フレミングの原作はエロティシズムを意識して綴られた小説であり、従来のものと比べて異色で「ポルノだ」などと酷評されたほどである。そのためか、フレミングは『The Spy Who Loved Me』という原題以外は、一切小説で書かれた内容を使用することを禁じる映画化契約を行っていた。 シリーズ10作目を記念して巨額の予算を組んだ作品となった。 音響はシリーズで初めてドルビーステレオで収録された。 監督のルイス・ギルバートはこの10年前にもシリーズ第5作『007は二度死ぬ』を手がけている。『二度死ぬ』は巨大な要塞の中で悪玉一味とボンド率いる攻略部隊が繰り広げる乱闘シーンが圧巻のシリーズ随一の荒唐無稽なスペクタル巨編だったが、その期待を裏切ることなく、本作も巨大な要塞の中で悪玉一味とボンド率いる攻略部隊が繰り広げる乱闘シーンが圧巻の荒唐無稽なスペクタル巨編となった。 カーリー・サイモンが歌う主題歌『Nobody Does It Better』は、ボンドシリーズの数ある名主題歌の中でも常に上位にランクされるヒット曲で、今日でも『ロスト・イン・トランスレーション』や『ブリジット・ジョーンズの日記 2』の中で使用されるなど、その人気は衰えを見せない。2004年、アメリカ映画協会は同曲を「過去100年に書かれたもっとも偉大な映画主題歌100曲」の第67位に選出している。「Nobody Does It Better」はアカデミー賞の主題歌賞にもノミネートされたが、ボンドシリーズの主題歌で同賞にノミネートされたのはこの曲と、『死ぬのは奴らだ』の『Live And Let Die』(ポール・マッカートニーとウイングス)、『ユア・アイズ・オンリー』の『For Your Eyes Only』(シーナ・イーストン)の三曲のみである。 この『Nobody Does It Better』は主題歌の曲名が映画のタイトル (The Spy Who Loved Me) と異なる初めてのもので[5]、同様の主題歌は他に『オクトパシー (Octopussy)』の『All Time High』と『カジノ・ロワイヤル (Casino Royale)』の『You Know My Name』があるのみである。 オープニングのスキーシーンは、オーストリア アルプスという設定になっているが、実際はスイス アルプスで撮影された。ダイビングするシーンは、カナダ・バフィン島のアスガード山で行われた。 このスタント史上に残るダイビングを行ったのは、リック・シルヴェスター。監督したのは、第2班監督のジョン・グレンである。ぶっつけ本番のため数台のカメラで撮影していたが、捉えることができたのは1台のみであり、そのノーカット映像で名シーンが出来上がった。 スキーウェアの提供は、ドイツのボグナー社。その創業者の息子であるウィリー・ボグナー・ジュニアが、スキー アクションシーンの監督と撮影を担当した。彼は『女王陛下の007』『ユア・アイズ・オンリー』『美しき獲物たち』のスキー アクションシーンにも携わっている。 エジプトのシーンは現地ロケが行われ、カイロ市内や、ギザの三大ピラミッド、スフィンクスなどで撮影が行われた。ジョーズとボンド、アニヤが最初に格闘するシーンは、ルクソールのカルナック神殿。エジプトのMの事務所(Qの研究室も併設)があったのは、アブ・シンベル神殿である。 イタリアのサルジニア島のシーンも現地ロケが行われ、ボンドとアニヤが投宿するホテルは、サルジニア島コスタ・スメラルダのホテル・カラ・ディ・ボルペである。ただし水中のアクションシーンは、バハマのナッソーで行われている。 ストロンバーグの海中基地アトランティスは、沖縄海洋博に登場したアクアポリスがヒントになっている。このアイディアを出したのは、日本通のギルバート監督であった。実際に沖縄でロケも行われたが、使用されたのはアトランティス内にある水槽の魚の映像であった。 本作では、前作に引き続きソニーとのタイアップが行われ、アトランティスやリパルス内にあるモニターは、ソニー製である[6]。また、フェケッシュの持っていたマイクロフィルムのケースは、ミノルタ製である。 ジェームズ・ボンドの好む酒といえば、シェイクしステアしないマティーニが有名であるが、ボンド役がロジャー・ムーアに替わった際、ショーン・コネリーとの違いを出すために、それを飲むシーンがなくなった。しかし、本作ではアニアがボンドにバカルディを注文してもらったお返しをするシーンで、これが復活した。また、ボンドはドン・ペリニヨンも愛飲しており、本作ではストロンバーグの脱出用カプセルにこれが備えてあって、アニアのボンドに対する感情に決着がつけられる重要なシーンの小道具として使われる。しかし、次回作からボランジェとの正式なタイアップが始まるために、ドン・ペリニヨンがシリーズに登場するのはこれが最後となった。 当初、ジョーズ役にジャイアント馬場が考えられていた。 ロジャー・ムーアはギャグ好きなことで有名で、この作品でもバーバラ・バックと砂漠を歩く場面の撮影中にあらかじめズボンのベルトを緩めておいて、本番中にズボンがズルズルと落ちてくるように仕組んだりするなど、現場は爆笑の連続だったという。 その砂漠を歩くシーンのバックには、映画『アラビアのロレンス』のテーマが流れる。 ロータス・エスプリがビーチに上陸した際、我が目を疑い思わず手にした酒瓶を見る男は、助監督のビクター・トジャンスキー。彼は、続く『ムーンレイカー』と『ユア・アイズ・オンリー』でも同様の趣向で登場する。 巨大タンカー「リパラス号」のセットがあまりに大規模なものであったため(デザインはケン・アダム)、製作サイドは007ステージと呼ばれる撮影所を建設したうえでセットを組まざるを得なかった。その際に巨大なセットでいかに満遍なく照明をあてるかでスタッフは悩み、カメラマン出身のスタンリー・キューブリックに相談を持ちかけたという。キューブリックは自分の関わりを極秘にしておくことを約束させたうえで、スタッフにアドバイスを与えたという。 ロジャー・ムーアはストロンバーグとの戦いの場面を撮影中に、椅子が爆発する直前に身をかわすタイミングを間違えお尻に火傷を負った。その後は撮影中に何度も尻の包帯を取り替えることとなった。