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音楽雑誌「ADLIB」に連載されているコラムの中で、考えさせられる内容のものがありました。
多少なりとも共感できる部分があり、私の勝手で転載した次第です。。。


ヒップ・ホップ精神の崩壊その3

後にも先にも、”この人(の思想)について行きたい”と思ったラッパーはひとりしかいない。かつてブギ・ダウン・プロダクションズ(BDP)を率い、後にソロ・ラッパーに転向したKRSワンその人である。
折に触れて何度か述べてきたが、KRSワン率いるBDPと、チャック・D率いるパブリック・エネミー(PE/いったん解散したが、数年前に再結成)は、'80年代後半〜'90年代初期にかけて、メッセージ・ラップの送り手として双璧を成すグループだった。もちろん、
それぞれのリーダーであるKRSワンとチャック・Dは、これまた双璧を成すオピニオン・リーダーと謳われたものである。彼らが人気の絶頂にあった頃、両者の来日公演を観たのだが、PEのそれはかなり演出されたエンタテインメント性の高いショウだったのに対し、BDPはシンプルなステージ構成ながら圧倒的な迫力で以て観る側に迫ってきた。(いい意味で)鳥肌が立ったラップのライブは、唯一、BDPだけ。恐らく今後も、彼ら以上のラップのライヴに立ち会う機会は皆無だろうと思われる。
そのKRSワンが、今から20年近くも前に取り組んだ壮大なヒップ・ホップ・プロジェクト:The Stop The Violence Movement(以下、STV)は、イースト・コーストを拠点とするラッパーやヒップ・ホップ関係者らを集めてアフリカン・アメリカンの意識向上を図る、という主旨だった。複数のラッパーやアーティスト(何とジェームス・エムトゥーメイも!)が参加したSTVによるチャリティー・シングル<Self-Destruction>('89/ラップ・シングル・チャートNo.1)の売り上げ金は、アフリカン・アメリカンの子供たちの教育費を募る団体に全額、寄付され、また、同プロジェクトをきっかけに、それに触発されたラッパーたちによるチャリティ活動が盛んに行われたものである。だからと言って、全てがきれい事で収まったわけではない。STVにしても、当時、人気のあったダグ・E・フレッシュとBDPの専属DJだったD・ナイスとの確執、生活態度に問題アリとされてSTVへの参加を拒否されそうになったジャスト・アイスとの対立(結局は参加にこぎつけた)、PVの撮影現場に現れなかったPE(彼らのシーンのみ別録/そうしたいい加減な態度がKRSワンとチャック・Dの決定的な違いだと思う)の処遇…etc.。そうした問題を孕みつつも、STVを成功に導いたKRSワンの統率力は称賛に値する。更に特筆すべきは、STV以降、それを凌駕するだけの成功を収めたヒップ・ホップ関連のプロジェクトは皆無ということ。その理由には、ラッパーたちが伝えるべきメッセージを持たなくなったこと、ラップが商業ベースに乗ってしまったため、メッセージ・ラップが売れないと判断されるようになったことなどが挙げられる。
これも以前に書いたと思うが、アメリカ同時多発テロの勃発後、ラッパー(特にNYを拠点とする人々)が誰ひとりとしてそれに対する声明を公に発表しなかったことが不満でならなかった。もちろん、ラッパーたちによるチャリティ・シングルのリリースもなし。STVプロジェクトの目的のひとつは、”ゲットーの現実を世間の人々に知らしめる”ことだったのに、今、実際に自分たちが暮らす国で起こった凄惨な出来事には口をつぐむという無責任な態度を、未だに容認できない。結局のところ、ヒット・チャートの常連となっているラッパーたちにとっては、あの同時多発テロは対岸の火事に過ぎなかったんだろう、と、皮肉のひとつも言ってみたくなる。あの時、ラップはもはやメッセージの伝達手段ではないのだと、その現実をはっきりと突きつけられたような気がした。嘆かわしい限り。
STVが実現したあの頃、ヒップ・ホップには確固たる精神があった。自分たちが声を上げなければ誰がやる、といった気骨も漲っていた。ラップ・ミュージックには確かな未来があった。しかしながら、今、その全ては消え去ってしまった。ヒップ・ホップ精神のかけらさえも、もう残っていない。


by 泉山真奈美 雑誌ADLIBの連載コラム「Soul Kiss」(154)より転載

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