映画が好きコミュの「春との旅」

日本映画の真骨頂ここにあり　みたいな素晴らしい邦画の一編であります

監督の小林政広は国際的にちょっと名の知れたお方で　作品も一筋縄では行かないかなり深刻な真っ黒な映画を作って･･･犯罪の加害者と被害者が恋仲になる「愛の予感」や　中東の危険地帯で拉致され開放された女が帰国して世間から非難される「バッシング」と･･･

けど本作は真っ直ぐな一筋縄の解りやすい家族間の問題点を取り上げたロードムービで　勝手気ままに生きてきた男が老いを感じ出して身内に助けを求めてさまようサマを描き･･･

彼は北海道の増毛のニシン漁で昔は大いに稼いだが今は寂れた小屋に孫娘の春と暮らし　孫娘の母親で彼の娘は離婚して自殺した為の同居ながら　１９歳になる孫は勤め先の学校で給食作ってたが廃校になった為に失業して　彼が居れば都会へも出られない孫を不憫に思いだして･･･

彼は突然ボロ家を畳んで旅に出ると宣言してビッコひきながらさっさと出掛け　その後をＯ脚の蟹股でこれまたがさつな歩行で追っかける孫娘で･･･

彼が最初尋ねるのは裕福な兄だが　今は何の実権もないと体よく断られ　帰り際に実は夫婦で老人ホーム行きが決ってると寂しげに云って･･･

彼が次に行くのは気の合うやんちゃな弟だが行方知れずで　やっと見つけた内縁の妻から刑務所に入ってまだまだ出て来れないと聞かされて･･･

彼はやるせない気持ちで苦手な姉の旅館を訪ね　やり手の女将らしくきびきび差配しながら彼にも厳しく問い詰めて　春だけなら引き取って跡継ぎにさせると言うが春は断って彼と一緒に･･･

彼は最後に仙台に居る弟を頼るが　羽振りは良さそうだが内情は火の車といって帰宅を促し　元々反りの合わなかった二人はつかみあいのケンカをはじめ　またまた北海道へと戻って･･･

春は彼の兄弟行脚に付き合った事で父親に会いたくなり　母が離婚して以来会った事のない父の牧場へ彼と一緒に行って　新しい奥さんに招き入れられ待つ間も無く父が帰り対面して　戸惑う二人を後にして彼と後妻はソット外へ･･･

春はお互いぎこちない対面の中で離婚の理由などを問い質し　気まずい沈黙が流れる中で春の知る母の浮気を確かめながら　やがてすべて曝け出した二人は憑き物が落ちたように抱き合って　外では後妻が彼にここで一緒に暮らして父親になって欲しいと頼んで･･･

これは孫娘春と一緒に春のような気分で我が家の春を求める旅で　身勝手な老人の安らかな死に場所を求めて身内に頼る甘えを　身内とてその連れ合いや家族の諸事情によって当然ながら断って　さりとて身内でない後妻による同居の申し入れを見せる事で　血の濃さに関係のない人間の善意が渦巻く嬉しい世間様を･･･

北海道の薄暗い曇天の中から一挙に変わる牧場は光り輝いて　片耳しか聞えないと言う後妻は自身の欠点を先に曝け出して　ソレによって最初からその覚悟の程を見せての態度でもあり　お互い本音で言えるほど親しくない分かすかな本音で迫っての･･･

何といってもこの映画のオモロさはサプライズの連鎖による構成で　春が金勘定しながらの貧乏旅行の中で突然に訪れる訪問先の反応眺め　それは予期せぬ訪問によって予期せぬ反応や予想どうりの反応であり　兄弟たちに接する老人や春のサプライズと共に観客もまた充分ソレを楽しんで　まさに人間ドラマの真骨頂を見せて･･･