女の子達はホテル最上階の夜景にはしゃいでいた。３７階なんだからこのくらいのもんでしょ。むしろわたしはわざわざこんな上まで料理や重い飲み物を運ぶ労力や非効率に腹が立つ。若い子は広々としたパウダールームにも驚くのだから田舎出身丸出しに見えた。
相当待たされていた。乾杯の前からすでにみんな飲んじゃう。変なの。
懇親会が始まってから、Ｍ先生が視界に入りわたしは目を疑った。超売れっ子の？ 業界のファッションリーダーたるあの先生が。えーもうどうしよう。会話の途絶えない人だった。次から次へと誰もが話しかけるから、その対応をする。突入してゆく勇気はなかった。わたしは自分の周りにいるすべての人に声を掛けまくる。
ぽ「こんにちは」
ぽ「こんにちは！」
見知らぬ人１「どうも」
見知らぬ人２「初めまして」
ぽ「こんちは！」
見知らぬ人３「はい」
ぽ「こんにちはー」
見知らぬ人４「えぇ」
そして、
「通訳の方ですか？ さっきは２人体制でしたか？ わたしは今日初めて来たんです。大盛況ですね。どうも。お料理楽しみです」
それぞれと１分間の社交会話をしたあとに続けた。
ぽ「あちらのー見えますか、Ｍ先生をご存知ありませんか？」
ぽ「ない、あそうですか」
ぽ「Ｍ先生とお見知り合いでは」
ぽ「面識ない、失礼しました」
見知らぬ人２「Ｉさんだったら知り合いじゃないかしら」
ぽ「じゃあそのＩさんに紹介して下さい！」
見知らぬ人２「えぇ、いいですよ。Ｉさん、こちらの方をＭ先生に会わせてさしあげて下さいません？」
男が振り向いた。
Ｉ先生「おや、Ｍさんに興味がおありなのか」
ぽ「はいっ」
Ｉ「わたし、こういう者です」
ぽ「ども」
二人で移動。
Ｉ「Ｍさんちょっと、この人があなたのファンだそうだ」
Ｍ先生はスマートに名刺を出すと、わたしにくれた。小躍りしそうになる（ふわふわと舞ってしまう）。わたしが興奮しているのを見て苦笑しつつ、先生はそこからいなくなった。ぽっぴんＨにはまったく関心を示さなかった。
数分前の見知らぬ人のうち一名とまた近くになった。ルートを作ってくれた女性だ。
見知らぬ人２「いつの間にかＡ大学からＴ大学に変わっていて。あら転職したんだわと思って」
ぽ「はい、本当に」
やっぱりみんな、誰がどこの大学かを気にしている。一流大学にお勤めだと、やっかみも含めて注目度は半端ない。人々の名誉欲はその限りあるポストに集中する。
（続きます）
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