が皆素晴らしい。 山崎努演じる佐八（車大工）の話は切なくて切なくて。狂女を演じる香川京子も背筋が凍るような名演を見せる。心を病んだおとよを演じる二木てるみも凄い。根岸明美が演じるおくにの話は今思い出しても生々しい悲劇という他ない。幼い頭師佳孝が演じる長次を助ける為にみんなが井戸に向かって叫ぶシーンは何度見ても涙が溢れてくる。娼家の女主人を演じる杉村春子がやはり一番か。アカデミー助演女優賞バリの名演を見せる。菅井きんも左僕ト全も素晴らしい演技で映画の陰影を深めてくれます。

　圧倒する三船の重厚な演技も決して浮き出るわけでもなく、加山を除く出演者すべてが庶民の生活を存在感溢れる言動を見せる。黒沢ら４人で練りに練られた脚本はどの場面のセリフにも澱みがなく、人が生きていく切なさ・辛さを感じます。

　クリント・イーストウッドが製作・監督・出演した「ミリオンダラー・ベイビー」は、どこか「赤ひげ」を感じさせる傑作映画です。彼の念頭に「赤ひげ」が在ったように思えてなりません。脚本を書いたポール・ハギスはきっと黒沢監督らのように何度も練り直し無駄を省き、生きたセリフだけを脚本にした、そんなふうに思えます。ヒラリー・スワンク演じるマギー、モーガン・フリーマン演じるエディらが発するセリフはどのシーンでも生きていて心に響いてきます。Ｃ・イーストウッド監督作品ではベストだと私は思います。その映画に「赤ひげ」を感じることがまた個人的にうれしく思います。この映画も絶対のお奨め作品です。

　少し脱線しましたが、養生所で加山演じる青年医師が、赤ひげから心を病んだ少女を任され必死で治療していく中で、経験の乏しい自分の慢心に気づきだします。この辺りが映画の真骨頂と云えます。

　人は自分の位置が見えないのです。だから願望や夢があってもその道のりは見えては来ない。夢や目標などない方が楽に生きられるのかもしれない。しかし人は８０年の人生を少しでも意義あるものとしたい。ここに人間の苦悩が生じる。鳥や獣のように潔く死ねない理由はここにある。

　幼い時、映画「赤ひげ」を見た私は、初めて自分自身を省みたような気がします。あれから４０年以上が経ち、いっこうに大人になれない自分を感じながら改めて人々の想いや欲望や夢や目標を考えています。その後山本周五郎全集を読んで情が人を動かしていることを知り今その切なさを実感しています。

　私がお奨めする邦画ＮＯ．１の映画が「赤ひげ」です。３時間の長編ドラマですが、是非一度ご鑑賞してみて下さい。