ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

あっちゃんの小説コミュの色採りどりの世界

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
薄いピンクの花びらが舞う春のはじめに、不思議なこの世界に僕は生れた。
幾度の季節が巡り、その中でたくさんの人と出逢い、たくさんの別れがあった。
今、僕の瞳に映っているのは、透き通った川と、小さな雲を浮かばせた広い青空。
ファンタグレープを一口飲んで、ゆっくりと傾いていく太陽を見つめている。
こうして僕が川辺に座っているのには、特に理由なんてないんだ。
ただ流れゆく時の中で、静かに流れる川を見つめて、やさしく流れる風を浴びているだけ。
どこまでも長く伸びる影は、僕が大人になったっていうことなのかな。
そう思ったら、なにか漠然とした恐怖心があふれてきた。
僕の心が徐々に鈍くなり、何も感じなくなってしまうような。
どんどん世界が全て白黒になっていって。
気付いたらみんなが消えてしまう気がする。
本当に大切なものをなくしてしまって…。
いつか色のない世界に覆われそうで。
大きく長く伸びる影を見つめていると、そんなふうに感じてしまう。
なぜだかわからないけど、僕の胸は絞めつけられた。

そんな気持ちで川を見つめていると、やわらかい風が僕の髪の毛を揺らした。
その風はどこか懐かしさを帯びていて、いつかの僕と出会った風に思えた。
すると自然と涙が溢れ出してきたんだ。
そして子どもの頃に飼っていた犬の思い出が蘇ってくる。
僕が飼っていた犬の名前はチャッピー。
まだ子どもだった頃の僕は、あまりいい子ではなくて、よく家の外に放り出されてた。
そんな時、行くあてのない僕は決まってガレージの奥にある物置場行っていた。
そこにつながれていたチャッピーの所に会いに行っていたんだ。
僕がグズグズ泣いていると、チャッピーは全部わかってくれるみたいに。
僕のそばにチョコンと座って、流れる涙をやさしくなめてくれた。
僕よりも少しあたたかい、そのチャッピーのぬくもりを今でも憶えている。
子どもの頃の僕とチャッピーには言葉なんていらなかった。
ただ、ずっと君のそばにいるよって、そんな想いを僕に伝え続けてくれてた。
思い出せばチャッピーのまえで涙を流して、カラカラに乾いた僕の体。
その体を潤してくれたのは、いつだってこのファンタグレープだった…。
チャッピーのぬくもりと甘酸っぱいファンタグレープ。
今頃チャッピーは天国で、大好きだったすすきの中の堤防を駆けて遊んでいるのかな。
遠い思い出の中でも、チャッピーがいなくなった今でも、僕はファンタグレープを飲んでる。
僕は、その紫色の中で楽しげに泳ぐ小さな泡たちを見つめて少し微笑んだ。
少し気持ちが落ち着いて、とても静かに流れる川の音に耳を澄ませて、青空を見上げる。
太陽はゆっくりと沈んでいて、やわらかなオレンジ色をしてきた。

秋の夕暮れ時。
もうすぐキンモクセイの香りが漂って、スズムシが鳴きはじめる頃。
地面を見つめると、ペットボトルに入ったファンタグレープの近くに小さな一匹の働きアリがいた。
僕は、そのファンタグレープを地面に数滴たらして、働きアリにあげた。
きっと、みんながみんな。
この世界の中で、一人ぼっち。
人も動物も虫も花も。
どんなに愛し合っても、どんなに信じ合っても。
最後は一人ぼっち。
でも悲しいことじゃない。
生きとし生けるもの全てがそうだと思うから。

しばらく佇んでいると、少し離れた草原で物音がした。
目を向けると一匹の淡い茶色のポメラニアンが草原の中でたわむれていた。
「チャッピー。」
僕はその単語を聴いて、ドキッとした。
小学校低学年くらいの小さな男の子。
「チャッピー、こんなところにいたんだ。」
その男の子は息を切らして、草原の中のポメラニアンのもとに近づいていった。
男の子の顔は安堵で満ちている。
そして僕が子どもの頃の支えだった犬と同じ名前のポメラニアンを男の子はやさしくなでた。
僕がその光景を漠然と眺めていると、ポメラニアンは僕に気付き駆け寄ってきた。
「ちょっと待ってよー。」
小さな男の子は少し微笑みながら、ポメラニアンのあとを追いかけてくる。
チャッピーっていう名前のポメラニアンは、僕のトナリにきてチョコンと座った。
男の子も僕のほうに歩いてくるので、僕はとっさにさっき流した涙を拭った。
僕の目の前に立った男の子は、不思議そうに僕を見つめている。
座り込んでいる僕は、男の子を見上げて微笑んだ。
「こんにちは。」
僕はそう小さくつぶやくように言った。
すると男の子も笑顔になって僕に返事をした。
「こんにちは。」
広がる景色は徐々にオレンジ色に染め上げられていく。
「ファンタグレープだ。」
男の子は嬉しそうな顔をした。
今の子どもだって大好きなんだ。
「飲んでもいいよ。」
そう言って僕は、男の子に差し出した。
「おいしいよね。」
男の子は満面の笑みをして、ファンタグレープを口にいれる。
僕はポメラニアンを見つめた。
「なでてもいい?」
照れくさそうに、男の子に聞いた。
小さな男の子もしゃがみ込んで、ニコッと笑って胸を張って返事をした。
「うん、イイよ。」
僕とトナリに座るポメラニアンは目をやさしく見つめ合わせる。
そしてゆっくり手を伸ばし、そのやわらかくふわふわした体をなでた。
あたたかいんだ。
僕よりも少しあたたかい。
「チャッピー。」
僕はポメラニアンにそう小さく声をかけたら、なぜか涙が一気に溢れでてきた。
男の子はしゃがみ込んだまま、そんな僕の姿を見て不思議そうに言った。
「お兄ちゃん、泣いているの?」
僕は言葉が出ず、首をうなづくでもなく、左右にふるでもなく、曖昧に返事をした。
たぶん水分のせいなんだ。
ファンタグレープをたくさん飲んでいたから、その水分が流れ出たんだ。
「かわいいでしょー。」
男の子は少し悪ガキっぽい口調で言った。
僕は涙を拭って、うなづいた。

子どもの頃に僕が飼っていたチャッピーは何年前に出逢ったんだろう。
両親に連れられて行ったペットショップ。
ウィンドウ越しに、皮膚がボロボロにただれたチャッピーがいた。
僕が選んだんだ。
なぜだかわからないけど。
両親は、こんなに皮膚がボロボロなのにといった表情で、不思議そうに僕を見つめていた。
家に連れて帰ってくると、僕は早速名前をつけた。
「毛が茶色いからチャッピー!!」
ボロボロだった皮膚も一ヵ月もすれば自然と治ったんだ。

「ねぇ。」
男の子の問いかけで、僕は物思いから覚めた。
ポメラニアンは僕の手をペロペロとなめてくれている。
「なんでチャッピーだと思う?」
男の子は楽しそうな顔で僕に聞いてきた。
僕はやさしくポメラニアンをなでながら、少し時間をおいて答えた。
「毛は茶色いから…。」
その返事を聞いて男の子は目をまん丸くした。
「すごい!
 なんでわかったの?」
僕の返事で、男の子の瞳は好奇心でいっぱいになった。
「なんで?なんで?」
答えをせかすように、男の子は僕の袖をグイグイ引っ張った。
僕は湧き上がる喜びを押し隠して、つぶやくように言った。
「だって。」
ポメラニアンを見つめる。
「だって。
 茶色いんだもん。」
そんな何の答えにもなっていない返事をした。
そして小さく笑いかけた。
男の子は僕をまるで魔法使いのように見つめる。

「ん…。」
そう言って男の子は地面におとした右手をゴソゴソしだした。
「あっ!」
声を出して驚いた男の子の小さな手の中には薄いピンクの貝がら。
すごく綺麗。
男の子はその貝がらをそっと自分の耳にあてた。
そして目をつぶった。
「ねぇ、誰かが歌っているよ。」
目を開いた男の子は不思議そうに僕にそう言った。
男の子は僕に薄いピンクの貝がらを僕にそっと手渡した。
僕も貝がらを耳にあててみる。
そうしたら。
遠くに離れている母親の穏やかな声…。
「空を見上げてごらん。」
僕は母親のその言葉を聴いて、どこまでも広がるオレンジ色の空を見上げた。
するとそこには、あの頃のままのチャッピーの形をした雲。
夕日が白い雲を、限りなくチャッピーの茶色に近く染めてくれている。
「チャッピー…。」
僕の瞳が潤む。
僕は気付いたんだ。
ファンタグレープは僕の体の中で涙になり、こぼれた涙は空に舞い上がってチャッピーになった。
男の子も呆然と空に浮かぶチャッピーを見つめている。
太陽が、遠くに広がっている海に限りなく近づいて、地平線に接した時。
世界にヒカリが突き抜けた。
それを見てポメラニアンは、そのヒカリに向かって走り出したんだ。
男の子も嬉しそうに全力でそのあとを追いかけていく。
チャッピーが僕にくれたもの。
『心配しなくていいよ。
 何もなくしちゃいない。』
また伝えてくれている…。
ずっとそばにいてくれたんだね。
流れる時の中で永遠に変わらないもの。

色採りどりの世界。

待っていてね。
今からすぐに僕もそこに行くから。
見渡す限り色採りどりの世界の中…。
一緒にすすきの中を走った。
あの時のスピードで。








コメント(1)

今頃、天国でチャッピーちゃんに再会してるのかな☆

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

あっちゃんの小説 更新情報

あっちゃんの小説のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング