宝塚が好き！（Gay Only）コミュの宝塚歌劇「仮面のロマネスク」「Melodia」劇評

観劇日９月４日（日）12:00開演　　B席３階４列39番

去年柴田侑宏の「新・源氏物語」を見てから柴田作品にはまっている。今回は、「仮面のロマネスク」、原作はラクロの「危険な関係」。これだけで好奇心がかき立てられる。なんせ「清く正しく美しい」宝塚歌劇の素材としては不向きな作品だからだ。素材になりえるのは、強いて言うなら、舞台が18世紀のフランス貴族社会と言う事、だけである。

しかし、こんな作品であるからこそ作者は意欲をかき立てられるらしい。フランス打革命以前のフランス、ヴァルモン子爵は、貞淑の象徴のようなトゥールベル法院長夫人に感心を持ち誘惑しようとする。メルトゥイユ公爵夫人は、従姉妹のセシルが、かつての愛人、ジェルクール伯爵と婚約したのが気に入らない。それで、ヴァルモン子爵にセシルを誘惑するように依頼する。報酬は自分自身。

原作は18世紀に大流行した書簡体小説の体を取っている。最後は、ヴァルモン子爵もメルトゥイユ公爵夫人も、悲惨な最期を迎える。この二人の「悪人」だけでなく、すべての人が不幸になって終わるのがこの小説の特徴である。しかし、この二人の主役は悪人ではあるがとても魅力的なのだ。歌舞伎で言う「色悪」である。美貌で、色気があって、しかも悪人。「悪」の魅力、「悪」の色気がこの作品の最大の特徴となっている。

さてこれを「清く正しく美しい」宝塚歌劇でどう表現するか。結果は、お見事、とうなるほどの大出来である。

幕開きはヴァルモン子爵（明日海りお）とメルトゥイユ公爵夫人（花乃まりあ）の二重唱。このシーンが物語の中盤である事をダンスニー男爵（芹香斗亜）が説明し、狂言回しの役を公爵夫人の執事にバトンタッチして芝居は始まる。時代を18世紀から1830年、王政復古の最中に持ってきた。何故この時代に持ってきたのかは、最後の方になってきてわかった。

登場人物は恋愛遊戯を繰り広げるわけだが、これは仮面をかぶっての事、仮面をかぶらなければ、この時代を生き抜く事が出来なかったと言う設定にした。ここが上手いところ。ヴァルモンもメルトゥイユも仮面をかぶっていて、これを最後には取るが、その時はもう遅かった、と言う話にした。これなら、役者が「色悪」でなくとも勤まる。

セシルに恋しているのがダンスニー男爵。この人は若く、純情で、それゆえヴァルモン・メルトゥイユの餌食になる。そして、セシルがヴァルモンに辱められたと知って、決闘を申し込む。

この芝居で面白い事の一つが、庶民のたくましさ。ヴァルモンの従者と法院長夫人の小間使いがよろしくやっていたと思うと、従者はセシルの小間使いにもちょっかいをだしていたり、メルトゥイユの執事とメイド頭が出来ていたりする。そして、この貴族の時代を不満に思う市民が革命を起こす。

ラストは原作とは違って、ヴァルモンとメルトゥイユが二人だけの舞踏会を開くところで終わる。一説によると、ラクロは二人の悪巧みが成功し悪が栄えて万々歳と言うラストにする予定だったが、これだと発禁になるからとこのような最後にしたとの事。ましてや、宝塚歌劇ではこんな終わり方は出来ない。と言う事で、このようなラストになったのだが、見事な結末の付け方である。革命の炎が燃え上がろうとしてるなか、滅び行く貴族社会に属する二人が最後の舞踏会で二人きりで踊る。なんともロマンチックである。

明日海りおは、前回の「ミー・アンド・マイ・ガール」のビルより今回の方がずっとよく似合っている。花乃まりあも、重厚な衣装に助けられているとは言え、なかなかの出来。特に似合っているのが、芹香斗亜のダンスニー男爵。若く純情で不器用なところがぴったりだ。この芝居で難しいのは法院長夫人である。貞淑の鑑というような存在ではあるが、ヴァルモン子爵の色香に迷う。その心理描写を仙名彩世が好演していた。

続くショーは「Melodia」、去年大劇場で「新源氏物語」と同時に上演されたものの全国巡業版である。これはいつも思う事だけど、大劇場でのショーの豪華を知ると、巡業で見るショーは貧相である。これはいたしかないことではあるが。それに、音楽は生演奏ではなく録音。芝居の指揮は吉田優子。ショーの指揮はいつもの大八木靖。今回ショーの音楽が良かった。大劇場で見た時よりも安定した演奏で高度な技術が使われていたような気がした。生演奏だと出来不出来があるが、録音だとそれがない。オケも一度だけ良い演奏をしたらいいだけなので、ピットに入る時より楽かも知れない。でも、たとえトランペットがひっくりかえってもやはり生演奏が良い。それに、巡業は本公演のほぼ半分の人数、しかし、梅芸は大きい。だから、大劇場で見るときよりもスカスカに感じる。だから小さい所でみたいのだが、小さい所だとB席３千円で見るのはちょっと無理。難しい所である。今回組長の高翔みず希が頑張ってるな、と感じた。本公演より出番が多いような。また、ショーの公演時間が本公演の時より、短いかなと思った。

最後に巡業名物、ご当地出身者の紹介があった。これは巡業ならではの事。それにしても、「仮面のロマネスク」は面白かった。大劇場でもっと柴田作品を再演して欲しい物だ。