「アリス・・・。わたし、あなたを許してなんかないからね」
マクターは揺れるグラスを眺めながら、ぽつりつぶやいた。
「・・・ユウセイの事、好きだったんだ」
立ち去ろうとしていたアリスは振りかえって、やっと言葉を振りしぼった。
「別にそんなんじゃないわ。ただ、友達にはなれると思ってた。
初めての・・・。
はっきり、言い切れる。あなたがつらいと思っている人生よりも、
わたしの人生がはるかに苦しみに満ちているって」
アリスは居たたまれない空気に堪えかねて、そのまま、船室を後にした。
ドアは開けっぱなしになっていて、船の揺れに合わせ傾いた。
何を言っているのだろう?
恋敵に自分の思っている事を告白して何になる?
余計、惨めになるだけじゃない。
苦しい。苦しいって言えば、優しくしてくれる?譲ってくれる?
そんな訳は無い。
憎い敵だって真剣に生きているんだ。
相手の命を奪ったって譲れないくらいの想いだってある。
わたしにはそれが・・・足りているのだろうか?
沢山、殺した。
でも、わたし自身が切望して奪った訳じゃない。
何度もそれを放棄しようとさえしたのに、
命を絶ったとしても、無理矢理に生かされてきた。
父が語る理想の為の都合の良い道具として。
好意を寄せてくれる人も居た。
でも、それって同情だった。
わたしはどこか諦めきれなくてそれを拒んだ。
何を贅沢言っているんだろう。
マクターは泣いていた。
彼女が泣くのは何度目だろうか?
数え切れないくらい彼女はこれまで涙を流していた。
それを慰めてくれるものももう居ない。
「なんの為に生きているんだろう」
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