法学院　行政書士試験制覇の扉コミュの行政書士試験対策　行政事件訴訟法③

今回は裁判所の権限を中心に記述します。

・執行停止

執行停止とは、処分の執行・処分の効力、処分の手続の続行を差止めることいいます。

ただし、執行停止の申立てをしたとしても、直ちに処分の執行が中断されるわけではありません。

処分の執行などにより生ずる重大な損害を避ける為、緊急の必要があるときに限って裁判所は執行停止をすることができるのです。

これは職権で行うことはできません、原告側からの申立てによって執行停止をすべきかどうかを考慮し、申立ての内容に理由がない場合や、公共の福祉に重大な影響を及ぼす場合などがないかどうかを審査した上で執行停止がなされるわけです。

あくまでも申立てによって行うことができます、引っ掛かりやすいの注意が必要です。

・内閣総理大臣の異議申立て

行政処分などについて執行停止がなされた場合、または執行停止がされようとしている場合には、内閣総理大臣はそれについて異議を申し立てることができます。

この趣旨について、行政事件訴訟とは要するに国を相手に裁判を行う制度なので、行政権の最高責任者である内閣総理大臣が特別に関与することができるのです。

ただし、無関係に異議を申し立てることができるわけではありません。

必ず正当な理由が必要とされています、そして裁判所が下した執行停止について異議申立てをした場合、内閣総理大臣は次回の常会でこれを報告しなければなりません。

内閣総理大臣によって異議申立てがなされた場合、裁判所は執行停止をすることができず、執行停止を既に行っている場合は、これを取消さなければなりません。

この制度には仮の義務付け、仮の差止めについても内閣総理大臣の異議申立ての規定が準用されます。

・職権証拠調べ

裁判所は必要があると認めるときは、提起された事件の証拠について積極的に証拠調べをすることができます。
ただし、証拠調べの結果については当事者の意見を聞かなくてはなりません。

この点は裁判所は職権で証拠調べをすることができます、民事訴訟などと違い、当事者が提出した証拠のみ申立てによって審理するのとは異なり、行政事件訴訟において特有
の権利であると言えます。

・釈明処分の特則

審理する事件についてその内容をはっきりさせる為、国や公共団体に対し関係行政庁が保有している裁決書や資料などの保有しているものの全部または一部の提出を求めることができます。命令とは違うので注意しましょう。

その他、前述の行政庁以外の行政庁が保有する文書や資料の全部または一部の送付を嘱託することが認められています。

嘱託とはお願いするという意味です。

・行政庁の訴訟参加及び第三者の訴訟参加

訴訟の結果に第三者の権利を侵害してしまう恐れがある場合には、『申立てまたは職権』で決定をもって当該第三者を訴訟に参加させることができます。

この他、裁判所は処分をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させる必要があると認めるときは、申立てまたは職権で決定により行政庁を訴訟に参加させることができます、ただし、予め当事者と行政庁の意見を聞かなければなりません。

ここからは未だ触れていなかった訴訟類型である、当事者訴訟及び民衆訴訟並びに機関訴訟を中心に取り上げてみます。

試験対策上では取消訴訟が頻繁に出題されている為、抗告訴訟である処分の取消しの訴え等に関する細かい知識が必要とされる場面が非常に多いです。

しかし今後、民衆訴訟や当事者訴訟などからは全く出題がないとは言い切れませんからこの部分にも軽くでも目を通しておかなくてはなりません。

行政事件訴訟法そのものは1条から46条までしかない、割りと小さな法律です。

内容については、一部分ではありますが民事訴訟法などの知識を要する部分や難しい用語を用いた条文もありますので、軽く目を通しただけでは理解し難い複雑な法律とも言えます。

基本は抗告訴訟そのものであることを念頭において、的から外れないように学習するようにしましょう。

・当事者訴訟（第4条本文）

当事者訴訟とは第4条で規定されているものですが、条文を一度に書くと長くて解りづらいと思うのでそれぞれ分けて記載します。

この法律において当事者訴訟とは

『当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの』（第4条前段）

および

『公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう』（第4条後段）

この前段と後段にはそれぞれ異なった訴訟類型が存在しており、前段を形式的当事者訴訟、後段を実質的当事者訴訟と呼ばれています。

形式的当事者訴訟の特徴は被告人がいること、そして処分や裁決の存在があることです。

例をあげてみましょう。

代表的な例は、土地収用法に基づく収用において補償額を争うものなどがあります。

第4条前段を思い出してみましょう。

当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分、と書かれている部分は土地収用法という法律に基づいて土地の収用を行う者と補償金を受け取る者を指します。

収用を行う者と補償金を受け取る者は当事者であり、その根拠は土地収用法という法律に基づいています。

ここで既に当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分や裁決、といった部分が当てはまるのです。

そして補償金を受け取った人が補償金の額が安すぎると思い、起業者を相手取って訴訟起こす場面と、起業者が、その支払う補償金が高すぎるとして補償金受領者を相手取る訴訟の場面が想定されます。

この部分は第4条前段の『法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの』という部分に該当します。

どちらのパターンでも必ず被告人が存在し、土地収用法という法律の規定が切っ掛けで発生している訴訟の場面です。

少し細かくて難しいかもしれませんが、１つ１つの文言を例に当てはめて考えてみればそれほど理解し難いものではないでしょう。

では、次の実質的当事者訴訟をみてみましょう。

実質的当事者訴訟の根源となる条文は第4条後段にある、

『公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟』を言います。

ここでは、公法上の法律関係が前提となっていますので対等な立場で争う民事訴訟とは次元が異なります。

民事訴訟は私法上での紛争が中心になります、例えば民法上の不法行為責任の追及や、私法とは異なりますが労働条件に基づく賃金不払いの支払を求める訴訟などがあります。

これに対し公法とは通常、憲法や行政法などの国や国民の権利を客観的に捉える法律を指します。

それでは例をあげてみましょう。

例えば公務員の免職処分に対して、処分を受けた公務員が未だ自分は公務員の地位を持っているとして免職処分の無効を争う場面です。

公務員の選任や懲戒免職処分は公法を切っ掛けとしてなされるものであり、その無効を求め、自己の地位の確認を明瞭にする訴訟類型を言います。

この他にも退学処分を受けた国公立大学の学生が自己の身分確認を求める訴訟、在外日本人の選挙権制限違憲訴訟など、様々なものがあります。

では実際に条文を当てはめて考えてみましょう。

退学処分を受けた国公立大学の学生が処分無効の確認を求める訴えは、第4条後段にある『公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟』に該当します。

国公立大学は国が設立するものであり、根拠法は多々あれど公法である場合が大多数です、その中で講義などを受ける学生は大学を利用する立場にある為、この部分が

『公法上の法律関係』に該当し、退学処分の無効確認の訴えは

『公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟』に該当するわけですね。

ここもやや理解するのに時間がかかりそうですが、難しい用語に惑わされないように文言を例に当てはめて、自分なりに解釈出来れば問題ありません。

以上が当事者訴訟の基本的内容です、理解して頂けたでしょうか？

こちらの説明にも不備な点があるかもしれないので、難しいと感じる方も多いかと思われますが、後述する民衆訴訟、機関訴訟などについても頑張って記述していきます。

・民衆訴訟（第5条）

民衆訴訟とは『国または公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう』（第5条本文）

これは簡単に言うと国民が客観的視点で行政に対して是正を求めたりすることを言います。

国民が行政をチェックするわけですね。

この部分については特に細かい部分はありません、形だけ覚えて頂ければ大丈夫でしょう。

客観訴訟である民衆訴訟は裁判所法で規定する、法律上の争訟に該当しない、つまり訴訟を提起する者に対しては具体的な事件性を有しないということです。

代表的な例では地方自治法で規定する住民訴訟などがあげられます。

この例では住民が行政の違法活動に対して住民監査請求をしたにも関わらず、満足のいかない結果が出た場合に、裁判所に対して行政活動の違法性を求めるものなどがあげられます。

※注意！　住民訴訟は地方自治法に規定する住民監査請求を行った後でなければ提起することができない。

客観的訴訟であり、且つ法律上の争訟に該当しない為、法律によって定められた者でなければ提起することができません。

誰でも提起できるとなってしまうと返って行政活動が停滞してしまい、十分な行政活動が出来ず、住民にも無用な不利益がかかる場合が考えられるからです。

では、次に機関訴訟をみてみましょう。

機関訴訟とは『国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟をいう』と定義されています。（第6条本文）

行政機関と行政機関との間で起きた紛争などを裁判によって解決する制度が機関訴訟です。

例えば、地方公共団体の長と議会との間での議決に関する紛争や、選挙に関する訴訟などがあります。

これも前述した民衆訴訟と同じく、法律によって定められた者でなければ提起することはできません。

以上が今まで記述してきた訴訟類型を含め、行政事件訴訟法で規定されている訴訟類型です。

・この他にも

今まで記述してきました、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟、機関訴訟以外にも訴訟類型が存在しているのはご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、今回のその影に隠れた訴訟類型についても記述します。

4種の訴訟類型以外は補え切れない事件も、実際にはあるかもしれません。

これらを踏まえ、『無名抗告訴訟』という訴訟類型が存在します。

無名抗告訴訟とは、法律上明文化されていない訴訟類型を指し、別名で法定外抗告訴訟とも呼ばれています。勿論、六法書には載っていません。

例をあげますと、行政庁が違法な処分を今まさに下そうとしている場合、つまり目前急迫で危険な事態が差し迫っているといった珍しいケースがあったとします。

このとき、処分を受けるかもしれない者は裁判所に対して、その危険を防止する為の宣言的な判決を求める訴訟や義務不存在といった訴訟類型などです。

しかし、具体的にどのような要件の下で提起可能なのかなど、その条件については法律上明らかになっていませんし、学説上でも意見が一致しているわけではありません。

上記の例では、抗告訴訟の１つである差止めの訴えや、仮の差止めで間に合うのではないか？　と思われるかもしれませんが、差止めの訴えにも提起する為の要件が法定化されている為、そう簡単には差止めが許されるとは限りません。

それに目前急迫という事態であれば差止めをするかどうかを審理している暇もないかもしれません。

こういった緊急性がある処分や、本来義務はないのに行政庁が義務があるとして処分をしようとする場合も考えられます。

一応、6種類の抗告訴訟以外の訴訟も認めることにつき、学説上の意見は一致しています。

　　　～終わりに～

行政事件訴訟法は実際には難解な法律です、例をあげて条文の文言を照らし合わせなければ中々理解が進まず学習が停滞しかねません。

ですから民事訴訟法など、試験概要に載らない法律の知識がなければ理解するのが難しい条文には細かく目を配る必要はないでしょう。

大切なのは試験対策として有効な学習法を模索することであり、何より条文を読んで趣旨を理解することがこの法律の攻略法と言えます。

これは行政事件訴訟法だけに限ったことではありません、行政法を学習する際には是非とも条文に慣れることが攻略の第一歩です。

一番出題されやすい分野は徹底的におさえて、どこから聞かれても答えられるようになるのが肝心なわけですね。

あとはそこから今回記述しました当事者訴訟や民衆訴訟、機関訴訟などの予備知識的な部分を肉付けしていけば良いかと思われます。

テキスト中心で学習するのも良いですが、そればかりではなく、実際に条文を読んでみることも大切な試験対策作業です。

最初はわからなくても構わないのでそのまま読み進めて、繰り返し読んで趣旨を把握することを念頭におきましょう。

また、行政事件訴訟法は判例知識も問われる複雑な法律ですから、判例にも十分目を通しておくのが無難です。

この法律も行政法の一部ですから是非得意科目にして欲しいところです。

行政法はその殆どが条文が命です、例えば行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法（一部判例知識含有）国家賠償法（判例知識重視）、地方自治法など。

条文を基礎としない行政法理論でも行政代執行法などの法律が過去にストレートに聞かれています。法理論では、判例の知識は勿論ですが、一番大切なのは行政行為の意義、組織法など、個別の法律に基づいた基本的な部分をマスターしなくては中々得点源にしづらい部分ではあります。

余りにも基本的過ぎて目を配らない方もいるかと思いますが、本試験では基礎が成り立たなくては応用も成り立ちません。

ですから基礎知識をしっかりと固めることを優先し、出題されやすい箇所や出題されても対応可能な部分を少しずつ増やしていって行政法を得意科目に出来れば試験合格に近づく糸口となります。

地方自治法は条文数が圧倒的に多いので、その全部を覚えるのは事実上無理がありますし、例年では毎年２～３問の出題です、それだけの為に余計な労力や時間をかけるのは余り現実的とは言えません。学習に余裕がある方は別かもしれませんが。。

よく出題される部分の知識を完璧にして、そこから少しずつ新しい知識を肉付けしていくのが常套手段と言えます。

行政法は出題数が最も多く、得点源にできれば自信もつきます。
この他第2位の出題数を占める民法も得意科目にしておかなければなりません。

この2種の法律は試験対策上、ほぼ完璧に攻略できるようにならなくてはなりません。

それが出来れば記述式問題の攻略にも繋がるからです、配点が最も高い記述式問題は満点を狙う積もりで自信を持って取り組んで頂きたいです。

無論、こうして記事を書いている私も例外ではありません、記述式問題で点を大幅に稼いで択一式で取れなかった分を補う、これもまた常套手段と言えると思います。

大分長くなりましたが、以上をもって行政事件訴訟法の記述を終了します。

最後まで読んで下さった方々、大変お疲れ様でした、そして有難う御座います。

次回の記述科目はまだ決まっていませんが、予定では行政不服審査法を記述する予定です。

合格を目指して共に頑張りましょう！