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permamemento-mori コミュのハーフライフ

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俺は、、、、というか俺の体は、右半分だけいつも早い。例えば、髭がのびるのも、つめが伸びるのも、それに生活でも靴は右から履くし、視力は右から悪くなった。好きな彼女に触れたのも右手のほうが早かったし。だからというか、それでというか。ある日突然俺の右側は死んでしまった。

 けたたましい、目覚まし時計の音が隆を起こした。京都の大学に入学してから二年、実家は大阪の泉のほうだった隆は、親を説得してとりあえず一人暮らしをしていた。けだるい性格の隆が、学校になど行かなくてもいいと感じたのは始まって数ヵ月後の事だった。それから、この目覚まし時計はバイトという生活を豊かにしてくれる労働のため以外には使用されることはなかった。隆が体を半分起こして、目覚まし時計を止めに動かそうとしたとき、まったくもって右半分の感覚が無くなっていたことに気づいた。。
「あれ?なんだこりゃ?」
 動こうにも動けない。なんだこりゃに尽きると隆は思った。隆はよく聞く、起きた瞬間に体の半分がしびれるということじゃないかと考えた。が、どうも様子が変だ。まず、右目の視界がない。起きた瞬間、目が見えないなんて聞いた事がない。それに、全身にいたって感覚がないのも変だ。隆は少しあせってきた。
「こりゃもしかすると、脳の病気かもしれない。そうなりゃ一大事だ。」
そう考えると、だんだん怖くなってきた。そうして、あたふたと布団の中でもがいてみた。動けば、脳の神経が正常に戻るかもしれないからと考えたからだ。しかし、一向に右側は動こうとしない。仕方がないので左手で右側を動かそうとしたとき。
「うわ!なんだこりゃ?」
隆は、さらに驚愕した。自分の右半分の体温が異様に低い。低いというか冷たい。これは本格的にやばいと感じた。
「やばいだろこれは。」
あまりの冷たさに、隆は自分の死んだおじいちゃんのことを思い出した。
「あのときもこういう風な感じがしたな?これって、もしかして死んでんのかな?いや、体半分だけ死んだりしないだろう。どうなってんだ?」
隆はとりあえず自分の心臓の鼓動を確認するため胸に手を当てた。
――ドクン、ドクン――
よかった。胸をなでおろすとはこういうことだと思った。次は自分の右手の脈を測ればいい。
――・・・・――
無音−だった。隆は冷や汗をかいた。左だけ。そう、たぶん右側は死んでるに違いないと隆は思った。どれくらい死んでいるのだろう?目が見えないし、足も動かない。でも心臓が動いているのだから、内臓は死んでいないのだろう。ゆっくりと左手の力を使って体を起こしてみた。どうやら体がおきるぐらいの稼動性はあるみたいだ。そうして、左の目を使って右手を確認してみた。
「うわ!白い。これ、やっぱり死んでるぞこれ。なんだよ。どうなってんだよ!ありえねーよ。どうすりゃいいんだよ。気持ち悪いよ。これ俺の体じゃないぜ。」
いったい、どうして自分の右側が死んでしまうのか、隆にはまったくもってわからなかった。しかし、逆にどうして左側が生きていられるのかも変に感じた。普通、死ぬなら一緒に死ぬだろう、普通。もう一度、ベッドに倒れこみ、隆は絶望的な気分になった。
「どうしよう・・・、これ病院にいかなきゃな・・・」
そのとき、隆の携帯が部屋の隅で鳴り響いた。最近の流行の音楽が着信に使われている。今付き合っている彼女の、裕香が好きな曲だった。しかし、今の隆にはこの着信音は面倒なもの以外のなにものでも無かった。着信は、制限いっぱいの10コール鳴り響き、その間、隆はベットから動こうともせず宙を見るばかりだった。今は裕香の泣き声なんか聞きたくない。それに自分の体がこんな異常事態だ。彼女の気持ちを受け止めて答えることができるとはとうてい思えない。すこしパニックに陥っている自分の気持ちを冷静に受け止め、どうするべきかを考え始めた。半分死んでいるというのは、病的にありえるだろうか?いまは時間的には夕方になる前だから。頑張っていけばどこかしら病院にいけるだろう。というか、救急車を呼ぶべきだとおもう。あ、でもどうしよう今日これからバイトだと思うんだが。など、逡巡しながら、隆はとりあえず電話を手にすることをしなくてはならないと考えた。すると
「ジリリリリリ−」
今度は無機質な着信音が携帯からなっていた。隆はベットから体半分をめいいっぱいつかって部屋のはしっこに投げとばした携帯へとはいつくばってとりにいった。着信画面には康行と出ていた。大学の友人だ。
「もしもし」
「おお!隆!今日どないしたんよ?てか、いつもかー。講義ちゃんとでろよー。どうすんねん。せやけどもうそろそろでんと危ないで!今日の同じ講義はお前の分も出席だしといたったけど、もうそろそろばれそうだぞ。」
康行はいつもどおりの説教口調で隆に話を始めた。康行にはたまにうんざりするが、基本的には面倒見がいいやつだと隆は思っている。大学の最初の共同講義のときに康行から隆に声をかけてきた。隆が一人で寂しそうみえたからとあとから聞いた。
「わりぃ。わりぃ。昨日の夜ちょっと遅くまでテレビ見ててな。」
「お前さー。いっつもそうやん。一人暮らしってそんな何でもかんでもだらだらするためにしてるわけじゃないだろう!」
「OK!大丈夫!自分でそういうのはわかってるよ。それよりさ、康行聞いてくれよ。」
「なんだよ?急に?」
「実はさ、いまさっき起きたんだけど」
「はあ!さっき起きたの?おまえさー。」
ほら、うざったい。人の話は最後まで聞くもんだろ?
「まあまあ、それはそれとして。起きたらさ、体の右側半分が死んでだよ!」
「え?」
「いや俺にも意味がわかんないだよ。どうしたらいいと思う?」
「冗談か・・・・??」
康行が完全に誤解した感じがした。隆はまずいと感じたが、すでに手遅れだった。
「隆、お前さ、悪ふざけするタイミングとちゃんちゃうか?」
「いや康行ほんとなんだよ。」
「もう、ええよ。別に、授業出るのがいいとかじゃないし、大学の時間なんてたくさんあるモラトリアムタイムだろ。それが、カッコイイとでも思ってんのか?俺はお前と違うし、そういうので一緒にすんなよ。授業にでるでないはいいけど、せめて友人の気持ちぐらい察するようにしろよ。おれはお前にもしっかり将来を考えて欲しいだけだ。」
「悪い」
としか、隆にはいえなかった。もはや、普段の生活からして康行に電話だけでこの異常事態を伝えられそうになかった。
「じゃあな。明日はちゃんと講義ぐらいでろよ。」
「ああ、あ、康行、あのさ、」
「ん?」
どうしてそんなこと聞こうと思ったのか、隆にはわからなかった。ただこのまま電話を切られたくなかったんだと思う。
「おまえって、どうして将来なんか簡単に考えられるだ?明日死ぬかもしれないだろ?俺らって。なあ、生きてることがたまにとんでもなくめんどくさくなったりしないか?俺はよくあるんだよ。」
沈黙が康行の口からでていた。ような気が隆には思えた。しかし、意外にも康行は先ほどの憤慨をうったえるような声から、改まった声に代わって隆に答えた。
「隆はさ、なんでもかんでも深く考えすぎなんだろうな、てたまに思ってた。俺とかは、ひとつのことをひとつの面でとらえない。だから、俺はそういうことでは浅く世の中のことと付き合ってるんだろうな。将来とかさ、隆が考えているようなものじゃないんだよ。多分。」
「俺なんかお前と比べたら、ぜんぜん何も考えてないぜ。」
「違うよ、むしろひとつひとつ丹念に考えすぎてるんだよ。この世のほとんどのものがそれほど考えられてない。そういうことがお前みたいなやつには納得できてないんだろうな。」
「康行は、納得できてんだ。」
「どうだろうな?うち親父はさ小さいけど、自分で会社を経営してるんだ。親父の姿は昔はかっこよかったよ。だけど、俺が高校に上がるころには俺がそこを継ぐかどうかばかり気にしてやがる。会社で貢献してくれたほかの社員のことよりもだぜ。間違ってるなと思った。でも、それでもわかる気もした。だからかな、ありとあらゆることを深く考えても仕方が無い。というかな。」
「ふーん。深いな。」
「なんだよ急に。」
「いやさ、大学にいってるけど、ここまで何も考えてないからさ。俺は。急にいろいろ考えすぎたんだろうな。夢中になることを今頃になって探している。そういう気がするよ。で、急に面倒になった。生きることがさ。命なんかかんじたことないんだぜ。だけど、無目的に生き続ける自分がある。どうして生きてるかなんか急にはわかんないよな。」
「なんだよ。急に。」
「ほんとなんだろうな・・・・」
隆と康行の間には親密な空気が流れた。ふたりがお互いに信頼をしていることがわかりあえた。ふいに隆は自分の運命見たいたものを悟ったような気がした。
「なあ、康行おれさ、多分死んでしまうよ。」
「え?」
「いや、いいや。今のも冗談だ。今日バイトがあるからさ、電話切るよ。また明日な。」
そう言って切ったあと隆は、さっき自分が口にしたことを考えた。多分、右側が死んだのは、これから本当に死ぬ前の予兆なんだろうと感じた。奇妙にも恐怖心がなく、こうなる運命だったのだと感じた。康行のような生き方がどうしてもできない自分が、ずっとこうなることを求めていたのだと感じたからかもしれない。突然なにもかも投げ出したくなる、それなのにそういうことはできやしない。いや、そんなこと無いと思っていた。
隆は、自分の体をもう一度触った。起きたときより、硬くなっている部分が増えてるようにも思えた。

隆は、バイトへ向かうことにした。どっちみちそれ以外することが無いように思えたからだ。いつこの体が動かなくなるかわからない。とはいえ、生きてる間にしたいことなんか特に無い。そう素直に思った。体を起こし、壁伝いに自転車置き場までいった。そこで、自分の愛車に乗ってみた。自転車なんかで行くべきでないのかもしれないが、そうじゃないとバイトに遅れるとおもったからだ。家から持ってきた紐をつかて、自分の左足をペダルに縛り付けた。そうして、左手でハンドルを持ってふらふらと走り出した。案外これでも走れるもんだなとつまらないことに感動した。それで、なんとなく大笑いしてみた。笑えた。自転車を左半分で漕いで、そうして、早く早くなっていくことが面白かった。京都の町並みは学生が住んでいるところと、普通の人が住まいを構えているところがおなじだ。周りの風景は変わらず、どんどん流れていく。同じもの、同じもの、そこかしこ同じものに隆には見えた。左半分の視野ではその流れに情報処理が追いつかないからかもしれない。そうして、夕方の風景はいつしか真っ青な群青色の景色へと変貌していた。太陽が西に沈んでまだ間もないのだろう。冷たい風が隆の顔の肌にへばりついていった。それでも体温があることがはっきりと隆には感じれた。そう、今の右側と違い。
いつも、バイトに行く際に通る京都の御所を通った。砂利道で走りにくいが、隆はなんとなくここが好きだった。この時間は人通りがすくない。だから広大な御所は人があまり立ち寄れない、神聖な感じがする。実際そういう場所だし。御所は歴史深い建物で成り立っている。そのうえ、それらは本当に使用されている。どこかしかが風化することなく、しっかりと根についた歴史だった。それは長い間、ずっと手入れされて丁寧に扱われた、そういったものでしか出てこない清潔さだった。
御所で隆は自転車で漕ぎながら、目の前を二人乗りをしている若いカップルを追い越そうとしていた。男が前で漕いでいて、女が後ろからちょっかいを出しているようにも見えた。あぶないからやめろと男がいい、女がおもしろいから続けていた。その二人は同じマフラーを巻いていて、この御所には不釣合いな、真っ赤なマフラーだった。追い越すとき、二人の顔をのぞこうとした、隆はどうしてか裕香のことを考えた。昨日の晩、いろいろあってついに別れてしまった。裕香とは、大学に入っていったサークルの歓迎会でしりあった。サークルの先輩だった裕香は歓迎会で酔っ払った隆を介抱しながら、新入生を脅かすつもりでキスをした。次の日、まったくその出来ことに興味を示さない隆に裕香がむきになりいろいろと仕掛けているうちに結局、裕香から付き合おう言う羽目になった。らしい。長くはないが、もう付き合って1年近くになっていた。二人はどちらかの家に泊まる生活をしていた。そのほうが二人でいる時間が長くなるからだと裕香の提案だった。ふたりの気持ちは着きつ離れずみたいな感じだった。新鮮身のある生活最初の数ヶ月で、隆のなかでは別れる理由が無いという理由で付き合ってるだけだったのかもしれない。昨日の別れ話は二人で遊園地に行った帰り、家に着いてからのことだった。

「ただいまー、今日楽しかったねー隆。」
この愛想を伺うような言い回しが隆はいつも我慢がならなかった。本当に楽しかったなら、こんなこと隆に確認するひつようないことを知っていたから。裕香はいろいろ察しているに違いない。
「やっぱり家が一番落ち着くよねー」
そういって裕香は部屋の電気をつけた。そして隆の表情を見ないように、裕香はまっすぐにテレビの電気をつけた。
「あ、今日これやってるんだ。隆好きだよね?これ。」
テレビの番組はよくあるお笑いの番組だった。いっとき隆がはまっていたことが合ったことがあった。しかし、最近はめったに見ていない。
「なんか、つまんない。でも今日楽しかったよね。あ、何か飲む?」
「いや、いらないや。」
「わかった。」
そのまま、裕香はキッチンへと消えた。お湯をセットして、自分の分の紅茶を用意するつもりだ。隆は、ベットにもたれながら興味がもうない番組をぼーっと見ることにした。
「それにしても、今日は天気よかったね。疲れちゃたよ、私すごい日焼けしたし。」
「ああ。」
キッチンから裕香が隆に向かって投げた話は、隆の気の無い返事でようやく繋がる綱渡りのようなものだった。少しのバランスでもくずれればすぐにだめになってしまう。そういう会話だった。
「どうしよう。せっかく美白で売っていたのに。夏は透き通るような女を目指してたのにな。ま、いいか。今度さ、隆一緒に海行こうよ。ね。」
「いや・・・、海は」
「できたー。紅茶は待つのがいいのよね。ん?何?」
「いやなんでもない。」
「海なんかいけば、諦めがつくしね。あれ?隆結局見てるんだ。おもしろい?」
裕香が矢継に話をしてくるのは隆との無言の時間が堪えれないからだ。隆は仕方なく、テレビに夢中のふりをした。
「そうか。じゃ、私も見よう。」
しかし、裕香は隆の薬指に目を向けてしまう。今日一日中ずっと以前裕香があげた指輪してないことが気になってしまってた。どういうつもりなのか?ただ忘れただけなんだろうか?忘れたにしても不安がある。裕香は、隆の横顔をみていた。どうしてこんな奴がすきなのかわからない。ほんとうに感情が前に出なくて、夢中になることがあるのか不思議に思う。裕香は自分でもそこそこかわいいと自信があるほうで、新入生の歓迎会のとき、一番かわいい男の子をおちょくるつもりで隆に近づいた。しかし、隆は動じず、この無関心な雰囲気をこんな年で身につけていることが悔しかった。そして、なにより自然とそこに気が引かれていった。でも、付き合ってみて、こんなに私のことにも興味を示さない男だとは考えなかった。それに、私がこんなにも乙女であることも。
隆は、裕香の視線を気にしながら、テレビを見てる風を装った。彼女が何を求めているかは大体が分かる。しかし、それを自分の本意でないときも付き合わなくてはならないときが辛い。隆としては彼女のことが嫌いではない。しかし、どこかしら疎ましいと感じることも多々あった。
隆と裕香は延々とみたくもないテレビをつけて、どちらかが諦めるまで寄り添って二人で座っていた。
「隆は私のことほんとに好き?」
 突然、ではない。もちろん裕香はずっと自問自答していた。口を滑らしたのか?それともこの雰囲気で聞くことが正しい答えを返してくれるという気持ちになったのか。テレビの笑い声が響き、だれかの笑い声がUPになっている。
 「ああ、好きだよ。」
ふふ。息がもれた笑い声が聞こえた。隆がテレビをみて笑っていた。
バチン!裕香はおもいっきり隆の右側のほほを叩いていた。
「あんたな!いいかげんにしーや。」
「痛いな!なにを急に!」
「別にな、本当に好きでなくてもいい。でも人が真剣に聞いているときに、その態度はないと思う。いつでもいつでもへらへらと、適当にするから。なんでもいいから真剣にならんから、何もかも分からんへんねん。ばかにせんと真剣になってみーや!」
 隆は不思議と不機嫌にならなかった。裕香が言っていることさえ、流しそうになっていた。そのあと、泣き崩れた裕香のそばにいるのが辛くて昨日の夜は帰ってしまった。帰り際、ぼそっと埃のような声が聞こえた。もうあかんわ。と裕香が泣きながら言ったように聞こえた。

がちゃ!!無様にも、隆は自転車のバランスを崩して右側にこけてしまった。砂利道で片側運転で、人の顔をのぞこうとするもんじゃないと思った。
「痛いな。」
隆は今度こそ埃のような声で言ってみた。右側の体は怪我をしても血が流れなかった。そうして夕方の空が延々と見える目には、多分一番星が見えていた。冬が近くて、京都の空は寒々しさを持ってきていた。手がかじかんだような、もとから死んでいた右手にそういうものを感じそうになった。

京都の御所の南側には、古くから商いをしている区画があり、人が住んでいる場所と、その商いが開かれる場所がまちまちにある。夕方の時間、日が落ちる前。そこは店じまいの準備をしながら、今日一日の最後の売り込みもしている。活気ではない、でも面々と人の生活が染み付いた人々の風景だった。
「生きるのは面倒だ。」
隆はその風景に自分が溶け込んでいることを実感しながら、それで自分の思っていることを口にしてみた。自分が死ぬのだろうなという予感が急に怖くなってもいた。
「生きるのは面倒だ。こういう風に自分が死ぬことはむしろありがたい。どう死ぬかわからないが、これから死ぬぞといわれることほど分かりやすいことはない。生きるのが面倒なのは、これから何があるか分からないからだ。どうやって行けば、どうやって生きていけば自分が正しいか分からない。分かろうとして、そういう時間を作ろうとすればするほど、無力を感じたりする。あれをしようとかこれが好きだとか、そういう単純な目標をみつけ、行動し続ければわかったりすのだろうか。分かろうが分かるまいが、自分や他人はこうして生きている。そうするとふと、嫌になる。誰を見ていても、自分が何をしてみてもやっぱり分らないと嫌になる。」
 京都で夕方の風景は特別なものにみえる。それは、建物が古くからあり、生活が古くから伝わったままだからかもしれない。本当は何ひとつ変わっていないのではないかと、そう思えてならない。隆はその中に自分がいることをはっきりと実感していた。
「それでも、やはり生きたい。したいことや、やりたいことが出来なくてもいいから、こうして、生活の真ん中にどすんと座っているような生き物として。自分があればいいと思った。」
 遠くで、豆腐屋が鳴り物をならす。そこらへんで、おばさんとおじさんが夕方の挨拶や会釈をする。自転車の脇を車が通り過ぎる。電線の上に鳩が止まる。そして飛ぶ。お店の前に水をまき、掃除をする若い人がいて。小学生が走りながら下校をする。太陽がますます傾き、見えなくなろうとする。電灯がもうすでに着いていた。
 もうすぐバイトの近くだったとき、隆は右足の靴が脱げ落ちてしまった。仕方なく反転し、どうやってこの靴をとろうかと戻ったとき、隆は車に引かれて死んだ。



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