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物語を作ろうコミュの半分この林檎

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「ツバサがあれば、こんな私でも空にだって飛べるのに」



夢に、羽ばたいていけ。

そんな寄せ書きのアツい言葉もツバサがなくては到底無理な話。叶えようとするものの中には、ある程度の羽ばたきが必要なんだ。

そんな事を思いながら夜も更け、ウトウトと机を枕に夢心地に浸っていた。










「ツバサがあれば幸せになれる、と?」

私は近所のバザーにある骨董屋バーに足を運び、13シアーもする高価なツバサをレンタルしにマスターに話かけていた。

「人間は元々天使だったって話は有名だから知ってるとは思いますが、神様にツバサを取り上げられた理由を今の人間たちは忘れてしまっている。幸せを勝ち取るためにツバサが欲しいだなんて」

現代の人たちからすれば、自身の夢や希望は何処か羽ばたいて勝ち取るイメージが強くあると思う。

「ツバサは人間にとって、やっぱり憧れだと思います。自由に空を飛べるって事実だけでも、普段より断然刺激的だし魅力的ですよ」

私がそう熱弁しても、マスターは冷めた面持ちで諭すように私にこう言った。

「後悔しても知りませんよ?」

私は頷いて、しばらくしてツバサをレンタルし、そのまま店を出た。



賑やかなバザーの人混みを掻き分け、土手のある河川敷まで足を運んだ。

「私の未来は、このツバサさえがあれば、道は開けるわ」

すぐさま背中にツバサを装い、少しの助走の後、真上の目的地まで空高く羽ばたいていった。

「す、凄い!」

鳥たちの世界では、このような景色の中で当たり前に生活が行われていて、人間の世界に比べ言葉で言い表せない位、壮大の一言だった。

「これで私も幸せになれるのね」

縦横無尽に我を忘れるように駆け回った後、あまりに疲れ過ぎたせいか、知らない森の茂みの奥で横になっていた。

次の日、同じように一日のほとんどを空の中で過ごしていた。幸せにたどり着いた意識とハイテンションな気持ちの中、冷静さを取り乱している自分さえも気付かずに、今日もまた夜が訪れた。

そして次の日、そしてまた次の日と空の中での時間にしばらくして飽きてきた頃、地上で過ごす時間もまた増えてきていた。
自由な世界である空という場所はあまりに壮大すぎて、自分がちっぽけではかない虚無感を強く感じ、意識の中で何処か受け入れにくくしてしまっていた。
自分一人が飛び立った所で、空は受け入れてくれるどころか、試練を与えられてるようで怖かった。



それから一週間が過ぎ、ツバサとしての機能は失われ、効力さえも切れてしまった。

レンタル期間を終えたそれを返却しに店に入ってすぐ、マスターに黙ってそれを渡した。

「どうです、ツバサを試してみて後悔しませんでしたか?」

私は言葉を失ったまま、そのまま店から出ようとした。

「人間は、元々天使だったのです。しかしある日、地上に興味を持った二人の天使は空を飛ぶ事を止め、二人でひっそり暮らそうと約束し、空に戻る事を拒んだのです。それを知った神様は天使のルールに背いた罰として、天使の証であるツバサを二人の天使から取り上げ、一生地上で暮らす事を言い渡しました。その二人の天使が地上で育み、今の人間として成長していったんです」

マスターは、深々と語り始めた。

「人間のルーツですよね、昔に聞いた事があります」

そして私は、マスターの話を背中越しに聞いていた。

「その後、神様が二人に差し出した真っ赤な林檎を、ご存知ですか?」

「いえ、」

私は立ち止まったまま、動けないでいた。

「天使は神様に仕えるもの。その天使の役割とは、神様を一生守るためのナイトなんです。その役割を捨てて二人は地上に降りる事を望んだ。それは神様への裏切りであると共に、個々を尊重し自らを戒めるためにと自身のオリジナリティを磨くため地上で生きる道を選んだのです。そんな二人に神様はさらなる罰として二人への餞別にと林檎を差し出したのです」

私は、震える身体を堪えて止まなかった。

「その林檎を食べた二人は、みるみる内に変貌していきました。その林檎の成分である欲望という毒に塗れるように二人は人間へと姿を変えていったのです」

「そう、なんですね」

私はマスターの近くまで行き、こう続けた。

「私は人間だから幸せになりたいんです。それを欲望と言い換えても否定もしませんし、むしろ肯定するからこそ夢や希望に憧れるんです」

「それが人間、というものなのですよ。欲望に塗れるまでは人という可憐な生き物だったのに、神様によって人間という複雑で難解で気難しい存在に変貌させられてしまった。欲というあぶくを頼りに生涯生きていかなくてはいけない生き物として、ね」

天使の罪を罰する神様の仕打ちを、現代の今も尚、私たちは受け続けているのだ、とマスターは話をまとめた。

「人間は人の間と表現されるように、特定の生き物とは違い、心という人間独自の不安定な賜物を抱えている。その心がすなわち人の間を意味するのです、心があるから欲を生み、自身や相手までをも脅かす。そんな心にもキレイな一面があり、人を幸せにしてくれようともする。しかしその幸せというものも実際は如何なものか」

「ちっぽけではかなくて愚かだと、そう言いたいんでしょ。私がそうだったように」

マスターは少し慌てた。

「あ、いえ、心があるから愛や夢や希望が描けるのも事実です。ただ最近は特に幸せというものを勘違いされているように思いまして。だからあの、ツバサというものを実験的に取り扱ってみたのです」

「、、私には、それが必要なかった」

私は涙を堪えて、信じていたもののヨリを戻そうと必死だった。

「ツバサが必要ないと判って頂けたのなら、幸せの意味を判ってる証拠です。幸せというものは目に見えないものだけでなく、刺激のない生活に継続するものなのですから」

「刺激のない生活?」

私は耳を疑った。

「ええ、刺激とは欲の始まり。そして幸せと欲とは真逆に位置するもの。そこを現代の人たちの多くは同類だと勘違いしているのです。夢や希望は自身の願望の果てにあり、その先に幸せが待っていると思い込んでいますが、願望もまた欲の一つで、憧れという一線を越えようと夢や希望を手に入れようと強く欲する。そもそも手に入れるという考え方が欲望であり、幸せとはそういった思いや刺激のない所で、時間に寄り添って、人を優しく包み込んでくれるものなのです」

私は、一つの答えに辿り着いた。

「つまり幸せというものは勝ち取るものではなく、自分の身の回りにそもそも存在しているもの、なのね」

「温和で平穏に暮らす時間や場所がそこにあるのなら、それは幸せなのです。むしろ刺激や突発的なものが幸せの邪魔をする。人間たちの思い込みや理想や願望が、幸せの位置や存在を勝手に変えてしまっただけなのですよ」



外で華やかに賑わうバザーでの飛び交う声を聞きながら、私はこう呟いた。

「人間って、楽しい時に笑って、悲しい時に泣いて、そんな喜怒哀楽な日常を不安定に繰り返しながら、複雑かつ難解な世の中で不安定に負けないように懸命に生きているんですね。安定なんてない、普通なんてない、当たり前なんてない、正解なんてない、真っ直ぐで直結したものなんて何処にもない。自分も含め、あらゆるものすべてが不安定なものなんだから。だからこそ、真っ直ぐなものに憧れる。愛や夢や希望や真実や、そんな真っ直ぐさが偶然普遍な世の中にも未だ残されていると信じているから。複雑かつ難解な世の中を生み出したのも、複雑かつ難解な私たち人間たち。だからこそ、単純かつ明解なものを大切にしていってほしい。ううん、大切にしなくちゃいけない」



マスターは少し笑顔で、店の奥のカウンターからあるものを取り出し、私にそれをそっと差し出した。

「どうやら、物事の本質に辿り着いたようですね。ささやかなものですが、こちら私からのプレゼントです」

「そんな、私が単に自分を見失っていただけなのに」

「なんてことのない、林檎ですよ」

それは真っ赤に熟れた、マスターからの気の利いたプレゼントだった。

「私がこれを食べるとでも?」

「ええ」

私も笑った。

「では、半分にして一緒に食べましょう」

「私一応、疑い深い女なので、そうして頂けると助かります」

マスターは林檎を半分に切り分けて、その半分を私に差し出した。

「では、神様に乾杯、という事で」



二人はあの時の天使のように、楽しく林檎を頬張った。





「うぐっ、、」

パリーン!!

次の瞬間、私は慌てふためいて、近くのコップを跳ね退けた後、その場に赤く崩れ落ちた。



マスターは頬張って見えたその林檎を口からそっと取り出し、静かにその場から退いていった。

「二人の天使の内、一人はこうして林檎を食べませんでした。神様からそうするように言い渡されていたのではなく、二人で生きるという道を拒み、世界を一人手中に入れようと欺いたからでした。天使として化けていた悪魔の仕業です。その悪魔の囁きに一人の天使は長い間騙され続けていた、という真実を、ご存知でしたか?」

私はマスターのそこまでの声を最後に、赤く酷い姿で、そのまま息を引き取った。










「ん、」

机を枕にしていた景色の中、私はすぐに目を覚ました。

「夢、かあ。。良かったあ」

夢の中で自分が死ぬと、自然と夢から覚める。それは死んだ先の光景を、生きている間はイメージ出来ないからだ。

「早く寝なさい、明日テストでしょ!」

母からのいつもの言葉に強く反発してすぐ、部屋の入口にふと目を遣ると、瞬時に戦慄が走った。

それは私を気遣ってくれる、母の優しい心遣い。真っ赤に熟れた、あの時見て立ちすくんだ、例の果物の半分がそこにあった。

「ま、まさかね、、」

私は皿に乗ったフォークとそれを手に取って、口に恐る恐る運んだ。



そして、次の瞬間。





パリーン!!

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