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2012年03月15日20:22

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三題噺「車、かざぐるま、ゴミ」

その奇妙な物体を目の当たりにして、俺は「なんだこれは」と呟いていた。
「車だ」
「いやそれはわかる」
「貴様の車だ」
「それもわかっている。俺がお前に貸してやったんだ。それがなんでこんな珍妙な事になっているのかときいている」
ヤツに貸してやった俺の車は、車体を無数のかざぐるまにデコられて、見るも無惨な姿となって俺の所に戻ってきたのだった。いや実際、最初はそれが俺の車だとはわからなかったくらいだ。
「まあ聞いてくれ。『風車』ってさ、『ふうしゃ』とも読めるし、『かざぐるま』とも読めるじゃないか」
俺は拳を振りかぶってヤツの頬に叩き込んだ。
「ぶひゅっ!……お、お前、ツッコミきついぞっ」
「ツッコミじゃない。純粋な暴力だ。貴様の世迷い言を聞く気はない。なんでこんな事になっているか簡潔に説明しろ」
「ま、待て。落ち着け。俺の話を聞けば、お前もきっと俺に感謝するぞ。まずはこの、かざぐるまの根元をよーく見てみてくれ」
俺は車をデコっているかざぐるまの一つ、屋根の方にあるやつの根元に顔を近づけた。
「……モーターか?」
それぞれのかざぐるまの柄に、小さなドラム形の機械が取り付けてあった。
「違う。発電機だ。自転車についてるだろう。あれだ」
「ああ。で、それがなんだ」
「エコカーにしてやった」
激しい目眩に襲われて、俺は思わず車の屋根に手をついたが、そこにも無数のかざぐるまがたてられていて、無造作にやった俺の手に払われ、いくつかがバラバラと地面に落ちた。
「まさか、車が走るその風でかざぐるまが回って電力を作り、その電力で車が走るとか、そういう事を言っているのではあるまいな」
「それ以外のどういう意味があるというんだ」
もはや殴る気力もわかない。後で気力が回復したら弁償させよう。
「……しかしこれだけの発電機、よく手に入ったな。全部でいくらくらいしたんだ?」
「いや。ゴミ置き場からとってきたからタダだ」
「ゴミ置き場に?発電機ばっかりこんなに?」
「まさか。ゴミ置き場に捨ててある自転車からとったんだよ、もちろん」
「そんなにたくさん自転車捨ててある所なんかあったか?」
「あるじゃないか、駅前に」
「お前それ……」
目の前の駐輪場荒らしを警察に突き出す前に、車の弁償代を先に取ってしまおうと、忙しく頭を働かせて算段をつける俺だった。

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