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マオリ〜MAORIコミュの続マオリ物語

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 ある午後、仕事を終え家へ戻るとナイロがいた。
「キオラ ブロ ノー マヒ トゥデイ?」
 彼等との会話にはマオリ語が混ざる。キオラは挨拶、ブロはブラザー、兄弟、マヒは仕事のことだ。
「おう、ちょうどマヒを終えた所だ。家へ来てお茶でも飲むか?」
「いいねえ兄弟、ご馳走になるよ」
 お茶を煎れながら僕は言った。
「とっておきのグリーンティーをいれてあげよう。オレのホームタウンから送られてきたものだ」
 ナイロは日本の味をとても好きだ。
 イクラを漬けた時にも、ダニエルやエレナはダメだったがナイロはウマイウマイと食べていた。
 サンマを梅干と一緒に煮たもの、豚汁、カレー、セロリのキンピラ。僕が料理を作っているところに来ると必ず味見をしていく。たいていのものは喜んで食べる。
 お茶を飲みながら彼が言った。
「実はオレ、今日が誕生日なんだ」
「へえ、そうか。それはおめでとう。いくつなんだい?」
「31さ」
「本当かあ。オレより年上だと思っていたよ。それならビールでも飲むかい?」
「いやいや、今はこのお茶が御馳走だよ。ありがとう兄弟」
「いやいや、どういたしまして兄弟」
 テラスでお茶を飲む僕達を午後の日差しが優しく包む。目の前にはワカティプ湖が広がる。
 ワカティプというのはマオリ語で『巨人が横たわる』というような意味がある。この湖を地図で見ると、人間が膝を抱えてゴロンと転がったような形をしている。
 マオリの神話では、巨人が焼け死んだ所に水がたまって出来たのがこの湖だということになっている。
 その話をそのまま鵜呑みにするとその巨人は身長70KMにもなってしまう。いくらなんでもそこまで大きい人間というのは考えにくい。カミサマなら別だが。
 その日ナイロが話してくれた事はもっと理にかなったものだった。
「もともとこの辺りには巨人が住んでいたのさ。背丈は4mから5mぐらいかな。マオリのガウンがあるだろう。あれは脇の下から地面まで、と長さが決まっている。3m以上あるのがちゃんと記録に残っている。それを考えると身長は4mぐらいになるわけだ。それに石で出来た武器があるだろう。あれも巨大なものが残っている。とても片手で持ち上げられないような大きな物だ。だが4mの身長の人が持つにはちょうど良いサイズだ」
「そうかあ、4mの人間だったらあの辺の山なんか簡単に登れちゃうね」
 僕は目の前に構えるセシルピークを指差して言った。
「そうそう、オレ達が歩くよりはるかに楽にこの辺りの山を歩いていたのさ」
 ワカティプ湖は鉤型に曲がっていて、空からでないと全体を見渡す事はできない。地図で見ると確かに人がゴロンと転がっているように見える。
 だが西洋の文明が入ってくる以前、航空機や正確な地図がない頃、人々は自分の足で山々を歩き、この湖の形を知り巨人が横たわると信じた。
「食べ物の変化などで巨人はどんどん背が縮み普通の人のサイズになってしまったのさ」
「その話は説得力があるよ」
「他の人達は迷信と言うかもしれない。だが俺達マオリは今でもここに巨人が居たと信じている」
 山を見ながらナイロが呟いた。
 僕等の目の前でフラックスに鳥が止まる。フラックスは刀のような歯が2m程、地面から草のように生える。
 葉は繊維質でかたくマオリはこの葉を編んで、色々な物に使っていた。
花は葉よりも一段高い所に咲く。トゥイやベルバードなどの鳥はこの花の蜜を好んで吸う。
ものの本によると、鳥のクチバシが花の形に合っていて、密が吸い易いようにできていると。ナルホド、納得である。
自然界には人がどう考えても『何故こんなことになっているのだろう』と思うものと『見れば納得、ナルホド上手く出来てるなあ』というものが混在する。
これらの鳥の鳴き声は素晴らしい。鳴き声を集めたCDもあるぐらいだ。もちろん僕の家にもある。
同じ種類の鳥でも谷間が変われば別の音色を奏でる。ルートバーンなどの森とクライストチャーチの林では全然違う。開けた所に住むベルバードの音階はわりと似通っている。鳥の声にも地方訛りと標準語がある。
特に森の中だと音が響いて雰囲気をより盛り上げる。トレッキング中の最高のBGMだ。
たまに若い人がウォークマンを聞きながら歩いているのを見る。人に迷惑をかけない限りその人がどう歩こうとその人の勝手だ。しかし、つい『ああ、もったいないなあ』と思ってしまう。大きなお世話と言えば大きなお世話だ。
幸いなことに僕の友達にはこのタイプはいない。
そんな鳥たちが僕達の目を楽しませてくれる。フラックスを見ながら僕はナイロに聞いた。
「あのフラックスの根本にゼリー状のものがあるだろう」
「おう、あるある」
「あれは今でもマオリの人達は使っているのかい?」
「おう、普通に使っているよ。フラックスのジェルは皮膚病、火傷によく効く」
「じゃあアロエみたいなものだね。日本では医者要らずって名前だ」
「医者要らず、面白いじゃないか。フラックスの葉は細工物を作る。オレの家にあるだろう」
「うん。あるねえ」
「それから葉を煎じて飲むと胃腸薬にもなる」
「へえ、それは知らなかった。オレもためしてみようかな。他には?」
 ナイロはどの木がどんな薬になるか、どの植物が食べられるか。いろいろな例をあげて説明してくれた。まったくためになる勉強だ。とても良い先生だ。
そういえば、実際にどこかでマオリの講師をやっていると言っていた。ナットク。
「オレが好きな日本の言葉で『医食同源』というのがある。もともと中国の言葉だけど、『食べる物と医療の物は元を正せば同じ物』という考えだ。どこかしら通じるものがあると思わないか?」
「医食同源ねえ。いい言葉だなあ。人はそうあるべきだろうな」
「なあナイロ、今オレ達が生きているのは西洋の文明の中だろ」
「どういう意味だ?」
「うん、この家だって、テレビ、コンピューター、自動車、飛行機、電気、ガス、全て西洋のものだろう。マオリとか日本のアイヌとかアメリカンインディアン、エスキモー、アンデスのインディオ、そういった文化とは違うものだよな」
「ああ、そうだ」
「この文明のおかげでオレ達はすごい楽に生活ができている。水一つとっても、蛇口をひねれば水は出てくるわけだ。それが無ければ湖や川へ水をとりに行かなければならない」
「その通り」
「それどころかもう一つの蛇口をひねればお湯まででてくる。火を起こして水を温める手間を考えれば、とんでもなく楽だ」
「フムフム」
「今さら人間は原始の生活にもどる訳にはいかない。だけど、この西洋の文明が行き詰まりになっているんじゃないか、と思うことがよくある」
 ナイロは深く頷いて言った。
「それはもう目に見える形であらわれているじゃないか」
「えっ?どんな形で?」
「考えてみろよ。目に見えているよ」
「うーん、何だろう。戦争か?」
「違う。ガソリン代の高値だ」
「あ」
 僕は言葉を失ってしまった。ジグソーパズルをはめるように全ての質問の答えがつながっていった。ナルホドなあ。ナイロが続けた。
「人々は今までとは違うものが必要だ」
「そこでだ、オレはこういったマオリの知恵やアメリカンインディアンの教え、その他迷信や神話と呼ばれていたものが大切になってくるのだと思う」
「よく言った。兄弟。その通りだ」
「人というのは結局、自然の中の一部だろうとオレは思う。木とか鳥とか動物などと同じ。オレもオマエも全体の一部なのさ」
「その通り、全体の一部だ。オマエがそれを分かっていれば大丈夫だ、兄弟」
 ナイロはマオリのテレビにも出ていて、マオリの世界ではかなり有名な人らしい。クィーンズタウンに来て間もない頃によく「あのテレビに出ていた人かい」と声をかけられたと言う。その度に「シッ、ここにいるのは内輪だけの話だよ」とやったそうだ。
 一度彼が指揮したマオリのカパハカをビデオでみせてもらった。部族ごとに歌やハカと呼ばれるマオリのウォーダンスなどを披露する大会がカパハカと呼ばれ、何年かに一回開かれる。
 ナイロのグループは彼自身が歌を作り、振り付けなども彼が指揮した。
 彼自身はその部族の酋長となり、マオリの呪文を唱え、周りの人を引っ張る。
 伝統衣装のガウンを羽織り杖を持ち頭に羽根飾りをつけた様子は立派なマオリのリーダーだった。
弟のダニエルも出ていた。彼は酋長の号令に従う若き戦士だったのだ。
 
 日本から手土産の日本酒を持ち帰り数日たったある日、僕は隣のダニエルに呼びかけた。
「ダニエル、今晩の予定は?」
「別にないよ、兄弟」
「じゃあ上へ来て一杯やるか?ナイロも呼んで来いよ」
「わかった。兄弟」
 彼等が上がってきてグラスに半分ぐらい入れて手渡した。銘柄は忘れてしまったが純米吟醸だ。
 彼等はクイクイと一気に飲み干してしまった。横にいたヘナレが慌てて小さなぐい飲みを出してきて言った。ヘナレは日本にいたことがあり、僕が持ってきた酒のありがたみを知ってる。
「オマエ達もっとチビチビ味わいながら飲むんだよ。これはいい酒だぞ」
 ヘナレの言うとおり兄弟のペースで飲んだら五合瓶など1分で空になってしまう。
 ヘナレは少し口に含むとじっくりと味わい言った。
「ウマイ酒だなあ。こんなにいい酒を飲んだのは何年ぶりだろう。きっと日本に行った時以来だ」
 ナイロもダニエルもヘナレを真似てチビチビとやっている。
「どうだナイロ、こんな酒は冷やして飲むのがいいだろう」
「確かにな。熱くして飲むのはどんな時だ?」
「それは好みの問題だ。寒い時に熱燗でキュッとやるのも悪くない。ただこの辺で普通に売っている酒なら熱くしてもいいが、こんないい酒を熱くしたらもったいない」
「ナルホド」
 兄弟達もこの酒のウマさを理解しかけたころボトルは空になってしまった。
ウマイ酒は封を切ってその場で空けるに限る。もったいない、などといって台所の片隅に置いておく、などもってのほか。
ウマイ酒はウマイ時に飲みきるのが酒に対して、酒を造った人に対しての礼儀である。
ナイロがギターを持ち出しポロリポロリとやり始めた。それを見てダニエルもギターを持った。
ギターならこの家には事欠かない。僕のアコースティックギターが1本。ヘナレのエレキギターが1本、アコースティックギターが2本、そのうち1本は12弦ギターだ。住人3人でギターが4つの家なのだ。
さらにアフリカかどこかのドラムが二つ、尺八、マオリのフルート、ハーモニカ、マラカスなどなどこの家は鳴り物にあふれている。
僕等は家では音楽を聞いているか、ギターを弾いている時間が長い。テレビはほとんど見ない。この家ではチャンネル1、日本で言えばNHKみたいなものしか映らないからだ。ヘナレも僕も『まあそれでもいいか』といったかんじで直そうともしない。唯一の不満はラグビーが見れないことぐらいだ。
テレビをほとんど見ないのでその時間を、ギターを弾く、本を読む、山をボケーっと眺める、物思いに耽る、酒を飲むなどなど有意義に使うことができる。
ナイロがギターで先導してダニエルが徐徐に同調していき、2人の呼吸が合い歌が始まった。
曲名は『テ・アトゥア。ピアタ・キ・ルンガ・イア・マトウ・エ』恐ろしく長い。あまりに長いので僕等は『アウエ』と呼んでいる。
♪アウエ・ワイルア・イーヨ・マトゥア
イーヨ・マトゥアという名の神に捧げる詩だ。
ダニエルたちが歌っているのを聞いて、僕も歌いたくなった。彼等の家で歌詞を見せてもらい、カタカナで書き写し、何回も唄ってもらい、一夏かけてやっと覚えた。
「この歌はマオリのゴスペルなんだな。歌詞だってそうだろう、だからメロディーラインも美しいんだ」
 ヘナレが言った。
唄が一段落して、僕はナイロとテラスで山を見ながら話した。
「ナイロ、僕がマオリの音楽を好きな訳は、この景色とこの空の色にピッタリ合っているからなんだよ。うまくは言えないけど、この地で生れた音楽だからなんだろうな」
「そうさ、音楽は人間の内部から湧き上がってくるものだ。
オレが初めてクィーンズタウンに来た時の話だ。飛行機の窓から美しい山、湖、川が見えた。それがそのまま詩になるから慌てて書き留めたんだ。他の人が全員降りてもオレは機内で書いていた。ここはそれぐらい素晴らしい場所だ」
「ナルホドねえ」
 ナイロは優れたミュージシャンでもあり、近々彼のCDが出る予定だ。音楽のセンスがある人間というのは何をやらせても上手く、ドラムを叩けば『こんな音、こんな叩き方があるんだ』と感心してしまうし、キーボードだって弾く。さすがにヘナレの尺八は吹けなかったが、マオリのフルートも吹く。
「それとオレが好きなのはオマエ達兄弟の会話だ。オレにはオマエ達が何を喋っているのか全然分からない。だけどマオリの音の響きが好きなのさ」
「その気持ちは分かる。オレはな、オマエとイクが日本語で話をしてるのを聞くのが好きだ」
「聞いていたのか?」
「ああ、みんなでワイワイやっている時に、オマエ達が輪の外で日本語で話をするだろう。そんな時にもオレは耳をそばだてて、ちゃんと聞いていたよ。意味は全く分からないけどな」
「ナイロは韓国には行ったことがあるんだよな。韓国語と日本語は全然違うだろう」
「ああ、全く違うな。オレは日本語の響きが好きだ。これは理屈じゃない。だからオマエとイクの話が好きなのさ。もっとどんどん喋れ」
「そんなこと言われると意識して話しづらくなるな」
「何、普通にしていればいいのさ、兄弟」
部屋に戻りイクにその事を話していると、ナイロと目が合った。ヤツがニヤリと微笑んだ。

 ナイロはスキーをやらないので、あまりスキーの話になることはない。その点フラットメイトのヘナレはスキーヤーなので、雪の上で滑る感覚を理解してくれる。
 ある夏の終りの1日、南島南部は雪に見舞われた。ニュージーランド南島では夏でも雪が降ることがよくある。数日たてば消えてしまう雪だが、周りの山々はあっという間に冬化粧になった。
リマーカブルスの岩の窪みに雪がたまり凹凸がくっきりと浮かび上がる。冬は一年で一番美しい時だ。
テラスから見えるセシルピークも中程から上は白い雪を乗せ夕暮れに染まる。
ヘナレが尺八を吹きながら部屋からでてきた。そして言った。
「わあ、ビユーティフル。冬みたいだな」
「良いオープンバーンが見えるね。あそこは滑った事はある?」
「いや、まだ無い」
「あんな所滑ったら気持ちいいだろうな。自分があそこを滑るとしたらどういうラインを通る?」
「ピークの下の岩場を右にかわしその横からだな」
「オレなら逆にトラバースしてドロップインかな、その下のオープンバーンのど真ん中だ」
「ナルホドナルホド」
 彼はヘリスキーガイドなのでこの辺りの山々は自分の庭のように知っている。
 マオリのスキーヤーというのは以外に少ない。もともと温かい所から来た人達だから、住んでいるのも気候が温暖な北がほとんどだ。北島のスキー場は知らないが、南島のスキー業界で働いているマオリを僕は3人ぐらいしか知らない。
 ヘナレもそれは前から思っていて、ヘイリーと初めて会った時『お、こんな所にマオリがいるぞ』と思ったらしい。
 そういえば十年以上も前の話だが、当時のニュージーランドスキーチャンピオンは、サイモン・ウィ・ルトニというマオリである。何年間もチャンピオンだった記憶がある。
「ヘナレはどんな板を使っている?ファットか?」
 ファットとは幅広のスキーのことで、新雪の中で浮力がある。
「うん、そうだ。ヘッジは?」
「わりと細めのやつに乗っている。オレは新雪の中で板を潜らせるのが好きなんだ。板と下半身が雪に埋まり、それがバサッと浮き上がるのが気持ちいいんだ。わかるだろ?」
「分かる、分かる」
「オレの夢はねえ、頭まで新雪の中に潜るような場所でシュノーケルをつけて滑る事さ。よっぽど条件が良くなければそんな事できないけどね」
「だけど仕事で重いザックを背負ってみろよ。ファットは楽だぞ」
「そりゃそうだ。だから夢の話をしているんじゃないか」
「そうだよな」
 彼は素直に同意した。
「そうやって板を潜らせるような滑りだと、幅を取らなくて良い。幅が10mもあればそれで充分だ。どうだお得だろう」
「全くだ。なあ、オマエと一緒にスキーをしたいなあ」
「ああ、おれもそう考えた所だよ。都合を付けて来ればいい」
「ヘッジはこっちには来ないのか?」
「たぶん来ないよ」
 ヘナレはズルイナという顔をしたが、僕が普段滑っているスキー場が、どれくらい素晴らしい所か知っているのでそれ以上は言えない。
「そうだ、話は変わるが尺八の説明書を読んでみてくれないか?」
「お安い御用だ。どれどれ、ふむふむ、なるほど」
「何て書いてある?」
「尺八は竹林の中を拭きぬける音がイメージとなっている。野外で出来た楽器なので屋外で吹くのが好ましい。それ自体でも演奏に適している」
「おお、それはいい」
「今のオマエさんがそれじゃないか。もっとどんどん吹け」
 竹林の中を抜ける風の音が、暮れなずむ雪山に吸い込まれていった。

 季節は流れる。
 様々な命を乗せた天体の半分では長さに違いはあれ、夏という季節に別れを告げる。
 季節の違いは温度差となり環境を変え、そこに住む生き物全ての生活を変える。もちろん人間の暮らしにも大きく影響を与える。
 夏はトレッキングガイドの僕だが、もともとはスキーヤーであり、冬の到来とともに仕事場も変わる。
秋は僕にとって別れの季節だ。
クィーンズタウンを去る日が近づいたある日、ナイロとテラスで山を見た。
「ナイロ、日本の音楽で君に聞かせたい歌がある」
 僕はCDをセットした。ビギンの一期一会。
「この人達は沖縄という所の人達だ。日本の南、小さな島の話だ。この楽器は弦が4本のちょっと変わったギターで『一期一会』という名がついている」
「イチゴイチエ」
「そう一期一会」
「なにか意味はあるのか?」
「人と人の出会いは、1回限りという意味だ。こうやってナイロと出会うのも今日が最後になるかもしれない。ひょっとすると再び会う事があるかもしれない。それは誰にも分からない。だからこそ今、この出会いの瞬間を大切にする、というような事だ」
「ナルホド、イチゴイチエ、いい言葉だ」
「なあ、もしもだ、もしも将来、何かの仕事で日本に行って、その時にマオリの唄を歌える人が必要だ、なんて言ったら来てくれるかい?」
「お安い御用だ。兄弟」
「そんなこと実現するかどうかなんて分からないぞ。ひょっとすると十年とか二十年の先の話になるかもしれない。ひょっとすると5年先の話かもしれない。それは誰にも分からない。ただ夢を持つのは悪くないかなと思うんだ。実際、今年オレはマオリの友達を日本に連れて行った。数年前に夢見た事なんだ」
「ああ、いつでも声をかけてくれ、兄弟」
「それにしてもナイロは31だろ。最初に友達になったのがダニエルだから、ナイロは何となくオレにとってもお兄さんのような気がするよ。とても年下とは思えない」
「それはオレが持っている知識がそうさせるのさ」
 ナイロの言う知識とは、学校の勉強とは別の知識である。
 マオリに生れ、言葉を話し、音楽を奏で、武道を伝える。先祖の声に耳を傾け、そこから新しいものを作り出す。彼の体に流れるマオリの血、という知識なのだ。

この想いをあなたに イーヨ・マトゥア
なぜあなたは怒りを見せるのか
私達は尋ねる
最後の力であなたをたたえる 
答えてください 神よ
探していた事をお許し下さい
そして照らしてください
昼と夜を創りあげた神よ
痛みはあなたの名前の音と共に去る
照らしてください 
あなたの信者より
イーヨ・マトゥア・コレ
私達の声が届きますか 父よ
この深い泣き声が
私以上に未来の無い者の泣き声が
より正しい事を知らない者の泣き声が
この想いをあなたに イーヨ・マトゥア

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