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人を食らわば穴いらずコミュの祭りの後で(読みきり(テーマ小説[行事](ゆうき。。 

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 ちらかったゴミ屑。

 カキ氷のカップに、ペシャンコのストロー。

 ハズレにハズレたくじ引きの紙が、くしゃくしゃになって放り投げてある。


 宵の盛りも過ぎた祭りのあと。


 ちょうちんの灯りも、どこか萎れて見える。


 
 ぱちん 

 ぱちん


 サイダーでしみの出来たアスファルトに、風変わりな音が響く。


「次のお祭りも来る?」

 ぱちん ぱちん

 あずきの手にぶら下がった水風船が、音を立てて往ったり来たり、往ったりきたり。
 そのたびに、頭の両脇で結んだ髪がひょこひょこ揺れる。
 水玉柄の水風船は、朝顔の浴衣によく似合っている。

 
 それをみながら、幽霊くんは言った。


「来年は・・・・・。どうするかな。」

 長い髪の毛に隠れて顔は見えない。
 紺色の浴衣がどこかくたびれている。


 ふたりはとことこ歩いていく。

 小さいあずきは跳ねるように。
 ひょろ助の幽霊くんは青白く浮かぶように。

 祭りの終った橋の袂の道をとことこと。

 それは年の離れた兄妹のようにもみえた。



 あずきは水風船を見ながら言った。  
「待ちたいなら、待ったら?」

「うん・・・・・。」

 幽霊君は髪の毛の間から遠くを見た。 
「ああ・・・・・みんなきてるなあ。」

 あずきは眼を細くする。

 向こうの曲がり角にぞろぞろ人が並んでいる。

 街灯の電球が切れたままになったその角は、月の明かりが照らすばかり。

 そこに薄ぼんやりと、長い行列が見えるのである。
 行列は森の中へと伸びている。
 舗装された道の続く、森林公園。
 その奥に向って、人々は歩いている。


 ぱちん ぱちん


 水風船は相変わらず行ったり来たり。行ったり来たり。


「やあ。げんきだった?」


 あずきは元気に手を振る。

「今年も駄目だったのか?」

 松葉杖を付いたおいなりさんが言った。

「う〜〜ん。お母さんもう新しい子いるしね〜〜。」

「そうか。もう5年になるんだなあ。」

「そんな感じだね。」

 ぱちん ぱちん

 列に並ぶ。
 幽霊くんはぽきりぽきりと首を鳴らした。

「また落ち着かないの?くび?」

「うん。どうもこりゃあ死んでもなおらないらしい。」

「ぷっ・・。」

 ぱちん ぱちん

 行列は少しづつ進む。
 明かりの無い森の奥へワイワイガヤガヤ。
 けれど薄ぼんやりと続いていく。
 
「俺、来年こないや。」

「そう。」

 あずきは水風船を突いている。

 ぱちん ぱちん

 ぱちん ぱちん

 少し上手くなってきた。
 タイミングがあってきて、なかなか止まらないで突ける。

「早く進まないかなあ。」

「だいじょぶだろ。夜は長いよ。」

「なんか毎年列長くなるんだもん。」

 う〜〜っと背伸びをして、あずきは列の先のほうを見る。
 延々続いていく列。
 みんなワイワイ話しながら、口々に祭りの話をしている。



 ・・・だってさ! ヒデエ話じゃねえか?

 いやいや。そりゃあおまえがわるいよ。

 でもよ・・・・死んだあと直ぐに男なんか作りやがった・・・・・・・今日も二人で歩きやがってよ!



 今日啓太くんきてなかったね〜〜

 しかたないよ〜〜。もう社会人さんなんだもん。

 はやいね〜〜。私らずっと中2のままか〜〜。
 

 幽霊君が言った。

「あずきは家族きてたか?」

「さあ。さがさなかった。」

「そうか。」

 ぱちん ぱちん

 進み始めた列は森に入る。
 石段の崩れた山道を登っていく。

 幽霊は身軽なのがとりえである。
 老若男女問わず、ワリとひょいひょい登っていく。

 途中に桶とひしゃくを積んだ水汲み場があった。
 看板に消えかかった文字で「ちゃんと返してください」。
 彼方此方に蜘蛛の巣が張って、荒れていた。

「おお・・・・今年はあんなもんか。」

 幽霊くんは海のほうを見て言った。

 小さな小さな光が浮かんでいる。

 それはホタルの群れのように集まって流れて、風に吹かれてぱちぱち瞬きしている。

 海に映る星とは、色でかろうじて見分けが付いた。

「むかしはもっとこう、ずうっと流れてたのになあ。」

「天の川くらい?」

 あずきと幽霊くんは二人揃って空を見上げる。

「そうだな。天の川くらい――――だな。」

 まっくらな空いっぱいの星は、ちょっとツツけばぽろぽろ零れ落ちて来そうに見えた。

 幽霊くんはずずっと鼻を啜った。

「男が泣くな。みっともないぞ〜〜。」

「うん・・・・・。」

 列は進む。

 墓地が見える。
 
 行儀よく並んだ墓石。
 ところどころ草に埋まってふかふかしている。

 みんなそれぞれ自分の石蓋をあけて中に入っていく。

「来年、ほんとこないの?」

「うん・・・・もう充分待ったし。」

「そっか。」

「一足先に行ってるよ。」

「うん・・・。」

 幽霊君は空に向って手を上げた。

 墓地のなかの彼方此方で、いろんな人たちが手を上げる。

 みんなの手の上には、夜空をわって流れる天の川。
 光の流れは遠くの世界まで続いているように見える。

「いってらっしゃ〜〜い。」

 あずきは手を振った。

 幽霊君の体が透けてくる。
 やわらかな月明かりにとけていく。

「・・・・・・・・・ほんとにいっちゃうの?」

 幽霊君はあずきをみて少し笑ったように見えた。
 ただでさえ髪の毛が邪魔なのに。
 身体に輪郭がなくなりかけていて、表情もよくわからない。

 
 あずきは、小さな身体をぎゅっとしぼって声を上げた。
 
「お母さんに流してほしかったんでしょ? 来年は、きっと流してくれるよ!
 絶対忘れたりして無いよ!!」

 身体を通り抜けた月の光が少しずつ溜まって、
 幽霊くんは小さな光の珠になった。


 墓地から沢山の光が昇っていく。
 くらいくらい夜の世界を越えて、天上を流れる天の川まで。
 途中カラスや飛行機にぶつからないよう気をつけながら。

 天の川を流れていく人々の光は、さっき海を流れていった光によく似ていた。

 色でかろうじて夜空の星と見分けが付く。

 それもだんだんとけて解らなくなる。
 空にとけて、天の川の流れになる。 
 
「だいじょうぶだよ。」

 松葉杖のおいなりさんが言った。

 おいなりさんのお墓は、あずきのお墓の隣りだった。
 あずきのお墓と同じく、草が生え放題に生えている。


「うん。そうだね。」


 あずきはまた水風船をつき始める。

「これね。20回止まんないでつけたら、来年お母さんが流してくれるんだ〜〜。」

「ほう・・・」

 ぱちん ぱちん

 自分の墓石の上に腰掛けながら、おいなりさんは、行ったり来たりする水風船を眺めている。

「ご・・・・ろく・・・・・」

「うまいじゃないか〜。」

「そかな? じゅういち・・・・じゅうに・・・・」

 ぱちん ぱちん 

「じゅうろく・・・じゅうしち・・・・・」

 ぱちん。

「あ・・・・・・・・・。」

 水風船は18回目で、小さな音を立てて割れた。

「いくのかい?」

 おいなりさんは聞いた。

 あずきは水が撥ねて濡れた顔を浴衣の袖でゴシゴシふく。

「まだいかない。わたし、いかない。」

「そうか。」

 擦りすぎて、あずきの顔は泣いた後みたいに真っ赤になった。

「じゃあ、来年また。」

「うん。ばいばい。」

 おいなりさんは欠伸をすると蓋の中に入っていった。


 わ〜〜。

 やだよ〜〜。


 子供の声が聞こえる。

 たぶん、肝試しかなんか。

 そのうちタカタカと忙しい足音が聞こえてきた。

「うわ!!」

 飛び上がる、小学校も低学年くらいの女の子。
 あずきより少し下くらい。
 
 大きな目と、優しそうな雰囲気が誰かに似ている気がした。
 
 女の子はおそるおそるこう聞いた。

「あの・・・・・・・稲荷って言うお墓どこですか?」

「ああ。おいなりさん・・・・・。」

 あずきはお隣さんを指して言った。

「ここだよ。読める?」

「あ・・・はい。ありがとうございます。」

 女の子は墓に上がると、墓地の入り口の方にむかって「ここだよ〜〜!」と手を振った。

「ああ、みつかったの?」

 大人の女の人の声。

「ふうん・・・。お母さんと一緒なんだ。」

「はい。みんなで、こっちにひさしぶりに帰ってきたんです。」

「そっか――――。おいなりさんの家族って、引っ越してたんだ。」

「え・・・・・・・・・?」

 あずきは「なんでもないよ」と首を振った。

「お母さんに伝えてあげて。『お父さん、ちゃんと流してくれるの待ってるよ』って。」

「あ・・・・・・・はい・・・。」

「ちょっと〜〜。どこなの〜〜?」

「おねえちゃ〜〜ん!いなくなっちゃやだ〜〜!!」

 女の子は「もう・・・。」とむくれると、大きな声で叫んだ。

「だからこっちだってば〜!!」

 言ったあとで振り返ると、あずきの姿はもうなかった。 

 代わりに蛍が一匹、墓石の中に吸い込まれるように入っていった。








   とおく、まっくらな夜空の向こう。


   天の川がきれいに流れる。


   別の世界へ、静かにしずかに。


   虫の声が届いてくる。


   星の河から聞こえるように。

 
   遠くからとおくから。


   まるで誰かを呼ぶみたいに。


   待つ年つきをかばうみたいに。


 


          精霊流しの晩の事であった。



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