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あっちゃんの小説コミュの雲のかんらんしゃ

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冬の空に浮かんでいるお日さまのやさしいひかり。
風にそよぐすすきの中で、そんなひかりを浴びて一人の女の子が立っている。
ファニーっていう名前の女の子だよ。
白くてふかふかのセーターを着て、彼方まで続く線路の行方を見つめてる。
もくもくと煙を出して黒くて大きな汽車がやってきて、ファニーは幼なじみの少年とさようならをしたんだ。
汽車は穏やかにゆっくりと車輪をまわして、少年を白い煙にかすませて隣街へと消えていった。
まつぼっくりから飛び出したばかりの淡い栗色の髪の毛をした少年。
心の揺れを隠して、ファニーと少年は笑顔でさようならを言ったよ。
あたり一面すすきが広がり、冬の風と楽しげに戯れていた枯れ葉の中で。
ひとみを合わせて告げた言葉。
一人ぼっちのファニーのひとみから、がまんしていた涙が溢れて止まらないよ。

大好きな栗色の少年。
遠く離れた知らない隣街に引っ越していった。
ファニーは、好きって言えなかったの。

冬空のお日さまを見上げると、ひかりがやさしいから、まるい輪郭が空に透けてる。
ファニーは溢れる涙を水玉模様のミトンで拭って、それをポッケに入れた。
足元の真っ直ぐ伸びている線路の上には、真っ白い雪がちょこんと積もってる。
そっとファニーは手を差し出して、雪に触れる。
雪の冷たさは、ぬくもりに溶けて、影も一緒にって土の中に滲んでいった。
少しサビた鉄の線路にも触れてみると、雪より冷たいからぬくもりに溶けないよ。
ファニーはほのかに微笑んで、小さな手のぬくもりと鉄の冷たさ、温度をわけあいっこしたんだ。
お日さまがゆっくり傾いて、ひかりはやわらかくなり、空は夕焼けの色になっていく。
あの時の汽車の煙は空に舞い上がって、今はすっかり雲と仲良しになっていて。
うさぎのかたちをしているよ。

オレンジ色に染まる世界は、夢と現実をあいまいにしてくれるから。

ファニーと線路の温度が近づけば、汽車が近づいてくる音色が響いてくるんだ。
白い煙の中に消えそうなファニーの足音は、不思議の汽車に誘われて乗り込んだ。
音を立てずに回り始める黒くて大きな車輪は行き先を知っているよ。
いくつもの川を越えて、車窓にかすんで見えたのは雲まで届くかんらんしゃ。
夕日に染められた初めて訪れる知らない隣街。
ファニーは風を信じて、栗色の少年の所まで、レンガがしきつめられている道を歩いた。
街の中央にある広場には綺麗な噴水が重力と遊んでいたんだ。
噴水からはじける小さな水しぶきにひかりが反射していて、キラキラ輝いていたよ。
かわいい虹のドアの向こう側に、少年が水しぶきとひかりに包まれて笑ってた。
「ねぇ。
 かんらんしゃに乗ろうよ。」
少年のやさしいまなざしが潤んでる。
差し出した少年の手を握って、ファニーは虹のドアをくぐる。
手をつないで歩いた道に楽しいおしゃべりはずませて。
二人は、時を刻むかんらんしゃに乗り込んで、宙に浮かんだ。
地平線がなだらかなラインを描いて、鮮やかなオレンジ色の世界。

かんらんしゃが二人を雲の上まで運んでくれる。
ファニーと栗色の少年は、雲の上でいっぱい遊んで、小鳥に教えてもらった鼻歌を口づさむ。
雲の上にはたくさんの雪のプレゼントが積もってあるから、ちっちゃなお家を作ったよ。
冷たい雪の中で、2つの小さな手が触れた。
ドキツとしたから。
ファニーはうつむいて言った。
「ずっと好きだったんだから。」
少しすねた口調でそう告げた。
だけど、すぐに頬は赤くなったんだ。
ファニーは、はにかんでみせたけれど。
自然と涙が溢れるよ。
さようならだから。
うさぎのかたちの雲の上。
ゆっくりとかんらんしゃが流れてゆくよ。
地平線にお日さまが触れて、ファニーはポッケの中の水玉模様のミトンを握りしめる。
「綺麗だね。」
やさしい少年の声。

綺麗だね。


一番星が夜空に輝いて、お月さまがおぼろげにひかる頃。
パパはファニーの部屋の前。
ホットミルクを持って、ドアをやさしくノックした。
ファニーはふかふかの白い毛布に包まれて、すやすやと眠っていたよ。
枕もとには、うさぎのぬいぐるみ。
ロウソクの灯が、ファニーのぬれたまつ毛を照らしてる。
パパは、そんなファニーの寝顔を見つめて微笑んだ。
そして静かにロウソクの灯を消したんだ。
「ファニー、おやすみ。」


オレンジ色に染まる世界で、ファニーが感じたことすべて。
本当の世界だよ。




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