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嘘、または想像力の倉庫コミュのトリゴテンチョル・その5トリゴルからの手紙「鼻の記憶」

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テンチョルさん、こんにちは。

この所お互いご無沙汰していましたが、お変わりありませんか。
ひょっとしてテンチョルさんの所のフクロウの身に何かあったのでは、もしかしたらそれで私の元に手紙が届けられないのでは、と少し心配しています。例えば誤って吹き矢の標的になって死んでしまったんじゃないか、とか。
いえ、それはこちらの勝手な妄想です。

テンチョルさんの暮らす西側は相変わらず暑いでしょうから、フクロウ的にも随分と厳しそうですね。でも何となく、あのフクロウならばきっと大丈夫、暑さ対策も万全に違いない、とも思っています。
というのは前回、やはり暑い中手紙を届けてくれた時、彼(あ、彼女?)が頭に大きな葉っぱを乗っけていたからです。最初はハテナシの森をくぐり抜けた時にでも、うっかり引っ掛けてきちゃったのだろうと思ったのですが、よく見てみたら、あらまクチバシの下で茎が器用に結ばれていているじゃあないですか。あれ、絶対「帽子」です。しかも何だかちょっとお洒落な感じすらして。心なし「あ、気付いた?やっぱ気付いちゃった?」て、まんざらでもない表情で飛び立って行きましたから、あれは自覚ありですね。出来るフクロウです。うちのアホオウムに比べると「トリの出来」が違うというか、鳥類にしとくのが勿体ないというか、大金はたいて人類にヘッドハントしたくなるくらいというか、とにかく感心させられました。

うちのアホオウム(ミドリと言います。ひねりがなくてスミマセン)ときたら、このまま私の様なズボラな人間に飼われていては「キ・ケ・ン」とその本能が察知したのでしょう。最近バカスカと卵を生み始めました。どこの馬の骨ともわからぬ通いオウムとの間の子です。せめてその血を絶やすまいと、子孫にバトンを残そうと、なんかもー必死です。その必死さがコワイです。そんなアホ遺伝子バトンをリレーして何になる!と問うて、両の頬をひっぱたきたいくらいですが、少しでも自分の死期を悟った者はがむしゃらです。自分が居た証を残す事しか頭にありませんので私の言葉など聞いちゃいないし、ひっぱたこうにも相手は高いリンゴの木の上。だからどうにもなりません。私は卵がかえって、小ミドリが量産されていくのをただ眺めるのみです。夏のオベラグラスでー。


さて。
実は先日、テンチョルさんにお会いする夢を見ました。
西の果てにいるはずのテンチョルさんが、どういう訳かあっさりとハテナシの森を超えて、私の丘の程近くに現れたのです。つくづく夢というのは都合がよく出来ているものですね。そして一緒にお酒を飲みました。何を話したかは朝目が覚めた時には殆ど覚えていませんでしたが、とても楽しい気持ちだけが残っていました。
覚えているのは、テンチョルさんが分身の術を使って、テンチョルさんに姿形のそっくりな人と2人で登場した事です。つくづく夢というのは機智に富んでいます。それと確か「メガチョル」さんという方も同席していらっしゃって、お三方とも似た様なイントネーションの言葉を話されていたし、「チョル」ってのも似てるし、ひょっとしたらあれは、テンチョルさんのお姉さんだったのかもしれない、とか思ったりして。
まあ、他人が見た夢の話ほどつまらないものはありませんので、この位にしておきます。


唐突ですが、テンチョルさんは嗅覚は強い方ですか?
私は結構強い方じゃないかと思っています。かといって、誰かと比べた事も無いのであれですが、鼻が効くというのでしょうか。つい今しがたも閉め切った部屋の中にいましたら、

「シンナーくさ!!」

と感じ、ニオイの元を鼻腔で尾行して行ったら、私の小屋の一階部分で内装工事をしている所でした。まあ、シンナーは強烈な匂いなのでこのくらいは誰でもあるかもしれませんが、言語やメロディや数式を必死になって「頭」で覚える事は苦手でも、無意識下の「鼻」の記憶力は結構よろしいみたいで、その分つい色々反応してしまいます。街を歩いていても

「マックポテト!」
「バーモント甘口!」
「チキンカツwithソース、いやタルタルソース!」

という様に、どこからか空気の流れに乗って運ばれて来た食べ物臭にいちいち反応し、繁華街でも歩こうものならば、引っ切りなしにクイズを出されている様な気分になり、脳内の児玉清にひたすら回答し続ける始末です。「ファーストキッチン惜しい!ロッテリア!」みたいな。

いえ、それだけではただの「万年空腹の人」みたいですが、もちろん食べ物だけではなく、人やモノ、建物、街なんかの匂いにも反応します。無意識下で匂いはそれを取り巻いている記憶の糸口となるのです。嗅いだだけで、人やモノや場所、その時の自分の状況や感情、既に海馬の奥底に葬り去られ、ともすればドラム缶に詰め込まれ、コンクリートを流し込まれ、腐臭すら完全封印され、トリテン湾に沈められてしまったくらい「亡き者」にされていた様な、普段は絶対に思い出す事などない記憶が、たったひと嗅ぎの匂いのせいで「ぶはっ」と蘇生するのです。
さらにその記憶は数珠つなぎに様々な方向へ派生して行きます。思い出した所でこちらにとっては、また厳重に重しを取り付けて再びトリテン湾に沈めるしかない様な、そのまま忘れて生きていても何ら差し支えの無い、むしろその方が幸せなものだったりもするのですが。

けれど中には一つ二つちょっとした発見の様なものもあったりして、そんな時はこの鼻の記憶力もまんざら悪いもんでもないなあと思います。
暑い日の八百屋の軒先で熟しきった果物の匂いに、いつか降り立った南の国の空港の匂いを。通りがかったドラッグストアから漂ってきた柔軟剤の匂いに、幼い頃に耳かきをしてもらった時の母親の膝枕の匂いを。夏の朝、寝ぼけながらゴミ出しをする度に、夏休みにラジオ体操に向かう道中嗅いだ草の匂いを。電車で隣に座った中学生の男子から、昔毎日通った部室の匂いを。
つい今しがた嗅いだシンナーの匂いの先には、私が3歳の頃、1年間だけ住んでいた借家の隣にあった看板屋の作業場の匂いが繋がっていました。用も無いのによく覗きに行った、今はもう借家ごと無くなって、コンビニと駐車場になってしまったらしいあの看板屋の雑然とした風景と一緒に。

思い出そうとして思い出せないものが勝手に湧き出てくる鼻の記憶。意識外の記憶というものの強固ぶりに驚かされ、距離も時間もあっさりと飛び超え、何ともいえない不思議な気持ちになります。鼻腔トリップ。うわ。全然カッコ良くない。鼻腔トゥリップ。いえ、書いてみただけです。


しかし、実際の匂いにはこんな風に鼻が効く私ではありますが、例えば「キケンを嗅ぎ分ける」という様な嗅覚に関してはからっきし自信がありません。というより全然ダメです。よくよく考えたら様々なポイントで黄色信号が点滅していた、という事を悉く気付かずスルーして痛い目に遭う事もしばしば。生きて行く上では、こっちの嗅覚の方が断然必要そうなのに。
そういう意味ではうちのアホオウム以下かもしれません。(あ、またふ化してる!)


今日も暑い一日になりそうです。
これからドメシオという普段はあまり縁のない街に季節外れのキノコ採取に出かけます。それにしてもいつもに増してどうという事の無い内容なので、この手紙は子育て奮闘中のミドリに代わって、通いオウムに託してみます。無事に届けられたら名前を付けてやろうと思います。


トリゴルより

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