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マオリ〜MAORIコミュのマオリ物語

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はじめまして。南島在住のひっぢと申します。マオリの話を書いてみました。とても長いのでトピックを起てさせて頂きました。読んで頂ければ幸いです。
続編を日記に書いているので興味のある方は覗いて見てください。


 この夏、僕にマオリの名前がついた。
 ヒ・ティリティリという。
 ナイロというマオリの男がつけてくれた。
 僕の名前はひじり、ニックネームはヘッジ。はりねずみのヘッジホッグからきている。
 日本人の友達はヘッジと正しく発音する人もいるが、ヒッヂと呼ぶ人が多い。たまにヒッチと呼ばれる事もある。ヒジリ君とかヒジリさんと呼ばれる事も多い。
 僕としては呼びやすいように呼んでもらえればそれでいいので一々訂正はしない。
 福島のスキー場で働いていた時にはローカルの発音でヒジリがシジリとなり最終的にスズリとなった。その時の友達は今でもスズリ君と僕を呼ぶ。
 日本語の名前、聖は静岡と長野の県境にある南アルプス南端の3000mを越える山、聖岳からもらったものだ。
 日本とニュージーランドを往復していた頃は冬を追いかける生活をしていたので、日本の夏山を僕はほとんど知らない。山と云えばスキー板を担いで登るものだと思っていたのだ。
 山仲間のトーマス曰く、聖岳は谷が深くアプローチが大変で他の山の様に俗化が進んでいない、良い山なのだそうだ。いつか時間を見つけて登りたい山だ。
 僕のお客さんは山に登る人が多いので、聖岳の聖です、と自己紹介すればすぐに分かってくれる。この名前を付けてくれた親に今では感謝をしている。
 子供の時には、ケンとかカズとかマサとかそういう普通の名前がついた友達が羨ましかった。なんで自分だけ変な名前なんだろうと、子供心に悩んだものだった。
 全ての人が聖岳を知っているわけではないので
「どういう字を書くのですか?」
と聞かれる事もある。
「松田聖子の聖です」
と答える。たぶん今、松田聖子と道ですれ違っても僕は気が付かないだろうが、彼女の名前の効き目はてきめんでほとんどの人が納得してくれる。
「ひじりなんて、エライお坊さんのようですね」
 そんなことも言われる時がある。しかし時代によっては乞食とか浮浪者の事をもそう呼んだのだ。
 京都のお菓子で聖というものもある。生八つ橋で粒餡が入っていて肉桂の香りが良い。緑茶にとても良く合う。大好きなお菓子の一つだ。
 ある日ナイロと飲んでいると名前の話になった。
「ヘッジ、オマエの日本語の名前は何だ?」
「ヒジリと言う」
「意味はあるのか?」
「セイントとか僧侶とかそういう意味だが、オレの場合は山から名前を貰った」
「そうか。ヒジリ、ヒジリ、ヒティリ、ティリティリ、ヒティリティリ、ヒ・ティリティリ!オマエの名前はヒ・ティリティリだ」
「ヒ・ティリティリか、いいな。どういう意味だ?」
「意味は無い。音が良いだろう」
 そんな具合で、ヒ・ティリティリという名前がついたわけだ。
僕にとってこの夏はマオリと関係が深かった。マオリの言葉も多少覚え、唄も歌えるようになった。ボイルアップというマオリの料理も覚えた。
 同時に十数年この国に住んでいながら、マオリの事を何も知らない事に気が付いた。

 ある夏の夜、僕はいつものテラスでボケッと山を眺めていた。時間は午後9時を過ぎたところだが、空は充分明るい。
 日中は西日が差すこの場所は日没後の数時間が一番心地良い。日が出ている時にはTシャツだが、太陽が沈むにしたがって気温が下がるのでフリース、ニット帽、山用ジャケットとどんどん着込んで山に居るような姿でテラスに座る。
 目の前には氷河が削った跡がそのまま残っている山、曲がりくねり横たわる大河のような湖。自分のいるこの場所も数万年前は氷の中だ。西にある稜線がポッカリ、シルエットで映る。
 今年の夏、何十回ここからこの景色を見たのだろう。
 湖を走る蒸気船が黒い煙をたなびかせる。絵になるとはこんな景色だ。
 部屋の中から尺八の音が聞こえてきた。尺八という言葉はいろいろな意味があるが、楽器の尺八である。
 吹いているのはフラットメイトのヘナレだ。
 フラットメイトとは同居人のことである。
ニュージーランドではフラットシェアというシステムがある。一つの家を何人かで共同で使うことだ。キッチン、リビング、バスルームなどは共有スペースで、ベッドルームは個人のスペースだ。
 大体どこの家でも子供が学校を出ると親元を離れフラットに住む。友達と住む事もあれば、赤の他人と住む事もある。電話代、光熱費、食費などは住む人が話し合って決める。
 時には話が合わなくてケンカをする事もあるだろうし、ひどいヤツに当れば全く家事をしないとか家賃をふみたおされることもある。
そうやって他人と住む事により、共同生活のモラルを身に付け大人になっていく。とても良いシステムだ。いつまでも親離れできない日本の若者とは大きな違いである。
 僕が今いる家はヘナレの持ち家で、彼と日本人の彼女、イクと2人で住む。そこに僕がフラットメイトとして入った。
 テラスからの眺め、あかあかと燃える薪ストーブ、木を組んだ壁に当る間接照明、立て掛けられる4つのギター、テレビの上の燭台、葦を編んだ敷物、木彫りのマオリの神サマ、羊歯の幹を彫った門柱、軽石を釣り糸で結んだインテリア、白い革張りのソファー、家にあるすべての物が調和する。
 これがヘナレのセンスだ。
 ヘナレとは去年2回ぐらい会っただけだったが、今年から一緒に住むようになった。
スキーに対する考え、山に対する考え、人生観、音楽の趣味が重なり、一週間で十年来の友達のように意気投合してしまいお互いにブラザーと呼び合うようになった。
 ヘナレは不動産セールスのかたわら、夏はフィッシングガイド、冬はヘリスキーガイドもこなす。
普段はスーツで仕事ヘ行くが、フィッシングガイドの時には釣り用のベストを着込み嬉々として家を出る。
 生粋のマオリだがマオリ語は片言しか喋れない。ちなみに日本語も片言だ。
 夏の夕暮れはゆっくりと光を落とし、西の空がオレンジ、白、そして藍色の三色に染まる。
 ヘナレがテラスに出てきた。
「美しい。今晩もきれいだな」
「オレはこの時間が一番好きだな。夕方と夜の狭間だ」
「トワイライトゾーン、たそがれどきだよ」
 再びヘナレが尺八を吹き始めた。竹独特の音色が辺りに木霊する。
 ヘナレが日本に行った時、誰かが吹いているのを見て欲しくなり、楽器屋へ行って尋ねた。
「スミマセーン、シャクハチクダサイ」
 最初の2軒では若い女性の店員が顔を赤らめながら言った。
「そんな事、言っちゃダメです」
 3軒目でやっと尺八を見せてもらい、値札を見た。18000円。
「・・・・・・クソ、高いな」
 思わず呟き、尋ねた。
「アノ、ベツノヤツアリマスカ?」
「ノーノー、オンリーワン」
 1時間悩んで買った。
音が出るまで1週間かかった。
僕は1ヶ月ほどやって音さえ出せなくてあきらめてしまったが、ヤツはちゃんとメロディーを奏でるくらい上手くなっている。
 10mほど離れたお隣さんからギターの音とマオリ語の唄が聞こえてきた。隣にはマオリの若いヤツらが住んでいる。年は20代前半。とてもきれいなハーモニーでマオリの唄を歌う。
 僕はヘナレに言った。
「なあ、ヘナレ。民族音楽ってあるだろう。オレは世界のあちこちで民族音楽を聞いてきた。南米のアンデスではフォルクローレがぴったりだった。中国の西の外れ、イスラムの地では名前も知らないビワみたいな楽器の物悲しい音が、辺りの雰囲気に溶け込んでいた。そしてここだ。この景色、この空の色にはヤツラの唄が合うんだよ。だから唄の意味は分からなくても好きなんだ」
「分かる。分かるよ、その気持ち」
「いいお隣さんを持ったな」
「本当だ。これでパケハ(白人)のティーンエイジャーがここにいて、ドンドンってベースの効いた今時の音楽なんかかけたら最悪だろ?」
「そりゃ最悪だ」

 隣にはダニエルとエレナのカップル、そしてダニエルの友達のロニー、マオリの3人が住んでいる。
 3人ともパケハの物差しで言えばとんでもなく太っている。だが白人の病的な太り方と違う。健康的に太っているとでも言おうか。これがマオリの血なのだろう。
 彼等も数十年後立派なマオリのオジサンオバサンになっていくのだ。
 ダニエルは図体と髭もじゃの顔に似合わずクリクリした目を持っている。そのアンバランスさが可愛い。
 たまに日本の歌『瀬戸の花嫁』をマオリ調で歌う。お母さんに教えてもらったそうだ。
♪セトワーヒグレテーユーナーミコーナーミー。
 こんなのは日本とマオリの文化の産物などと呼んでもいいのだろうか。
 ダニエルと名コンビなのがロニー。
 彼はベーシストなのだが、ベースを弾く人に多い、落着いた雰囲気が全く無い。
 マオリの唄には日本の民謡みたいに合いの手が入る。ロニーは合いの手が好きで、いつも歌の合間に陽気に叫んでいる。
 彼のベースギターの前面にはびっしりとマオリの模様が彫刻されている。芸術的な彫りだ。
「ロニー、これどうしたの?自分で彫ったの?」
「違うよ。親父にやってもらった」
「へえ、すごいねえ。こんな彫りは時間がかかるでしょう。丸1日ぐらいかかった?」
「全然。ちょいちょいって15分ぐらいでやっちゃったよ」
「え〜?15分?」
 彫るところを見てみたいものだ。
 ロニーは近々ここを去り北島へ帰る。代わりにダニエルの兄ナイロがやってくる。
 出会いは偶然であり、別れは必然なのだ。
 僕もヘナレも彼等の唄が大好きで、彼等が友達を呼んでパーティーをやると
「ダニエル!もっと大きい声で歌え。聞こえないぞ」と野次をとばす。
 ヘナレの家は彼等の家より一段高い所にあるので、自然彼等を見下ろすようになる。
 寝る時はベッドルームの窓を開け、ヤツらの唄を聞きながら寝る。最高のBGMだ。
 ニュージーランドではノイズコントロールというものがある。パーティーなどで夜遅くまで騒いでいる家へ行き「もしもし君達ちょっとうるさいよ。近所から苦情がきてます。もうちょっと静かにしなさい」と言ってくれる人だ。
「ノイズコントロールに電話しようぜ。『あのう、隣の家なんですけど、もうちょっとボリューム上げるように行ってくれませんか』ってな」
「ワハハハ。そりゃいいや」
 もちろん僕等が彼等の家へ行き、唄を聞かせてもらうことも多い。
 僕は37才、ヘナレは35才。彼等とはひとまわり以上違う。言葉には出さないが、彼等の立振舞いで何となく年上の人への敬意があらわれていて居心地が良い。
 クリスマスの日には朝からバーベキューである。ラム肉、牛肉、ソーセージ、目玉焼きそしてサラダを皿に山盛りにしてガツガツ食う。手掴みで骨に付いている肉を歯で削ぎ落とす。骨の髄をチューチューと吸う。
 パケハの社会では眉をひそめるような食べ方だが、ここでは見ていて気持ちが良い。
 物を食べるという全ての生き物に必要な事。これを若い彼等にあらためて教えてもらった。そんな気分で僕もモリモリと食べた。
 ダイエット?そんなのどこかの誰かが言っている事だろう。俺たちには俺たちの食い方がある。
 マオリの血は強い。

 ある雨の夜、テラスでぼんやり山を眺めているとダニエルが声をかけてきた。
「ヘッジ、下へ来て一杯やらないか?」
「うーん、どうしようかな。もうちょっとのんびりしたら行くよ」
 正直ちょっとおっくうだった。行けばそれなりに楽しいだろうが、仕事の疲れが多少残っていた。こんな日は家でゴロゴロとヘナレが借りてきたカンフー映画でも見ようと思っていた矢先だ。いやいや、こういったチャンスは逃してはいけない。自分に言い聞かせて重い腰をあげた。
 家に入るとダニエルの兄ナイロがギターを抱えていた。
 ナイロは数日前にロニーと入れ替わるようにクィーンズタウンへやって来たばかりだ。
巨漢のダニエルに比べれば一回り小さいが、がっしりした体格でジャージの上下など着ているものだからまるで体育の先生のようだ。後で聞くとマオリの武術をやっているとの事。納得。右目の上にピアスがぶら下がっているのは何か意味があるのだろうか。
 兄弟の会話は英語半分マオリ語半分で、僕には全く理解ができない。
 唄う歌はマオリの歌だけだ。意味はわからないが音の響きが実に心地よい。
 それに加えナイロのギターが素晴らしく、思わず聞きほれてしまう。彼はぎっちょなのかギターを右向きに持つ。小さい時からそれでやってきたのだろう。ギターは右利き用のままで器用に弾く。
 ダニエルやロニーのギターも上手いと思ったがそれとは次元が違う。
周りでは若いヤツラがビールを片手にナイロのギターに合わせて唄う。のってくると床を踏み鳴らし、腕を振り回しマオリのダンスを踊りながら唄う。女の子達はポイと呼ばれるヒモの先にボールが付いた物をパタパタと器用に回しながら唄う。
女達のポイも男達のダンスも何十回かマオリのショーで見たことはある。思い込みとは恐ろしいもので、こういったものをやるのはショーの時だけだと思っていた。ショーが終りメイクを落とすと普通の兄ちゃん姉ちゃんなのだ。
この家では普段着の彼等が誰に見せるわけでもなく、自分達の為に唄う。
パケハの文化に屈服しないマオリの文化はこうやって生きる。
僕は一人観客となり彼等の音楽を楽しんだ。
歌を終え各自ビールやお茶を飲む。僕はテラスでナイロと山を眺めた。彼と2人きりで話すのは初めてだ。
「ナイロ、君のギターは素晴らしいよ。今夜はいい思いをした」
「そう言ってもらうとうれしいな」
 彼はスパイツをがぶりと飲んで言った。
「うん、このビールも悪くないな」
 ナイロは南へ来てまだ日は浅い。ロニーが去り、入れ替わるようにやって来たのだ。
「普段は何を飲んでいるんだ?トゥイか?」
「いや、ワイカトだな」
 トゥイもワイカトラガーも北のビールだ。
「南ではみんなスパイツだろう」
「ああ、このビールもなかなか良いぞ。悪くない」
「ここでは安いしね」
「本当はウィスキーが好きなんだ。グラスに氷を浮かばせて飲むのが好きだ」
「そうか。オレはウィスキーは飲めないんだ」
「ふーん、他には何を飲む?サケか?」
「ああ、美味いサケはいいぞ。飲んだことはあるか?」
「オレが教えてもらったのは、オーブンに入れて温めて飲む。あれも美味かったなあ」
「ナイロ、本当にいいサケは冷やしても美味いんだぞ。そうだなちょうど白ワインみたいにな。そうだ、今度日本の土産に上等のサケを買ってくるよ。びっくりするぜ」
「それならオマエが帰ってきたらウェルカムホームのライブをやろう」
「うわ、そりゃ嬉しいや」
 ビールを持った手を軽く上げて、僕の目を見ながら彼は言った。
「なに、これが俺達マオリのやりかたさ」

続く

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