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OB・OG専用 早稲田大学コミュの学生時代に読んだ本の思い出

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と、いうトピを立ち上げてみました。
早稲田OB・OGのみなさんなら、硬軟両翼、古今東西、いろいろなものを読み、いろいろな思い出をお持ちでしょう。交流しませんか。

コメント(2)

『チボー家の人々』

フランスの作家、ロジェ・マルタン・デュ・ガール作の大河小説。
その第7部「1914年夏」は、1937年にノーベル文学賞受賞。
僕が読んだのは、白水社刊の全5巻の、あの黄色い本である。


小学生の頃の親友の家の本棚に、その背表紙が見えていた。彼の父親か母親の蔵書であった。
当時の僕は背表紙の書名を読むのがやっとだったが、僕も大人になったらああいう本を読むのかなあと、なぜかそう思っていた。


高校卒業直後の春休み。僕は早稲田への入学が決まっており、幸せの絶頂にあった。そして、かたわらに“彼女”がいたことで、僕の幸福感は倍増していた。

当時付き合っていた彼女は、同じ高校の2つ年下の後輩だった。長い髪を“おさげ”に結うと良く似合った。まっすぐな心と、夢見がちな感性を、僕は愛していた。

まだ春浅い、その日、僕の誕生日の1週間前に彼女がくれたプレゼントは、あの黄色い本の第1巻と2巻だった。

彼女は正直に言った。「この本がどんな本なのか、私は知らないのだけど、母がこれを贈りなさいって薦めてくれたの」と。
プレゼントの包みを解いて、そこに現れた本を見たとき、僕は彼女の母親に尊敬の念を抱いた。まだ会ったこともない母親だが、その人の娘にふさわしい男にならねばと、心ひそかに思った。

「いつか大人になったら読む本」と思っていた本を、大学生となる僕は、いよいよ読むのだ。しかもその本を贈ってくれたのは、恋しい彼女とその母親だ。僕はいやがうえにも奮い立った。


それにしても、なぜ彼女の母親は、この僕に『チボー家の人々』を贈ろうと考えたのか。
いま、僕は推測することしかできない。


当時、僕と彼女は、すでに半年以上にわたって、交換日記のようなものを書き交わしていた(交換する場所は、決まって高校の図書室)。おそらくそのノートを、彼女の母親は垣間見たであろう。そして、娘が付き合っている高校3年生の男の子の内面に吹き荒れている疾風怒濤を知ったであろう。大学生になろうとするこの多感な若者には、『チボー家の人々』が糧になると、考えてくれたのだろう……。僕は、そう思いたかった。


しかし、まもなくして、彼女は僕のもとから去って行った(その理由は本題ではないので省略する)。
僕の手元には、まだ読み始めていない『チボー家の人々』の黄色い本だけが残った。
僕はこの贈り物に込められていたはずの、彼女の母親のメッセージを、それに関する僕の推測の当否を、検証する機会を永遠に失ってしまった。


それでも僕は、なぜかこの本を最後まで読みきることが、彼女に対して、いやそれ以上に彼女の母親にたいして、僕が学生時代のうちに成し遂げなければならない負債であるかのように思い定めた。
僕は残りの巻を買い揃え、やがて読破した。


この密度の濃い長編小説を読みきることができたのは、もちろん、僕自身がこの作品に強く深く魅せられたからでもある。とくに、大学に入ってまもなく反戦・平和と社会変革の運動と組織に飛び込んだ僕にとって、主人公ジャックの張りつめた思いは、他人事とは思えなかった。


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