宝塚が好き！（Gay Only）コミュの宝塚歌劇「Ernest in Love」劇評

観劇日２月７日12:00開演　B席　３階２列32番　ほぼ真ん中

原作はオスカー・ワイルドの「まじめが肝腎」と言う戯曲、とあったが見てみると、ワイルドらしさが希薄である。僕は原作の戯曲はしらないが、戯曲では「サロメ」小説では「ドリアン・グレイの肖像」「謎のないスフィンクス」等ワイルドの作品には親しんでいる。ワイルドはとにかく嫌み、皮肉、ひねりがきいているのだが、これはもう一つそういう所が希薄なのである。

プログラムによると元々1960年オフ・ブロードウェイで初演だとか。古風なミュージカルなのだ。だからミュージカルになるとき原作にある毒を抜き、宝塚版でさらに毒抜きをしたのではないだろうか。

舞台は19世紀末のロンドン、ジャック・ワージング（明日海りお）は、カデュー氏の養子となり彼の死後姪のセシリアの後見人に指名された。彼はそれが気詰まりと、弟のアーネストと言う人物をでっち上げる。アーネストが放蕩者でその後始末にとロンドンにしばしば出かける。そのロンドンでは彼が「アーネスト」を名乗り羽根を伸ばし、グウェンドレン・フェアファックス令嬢（花乃まりあ）と恋仲になる。グウェンドレンの従兄弟アルジャノン（芹香斗亜）ともアーネスト事ジャックは友人になる。そのアルジャノンもバンバリーと言う架空の友人を作り出し、彼が瀕死であると言う事にして、たびたびロンドンを抜け出し羽根を伸ばしていた。

こういう設定は理解しがたい。しかし、舞台は19世紀末のロンドン、つまり「ジキルとハイド」の時代である。この時期イギリスは絶頂期を謳歌しているが、同時に、貧富の差は広がり、「切り裂きジャック」事件が怒っている。良家の子女は貞淑さを求められ、長いスカートと手袋で肌をあらわにする事はなかった。しかし、娼婦は昼間から客を引き、「ダブルモラル」が横行していた。光が強い分闇もまた濃くなる。

緞帳が上がると、舞台上手後方に位置しているオケが序曲を演奏し始める。指揮は御崎恵。youtubeを見ると去年は塩田明弘。御崎が悪くは無いが、塩田に振って欲しかった。しかし、彼は東京宝塚で「マノン」を振っている最中。この「マノン」は塩田で持っているようなものだから致し方ない。序曲が終わるとオケの上に「鳥かご」が降りて来てる。それからセットが出てきて第一幕の始まり。

第一幕はロンドン、執事の鳳月杏が時代背景と状況設定を説明する。そして、最初のナンバー「乾杯しよう」が歌われる。イギリス貴族を皮肉った歌だが、これが結構面白い。木村脚本・演出は、下手をするとどこが面白いのか今となってはわからないと言う危険があるようなこの作品を上手く見せ、現代のファンタジーとして見せている。特に群衆シーンの演出が見事である。客席降りもある。

次に上からセットが降りて来て、装置が二階建てとなる。そして、明日海が上手から、花乃が下手から出てくる。定石どおりの始まりではあるが、上から装置が降りてくると言うのが面白い。第二幕はジャックの領地ハートフォードシャー・ウールトン、そこへジャックの留守中、アルジャノンが「アーネスト」と名乗ってやってきて、さてどうなるか、と言うふうに話は進んでいく。

出演者で特に印象に残るのは、執事役の鳳月杏。狂言回しの役であるが、口跡がよく動きがきびきびとしているので、好感が持てる。それからヒロイン・グェンドリンの母親役ブラックネル夫人の悠真倫が良い。この人元々男役だけあって迫力がある。この人が出ているだけで舞台が締まる。

短いフィナーレが付くがこれは「おまけ」と言う感じ。別になくても良い。全体的に「大人の為のファンタジー」に仕上がっていた。