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小説 「おろし」コミュの●鈎針婆の章 おろし!! #46 交渉決裂

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今夜も、四重の塔、電波塔は、いつもと変わらず
"そこ"にある。

その姿は、白くボ〜っと闇に浮かび上がっていた。

その頂上に、呆然と立っている老婆がいる・・・

この付近の人々に、もっとも恐れられている殺人鬼の正体。

それ、このババア・・・

鉤針婆(フック婆)

強烈なインパクトの持ち主だが・・・
人々は、彼女を知らない。

見た事がはない。

そう・・見たものは、生きてはいないだろう・・・


月の光が・・眩しい。

この辺りの雲すべてが、いっぺんにして、何処かへ連れ去られたかのように、
空には、月以外、何もない。

清々しい夜空だが、それがかえって怪しく思える・・・

月明かりに照らされて、キラキラと輝くスパンコールが目映い。

年齢に伴わない奇抜なファッション・・ボディコン姿。

ああ・・悩殺・・ある意味、撲殺。

腰まである白髪はボサボサにかき乱れ、
ポカンと開いた口から見える黄色い歯には、
その白い毛が、醜く絡んでいた。

腕や、足は、松の枝のようにガサガサで、
決してボデイコン服が似合うようなボディではない・・・

それなのに・・着る。

色気も何もない。

その折れそうな手、枯れ枝のようなヤワな手ではあるが、
これが、これが・・驚くほどの力が備わっている。

その力強い手で、紐、ワイヤーのようなものをたぐり寄せていた。

そう・・それは糸電話。
糸電話の紐をたぐっている。

"殺しの道具"

糸電話は鉤針婆の狩猟道具だ。
釣り具といってもよい。

紙コップの中に、"殺意を持つ針"を仕込み、

"噂"を餌に人間を釣る名人 鉤針婆である。

そのプロの腕で、この街では、すでに何百人もの人間が、老婆の餌食になっていた。

鉤針婆・・そう、この世の物ではない存在・・・化け物だ。

誰も知られてはいけない、知られちゃならない闇の釣り師。

今夜もまた、ひとりの女が、鉤針婆の仕掛けにまんまとひっ掛かった。

だが・・しかし・・予想外の事が起こってしまった。

鉤針婆にとって、まったく予想外の事が・・・

今夜も楽々フィッシング・・いつものように獲物をゲット出来たのに・・

"何か"が邪魔をした。

耳にしっかりと喰い込んだ糸電話の針が、そう簡単に抜けるはずがない!

と、鉤針婆は思う。

獲物・・・今夜の獲物は・・あれは女だった。

それも・・只の女ではない。

あの感触・・・
あの糸電話のピンと張られた糸から伝わる感触からして・・・

極上の"ミミンガー"だったはず。

そう・・・稀に見ぬ"ミミンガー"だ。

あの感触は、伝説のミミンガーだ!

幻の食"餃子耳"であったはずだ!

それなのに・・それなのに!!

ああ・・『食べたい!食べたい!食べたい!』

『ワシとした事が、なんたることじゃ・・焦ってしまったのか?・・・イヤイヤイヤ・・・』

そんな筈はない。

『ワシは、ベテランだ。フーックじゃ!』

しかし・・・あれだけ針が食い込んだ獲物を、今まで"バラ"した事は一度もない。

まあ、針の掛かりが悪く、"スレ"で"バラ"す事は、釣りではよくある事だが・・・

『クソウ・・もう少しで、"深海"から引きずり出せたのに・・・』

あの時、何かが、糸電話の糸に触れたのだ。

そう・・あの時・・空怪が痢煙の耳に掛かった釣り針、テグスにぶつかったのだ。

『悔しい・・・』

普通なら取れることは、まずないのに、空怪の霊力によって
衝撃のショックで、糸が弛んでしまい針が外れてしまったのだろう。

『クソウ・・』

あのショックが無ければ・・・

『ホンニ・・逃がした魚は大きいと言うがあ・・・デ・カ・イんかあ・・』

本当に悔しそうな顔する鉤針婆、
巻き取った糸電話のカップを、垂れ伸びた胸にポコっとハメ込んで、
それを、ボディコンの中に収めた。

『もう一度・は・・無理か。』

先ほど獲物をバラしたポイントに、すぐに仕掛けても、
逃がした人間を釣れる確立は非常に低いだろう。

しかも、仕掛けが紙コップと針・・・餌は噂である。

百発百中でなければ、二度とこの罠に引っ掛かる者はいないだろう。

『あああ・・・(仕掛けを)忘れてくれ・・・』

鉤針婆は、切に思う・・"逃がした魚"が、馬鹿な事を・・・


(・・・忘れて下さい・・・)


不意に足下から声(声無き声)がした。

ン!?

鉤針婆は、目を見開いた。

自分のテリトリー、城である、この電波塔に、
何者かが侵入・・登って来ている。

数体の影・・・

しかも、そのうちの一人は、すぐ足下まで来ているではないか・・・

(・・・女の事を忘れてはくれないか・・・)


『キサマ・・何者じゃ・・・』

鉤針婆は、身構えた。

いきなりの鉤針婆の声で、少し驚きながらも、

『お初にお目にかかります。わたくしは、"どぶおちろ"をまとめている ポルポという者です。』

ポマードの香りを漂わせ、決して乾く事がない濡れたスーツを着る男が、平然と言った。

『ポルポ?・・ああ・オマエが、あの"鳩胸のポルポ"か・・初めて見るのう・・・それで・・キサマが言う女とは?』

ベロ・リ・・・黄色い前歯を舌で舐め、ポルポの耳をじっと見る鉤針婆。

とてつもなく恐ろしい・・眼光・・・いやらしい目だ。

ポルポは、その強烈な視線を外しながら、

『さすが・・私の心をお読みなさったのですね・・・お噂はかねがね・・・いきなりのご無礼申し訳ございませんでした・・はい・・女とは・・今夜、貴方様が、釣りそこなった女の事です・・・その女忘れて頂きたい・・深くは言えませんが・・そう思ったのです・・・それよりも・・それよりもですねえ・・今夜は、お願いがあり、ここへ参上した次第で・・・そう・・鉤針婆といえば、この街の"夜"、大半を支配するナイト・クイーン・・でいらっしゃる・・からして・・』

フムフムと言いながら鉤針婆は、手で"座れ"と合図をした。

鳩胸のポルポは、足場の良い場所を見つけ腰を降ろし話を続けた。

『今夜、この辺りで、少し騒ぎがあるかもしれませんので、その許しを請いたく・・なんせ、鉤針婆の、釣り場も荒らしてしまうかもしれませんから・・事前に・・』

『ヒヒヒ・・よくもまあ、ぬけぬけと・・いつも、我が物顔で、のさばってるお前ら、どぶおちろが何を言うか!しかも御伽婆の腰巾着のクセに・・よくもまあ・・ワシに。』

鉤針婆は、厭味たらしく言いながらも、ポルポを見下ろせる場所に腰を降ろした。

話を聞こうという事らしい。

ポルポは、ニヤリと笑い、話を続けた。

『そう・・その腰巾着が、あえてお願いしに来たのです・・・伝説の鉤針婆に・・・"夜を支配する女王"よ、鉤針婆よ・・・"一夜"を貸して下さらないでしょうか?』

と言い、ポルポは、深々と礼をした。

『クッ・・一夜を貸す?・・・誰にじゃ?・・鳩野郎のオマエにか?アアン・・』

鉤針婆は、片目をギョロリと動かして、ポルポを見下ろした。

『いえ、わたしにではなく・・・御伽婆に、一夜をお貸しください。』

と、ポルポは、片手を胸にあて、鉤針婆をゆっくりと見上げる。

『アアアッ!・・なに、御伽婆にだと!!』

鉤針婆は、己の膝をパンと叩き、右手の人差し指をポルポに向ける。

『はい、"湯舟の女王"が、"今夜"を借りたいと。』

と、ポルポ、動揺せず、はっきりと答えた。

『"今夜"を借りる?・・・御伽婆が、今夜する事を邪魔だてするな・・という事か?』

鉤針婆は、差し出した指を、己の額にそっと当てた。

『仰せのとおりです鉤針婆。』

ポルポは瞳を閉じ、もう一度、深く礼をした。

『うーむ・・御伽婆が、動くのであれば・・・』

鉤針婆は、鼻をポリポリと掻きながら、夜空を見上げた。

『お見過ごし・・・して下さるのですね』

少し安堵の顔が、ポルポに現れる。

『イヤ・・その逆じゃ・・ヒヒ、アイツが動くには、それなりの理由がある・・じゃろ?』

鉤針婆は、アゴをさすりながら、ニヤついた目でポルポを見下ろした。

『う・・・じゃ・・邪魔だてされるおつもりですか?』

ポルポは、眉間にシワを寄せた。

『場合によっては・・・邪魔をする』

鉤針婆は、ポルポの表情を見て、ますますニヤニヤした。

『それが・・・答えですか?』

ポルポは、拳をぎゅっと握った。

『ポルポよ・・キサマ分かっていな?ワシを・・ヒヒ・まあよい、理由を聞こう。理由があるのじゃろが?』

指を横に振る鉤針婆。

『り・・理由ですか?・・・』

ポルポは、目を背ける。

『ワシに、お願いするタマじゃない者が、ワザワザそのような事をお願いするために、キサマのような使いを送るという事は、それだけ"今夜"に懸けているという事じゃろが?・・そう思うとワシは・・・その理由がとても知りたくなった。』

のそりとポルポに近づく鉤針婆。

『そ・・それは・・・』

腰を上げるポルポ。

『ああん・・女か?・・・言えないだろうなあ、そりゃあ・・ヒヒ、まあ良い・・キサマの口から聞かなくてもいい。』

シュババ!!ピーン。

『ギュハアアアッ・・・・』

下方から、悲鳴が聞こえ、しばらくしてドンという音がした。
どぶおちろが、一体、地面に落ちて潰れた。

それと同時に、
シュルルルルルルル・・・と音を鳴らし、紙コップが戻ってきた。

その針には、耳がガッチリ食らいついていた。

鉤針婆は、ポルポに気づかれることなく、
殺しの道具を仕掛けていた。

『どぶおちろは、"噂好き"だろうから・・・聞くまでもない・・じゃろ?・ふふふ』

そう言いながら、鉤針婆は、ムシャムシャと彼女が言う"ミミンガー"を食べ出した。

『キサマ・・・』

ポルポは、聞こえないような小さな声で言った。

『ヒヒ・・地獄耳だからよう、無理さ・・・ん?・・・オモシロイ・ああ・・そういう事か・・』

鉤針婆は、ギロリとポルポを睨み付けながら、クチャクチャと耳を食べ、
そして何かを悟った。

『・・・』

鉤針婆の眼力で、動けないポルポ。

『ヒヒヒ、オモシロイ。なんと同じ獲物を狙っているということか・・・』

つばを飛ばして喜ぶ鉤針婆。

『なにを・・言うか鉤針婆。』

プルプル震えるポルポ。

『なあに、三半規管と鼓膜に、しっかり耳にした事が記録されているよ・・・』

鉤針婆は、ポルポの近くに歩み寄る。

『ウラっ・・シャアアーーーーーーアッ!!』

いきなり声を上げ、隠し持っていたステッキで、鉤針婆の胸を突く鳩胸のポルポ!!

シュバババッ!!

伸びるステッキ! ポルポッティ!!

『アメーーーーーッ!』

それを、スルっと避ける鉤針婆。

空を切るステッキ ポルポッティ。

『チッ!』

舌打ちをするポルポ。

ポルポは、狙っていたのだ。鉤針婆が間合いに入るその瞬間を!

しかし、外れた。鉤針婆は見破っていた。

『シュアーーーッ!!』

左手から糸電話が放たれる。

分銅のように、勢いよく飛び、ポルポの顔に迫る紙コップ!!

『ぐっ』

間一髪!!

ポルポの頬をかすめる紙コップ(糸電話)。

外れた!?

ニヤリと笑う鉤針婆。

眉間に皺がよるポルポ。

クイっ!!

人差し指で、糸電話の糸をひっかけたその時!!

通り過ぎたはずの糸電話のカップ、釣り針が勢いよく戻って来た。

『カムバック!テレホン!』

ポルポはそれを横目、左目で見る。

針が迫る!!

殺意のある釣り針が迫る!!

『グアアアアアッ!!!』

ズブリ!!

釣り針が、ポルポの左眼球に突き刺さる!!

糸が張る。

ビーン。

ヒット!!

『フーーーーーーーーーーーークッ!!』

ブチブチブチチ・・・・!!

釣り針が刺さった眼球は、糸を引き寄せられる力に負け、
ポルポの肉体より離れた。

ジュブチーッ!!

『眼球かよ!ミミンガーじゃねえかよおっ!!』

鉤針婆としては、ミスったようだ。

『つぎっ!!シャアア!!』

今度は、右手から、糸電話がほとばしる!!

紙コップが、ポルポの眉間に迫る!!

『ソンダフォーン!!!ゴオッ!』


スッ!

消えた?

ポルポが消えた!

ポルポが、鉤針婆の視界からいきなり消えた。

まぶたごとエグられたポルポは、バランスを失い塔から落下したのだ。

よって、2発目の紙コップは、外れた。

鉤針婆は、一瞬だけ、ポルポを見失うが、すぐに落下するポルポを発見した。

『くう!!鳩胸ミミンガー待てえええっ!!』

後を追って飛び降りる鉤針婆。

バキッ!!

『ぐあガッ!!』

鉤針婆の、顔面がベコっと凹んだ。

なんと、落下する鉤針婆の顔面に、蹴りが入っている。

スローモーション感覚発動!!

そのキックは、ダンボール(一枚もの)に乗った老婆がくりだした蹴り。

空中を飛ぶダンボール(一枚もの)、その上に乗った白シミーズ姿の老婆。

頭に白い布をグルグルに巻いた、小柄な老人の見事な回し蹴りだ。

鉤針婆は、ポルポに追いつくため、頭から急降下した直後の不意の一撃。

その一撃は、鉤針婆の顔面に、見事に決まった。

クリティカルヒット!!

その蹴りをくりだした老婆の手には、がっしりと、鳩胸のポルポの手が・・・

『グアアアアっ・・・』

グルグルグルー!!

蹴り飛ばされた鉤針婆は、回転しながら落下した。

なす術もなく・・・

老婆は、宙に浮かぶ段ボールに乗り、蹴りの体制のまま、それを見つめた。

それは、湯船の女王 御伽婆。

恐怖、残り湯もらいの化け物。

『はうあああッ!!』

ひと呼吸、気合いを入れて、ポルポを、電波塔へと投げ飛ばした。

カンカンカラカラカンカンカン・・・・

ポルポは、ステッキを伸ばし電波塔の格子に引っかけ、
落下するのを止めた。

一方の、顔面を蹴られた鉤針婆は、気を失ったかのにように落下し続けている。

このまま地面に激突か?

『ハング!ハング!ハング 怨!!』

鉤針婆は、地面に激突する寸前、電線めがけて、糸電話を放った。

スパーク!!

電線がショートする。

バチバチバチバチバチーッ!!

『充電じゃああああっ!!』

感電する鉤針婆。

『まだか!?しかーし今度こそ・・封印じゃあああっ!!』

吠える御伽婆。

御伽婆は、まるで、空中でスノボー、サーフィンをするかのように、
ダンボールを見事に操る。

ギュイイイイイン!!

急降下で、鉤針婆に迫る!!

その姿を見上げ、睨み付ける鉤針婆。

『じゃかあしいいわあああっ!!』

ビヨーン・・・ビヨーン・・ビヨヨーン ビュッ!!

電線の反動を利用し、自らをパチンコ玉となって飛んだ。

『オババっ!』

ポルポが叫ぶ!

ますます加速する御伽婆。

シュバババッ!!

『じゃらあああっ!!』

電線から電気が供給され、
イナズマボールと化した鉤針婆が、御伽婆に迫る!!


シュダッ

御伽婆が飛んだ!

『おらあああああああああっ!』

ギュギュギューっ!!

段ボールだけが、鉤針婆に迫る!

キュイーン・・・ズババっ!!

手の平より電撃を放つ鉤針婆!

『ハッ!』

バチバチバチーッ ボン!!

メラメラメラ 

ものすごい勢いで燃える上がる段ボール。

炎がもの凄い。

『ん!!』

ブアハッ!!

その炎から、突如現れる御伽婆!!

『時間差攻撃!!うっしゃあ!決まった!』

バキッ!!

『ぐあがっ』

御伽婆の左腕が、鉤針婆の喉に食い込む。

御伽ラリアート!!

まさに空中プロレス!!

バギバギバギーッダダーン!!

激しく地面に、叩き付けられた鉤針婆。

何度も地面にバウンドする。

アスファルトには、大きな穴が空き、白い煙が立ちこめた。

モクモクモク・・・

ダッ・・ダッ・・ダン。

倒立前転、バック転、着地!
なんとかバランスをとる御伽婆。
なんせ頭が重い。

ヒュルルルルルルル・・・

風が吹いた・・・

一枚のダンボールがスーっと御伽婆の足下に届く。

その上に、御伽婆が乗ると、フワッと空中に浮かんだ。

ポルポは、片目を押さえながら、電波塔をゆっくりと降りて来た。

上半身のみの、どぶおちろが、ポルポの
足下にある溝に消えて行った。

御伽婆は、地面に空いた大きな穴を覗く。

そこには、動かなくなった鉤針婆の姿。
ピシピシと、電流が鉤針婆の身体の周りを走っている。

ピクリともしない鉤針婆。

それを見下ろす御伽婆。

『今夜は、ワシの勝ちじゃな・・・』

・・・つづく

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