「政府は順調に進んでいるかのようにPRしていますが、実態はまったく違う。浅瀬の手をつけやすいところから護岸工事を進めている状況で、面積でいえば1%、工事行程では4〜6%にすぎない。それなのに、もう工事は始まってしまった、後戻りできない、とあきらめムードを誘発しようとしています」
沖縄の自然、文化、人々の営みがつぶされる
梅雨明け直後の東京・早稲田。かりゆしシャツに身を包んで現れた前名護市長の稲嶺進さん。週末はほとんど沖縄にいない。全国各地での講演で数か月先まで埋まっているからだ。講演先でみんなが知りたがる辺野古の現状について週刊女性もたずねると、もどかしそうにこう語った。
「環境保全や災害防止に十分に努めるという、前知事と結んだ留意事項が守られることなく工事は進められています。希少なサンゴの移植は後回し、軟弱地盤や活断層の問題も専門家から指摘されていますが、認めようとしません」
基地建設に伴い、米軍が安全のために定める建造物の「高さ制限」に民家や学校の校舎が超過していることも、地元紙の報道で発覚している。
「軍事優先で、なにがなんでも、辺野古ありきで進めている。県民の生命や財産は、まるで考えられていません」
今年2月まで、名護市長を務めた2期8年にわたって辺野古への基地建設反対を訴えてきたが、その決意はいまもぶれていない。
「辺野古の大浦湾には、世界自然遺産にも匹敵するような生物多様性、豊かな環境が残されています。また、沖縄は観光が経済をリードしている状況です。
旅行客の多くを惹きつけているのは、青い海や空、沖縄の伝統文化、亜熱帯の気候が持つ特徴と人々の営み。先人から受け継いだ自然を破壊して軍事施設を作るということは、これらをつぶすことになる。環境保護が世界的テーマとなっている時代にも逆行しています」
沖縄では国土の0・6%という土地に、米軍専用施設の70%が集中している。
「その状況下で、米軍基地を県内でたらい回しにするのは負担軽減にならない。新しい基地は100年以上の耐用年数を持つと言われています。もう70年以上も負担してきたのに、さらに続くのかという県民の強い反発がある」
政府は辺野古沖で、8月にも埋め立て土砂投入の方針を明らかにしている。これを阻止するため、翁長雄志知事は埋め立て承認の撤回を表明。再び法廷闘争への展開が予想される。
2月の市長選で敗れたことから、市民が基地に賛成したかのように見る向きもあるが、「選挙では、辺野古の問題が争点からはずされた。決して市民が基地建設を容認したという結果ではない」と断ずる。
「米軍キャンプ・シュワブのゲート前抗議で頑張っている人には、お年寄りが非常に多い。戦争を体験してきた人たち、あるいは厳しく貧しい、米軍統治下にあって人間らしい生活ができなかった、忌まわしい過去を体験してきた人たちなんです。
沖縄で合い言葉のように言われてきたのが“自分の子どもを戦場に送らない”ということ。そうした思いが座り込みという行動に表れているんです」
埋め立て阻止のため緊迫感が増す辺野古と、かたや「報道が少なく、あまり実情を知られていない」本土。この温度差は沖縄への無関心、基地をめぐるデマや神話につながっていく。
「政府が(普天間基地の移設先として)“辺野古が唯一”というとき、抑止力と地理的優位性を大きな根拠にあげてきました。ところが森本敏元防衛大臣も、専門家も、軍事的に沖縄である必要はなく政治的判断でベストなんだと言う。実は米海兵隊の元トップでさえ、沖縄でなくてもかまわない、どこに置くかは政治の問題だと述べています」
県外移設では「本土の理解が得られない」と、安倍首相みずから政治的判断であることを認めている。
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