宝塚が好き！（Gay Only）コミュの宝塚歌劇「A Fairy Tale -青い薔薇の精-」「シャルム」

「青い薔薇の精」の作演出は植田景子。彼女の作品を大劇場で見るのは久しぶりである。「ロストグローリー」「マノン・レスコー」と二年連続で駄作を見せられたが今回はなかなかの佳作である。この作品で花組トップの明日海りおが退団するので、また駄作だったら困ると思っていたが、ほっとした。今回、明日海りおが演じるのは妖精、この人のお披露目が死神、当たり役が吸血鬼と、この世のものではない役であたりを取ってきたこの人が最後に演じるのが妖精とはこの人にふさわしいものだ。

舞台の幕開きは子供たちにおとぎ話を聞かせる人々の歌である。舞台はヴィクトリア朝時代のイギリス、植物採集や園芸用植物の開発が「金のなる木」だったと言う設定だ。ヴィッカーズ商会所属の植物学者であるハーヴェイ・ロックウッド（柚香光）は、荒れ果てた屋敷の庭を再生させるように依頼される。以前そこは薔薇の咲き乱れる美しい庭で、その庭師はハーヴェイの叔父だった。

この庭は元々妖精が住んでいて、花が咲くのは妖精の助けがあるから。大人は誰も見えない妖精がハーヴェイには見える。妖精の中でも最も美しい薔薇の精エリュ（明日海りお）は、少女シャーロット（華優希）に出会う。妖精は子供には姿を見せてもいいが、成長して大人になると「忘却の粉」を振りかけて別れなければならない。しかし、エリュはその掟を破った為、罰を受け、この世の物ではない「青い薔薇の精」となった。罪が許され再びこの庭に花が咲くためにはシャーロットに再会して忘却の粉をふりかけなければならない。ここで面白いのは妖精だからと言って万能ではないと言うところ。その庭に住んでいた少女を探して欲しいと人間であるハーヴェイに頼む事になる。ハーヴェイは彼女を探す為、探偵を雇うのだが、その探偵がベーカー街に住んでいるのがおもしろい。ビクトリア朝時代に探偵と言えば、そうなるのだろう。植田センセ、なかなかやるね。

それにこの物語、結構「エコ」なのだ。ロンドンが霧に包まれるようになるのも、工場から出る煙のせいだし、庭が荒れるのも工場の廃液のせい。これをなんとかするのは、人間の知恵なのだ。

そんな中、イギリス中に「A Fairy Tale」と言う絵本が話題となり、その作者の正体は誰も知らない。それで、その作者は誰かと言う謎解きになるのだが、すぐわかり、結末にも察しがつく。そういうところ、底が浅い。ただ、結末は「A Fairy Tale」の「お約束」通りハッピーエンド、なかなかいい終わり方だ。

主演の明日海りおはこの妖精と言う役にぴったりで、存分にその美しさを見せる。相手になる華優希は幸せな少女時代から、大人になって不幸になり中年くらいまでの年を演じるのだが、なかなかうまい。柚香光は芝居は申し分ないのだが、歌がまずい。これでは先が思いやられる。

続くショーは「シャルム！」、作演出は稲葉大地。"Charme"とフランス語で読ませているが、英語で読めば「チャーム」。そう、そういう意味だ。指揮は芝居・ショーとも西野淳。今回も安定した音楽を聞かせてくれる。

真夜中のパリ、青年たちが踊っていると一人の少女が現れ、マンホールのふたを開く。その下の地下世界は・・・。と言う話になっている。おもしろいのは、フレンチ・カンカンを見せてくれたこと。もちろん音楽には「天国と地獄」が使われている。宝塚の舞台でこれを見るなんて思ってもみなかった。パリが舞台だが、急にウィーンになるもの面白い。ウインナ・ワルツの「春の声」が聞こえ、「こうもり」のワルツも使われている。ただ、もう一つ、あの二拍目が微妙に長いウィンナワルツになりきってないのが惜しい。ロケットには「花のワルツ」（チャイコフスキー：「くるみ割り人形」）が使われていた。後半になると、退団ムードが濃厚になっている。まぁまぁ、よく出来たショーに仕上がっていた。

今回、チケットは入手難だったそうだ。一回も見られなかったファンもいるとの事。僕が見たのは祝日だったから立ち見が出るのはわかるが、平日でも出ているそうだ。明日海りおの人気と実力のほどが知れよう。