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2012年04月04日23:21

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三題噺「妙法蓮華経、パンスト、折れた傘」

今回のお題「妙法蓮華経、パンスト、折れた傘」は奥さんが出してくれました。
なかなかアイデアがでなくて、ずっと考えていたんだけど、お風呂入ってる時にようやく思いついた。
一回思いついたら、頭の中で整うのはそんなにかからないみたいなんだけどなあ
思いつくまでえらい時間かかってしまった。

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三題噺「妙法蓮華経、パンスト、折れた傘」

それは、電車が一部運休するほどの暴風の日だった。
風勢はこれから夜半にかけてさらに強まるとの予報で、僕たちの小学校も授業を切り上げ、急ぎ下校するよう先生から通達があった所だった。
実際、窓ガラスがガタガタ鳴っているのを聞いてると、今にも風圧に堪え兼ねて割れるんじゃないかと思うほどで、こんな日に外に出歩こうなどというヤツはよっぽどの大バカ野郎に間違いなく……
「ラッキー! 学校早引けやって。どっか遊びに行こうや」
「お前バカだろ」
「ちぇ。東京もんはすぐそうやって気取って」
ヒロノリのボケにどう切り返そうか一瞬悩んだ隙に、カズが横から素早く
「アホか。どこがやねん。お前だけ死んどけ」
と鋭くかつ容赦のない突っ込みを入れてきた。
やっぱり本場のボケと突っ込みには勝てない。
「アホやな。このくらいの風に負けてどないすんねん。子供はカズノコってゆーやろ」
「それを言うなら風の子……」
「アカン。こんなベタなボケに突っ込んでやる事あれへんで。甘えさせたら調子にのる」
甘えさせる事になってるのかこれ。深すぎてついていけねえぞ関西文化圏。
僕たちはともかく、ランドセルを背負って校舎を出た。
「うひょおーーー! すげー風!!」
強風に激しくあおられると、僕たちのテンションは一気にあがった。
どういうわけなのだろう、暴風とか台風とか、強い風を目の当たりにすると、なんだか無性にテンションがあがってしまうのだ。これは僕たちだけじゃなくて、おそらく全国の小学生はみんなそうなんじゃないだろうかと思うのだがどうだろう。
風に髪をなびかせ、僕は思わず両手を前に合わせていた。そうして激しい口調で
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経!」
「おお、かっけぇ! 空海みたい!」
カズもまたテンションのあがった声で言うと、一緒になってお経を唱えはじめた。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経!」
その横でヒロノリが石を拾い上げて差し出す。
「この石、くーかい?」
「おもろない。てゆーか、せめて食いもんでしーや。石ってなんやねん、石って」
「あ、顔になんかきた」
ぷつっと冷たいものがあたった気がした。
「やば、雨か? 今雨とか振ってきたら、ヤバいで」とカズ。
「へっへー、俺は傘持ってきてるもんねえ」
ヒロノリは得意げにそう言うと、持っていた傘をひろげた。途端に風にあおられて裏返り、壊れる。
「ぎゃああああ! 傘があああ!」
目の前の事実が信じられないという顔で折れた傘を見つめる。
「アホやこいつ。こいつアホや」
「アホゆうヤツがアホじゃ!」
「なんやそれ、お前小学生か」
「お前やって小学生やんか!」
視界の隅に、何か黒いものが風にからまって飛んで行くのが見えた。
「あ、パンスト!」
思わず僕が発したそのちょっとエッチな単語に、ヒロノリがすばやく食いつく。
「ホンマや! カズんちのねえちゃんのパンストが飛んでる!」
「なんでわかんねん!」
気がついたら僕はそのパンストらしきものを追いかけていた。
その後からヒロノリも
「待てえ、カズんちのねーちゃんのパンストーー!」
と追いかけてくる。
「ちょ、お前ら何追いかけてんねん! それうちのねーちゃんのパンストちゃうし!」
風の音で途切れがちにカズも後から追いかけてくる声が聞こえた。
これが、僕が小学生の時に「パンスト」と呼ばれるようになった経緯である。
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