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妄想の記録《F》コミュの「池(二)」

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その後水辺にはいろいろな動物が姿を現すようになった。水牛が横切っていったり、大きなヘビが泳いでいたり、ハイエナが水を飲んでいたりもした。鳥も多い。いちどはフラミンゴの群れが水面をほのかなピンクに染めてたたずんでいたこともある。草もびっしりと水面を覆うくらいになり、水鳥が巣を作っている様子もある。肉食獣がいるから止めたほうがいいと思うのだが。草の中からいっせいに鳥が飛び立った。またワニかと思ったが、様子が違う。草が割れて、そこから木製の大きなボートが岸に乗り上げてきた。屋上の床はコンクリートだったはずだが、いまはどうなっているのか、具合がよくわからない。

ボートに乗っているのは2人の男で、ジュール・ヴェルヌの小説に出てくる19世紀の探険家のような格好をしている。ボートからおりて水からに引き上げると、荷物を下ろしてキャンプを準備し始めた。どこへ行くのだろう。水路の地図を作ろうとしているのか、目新しい動植物を探しに来たのか、それともどこかの遺跡へ財宝を奪いに行くところなのかもしれない。夕方通りかかったときには、キャンプの焚き火から上がる煙が5階の窓より高くたなびいていた。警官に見咎められないとよいが。一人は古めかしいライフルを持っていたので、厄介なことになるかもしれない。

次の日の朝、いつもより早く会社について、オフィスに入る前にのぞいてみると、キャンプがすっかり荒らされていた。焚き火は蹴散らされ、荷物が乱雑に転がっており、テントもひっくり返っている。ボートは見当たらない。探険家の一人が草に隠れるようにして、うつぶせに倒れている。わずかな水の動きに合わせて身体が揺れている。背中から羽の黒い矢が三本、突き出している。原住民に襲われたのだろうか。見ているうちに死体はゆっくりと岸を離れ、流れにのって草の間に消えていった。もう一人はすでに流されたのか、ワニに食われたのか、それとも生きたままどこかへ連れ去られたのかもしれない。

それからしばらく、動物や鳥が姿を見せない日が続いた。草も元気がなくなり、しおれて立ち枯れてしまい、まばらになってきた。水の色も変わった。泥っぽかった水が澄んだ色になり、水底は白砂のようだ。水辺に打ち上げられている小さなピンクのものは、ヒトデらしい。会社の行き帰りに横を通ると、かすかに潮の香りがする。

激しい爆発音がしてひっくり返りそうになったのは、出社途中に横を通りかかったときだ。音だけが聞こえて、何の音かはわからない。どうせ屋上でなにか起きているのだろうと考えて、そのまま急いで5階まで上がっていった。廊下から見下ろすと、ちょうど上陸用舟艇が砂浜に乗り上げて、そこから兵隊が飛び降りてくるところだった。映画「プライベート・ライアン」にそっくりなので、きっとこれはノルマンディーなんだろう。もちろん、太平洋のどこかの小島かもしれない。そこまではわからない。兵隊たちは砂に足を取られながら必死に走っていき、砂丘の陰に伏せている。ガラス越しに迫撃砲の轟音が響いてくる。流れ弾が飛んでこないといいのだが。


《F》

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