もう、ね。これだから…

　簡単にアクセスできるように、mixiニュースをまず引用します。
　https://news.mixi.jp/view_news.pl?id=7505837&media_id=32

　要点をざっくりと書くと以下のようになります。
　・常温常圧で超電導性を示す物質を合成した」とする論文が韓国の研究チームによって7月22日に公開された。
　
　実際の論文は、こちら。実は二つもあります。
1　https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/2307/2307.12008.pdf
　Title: The First Room-Temperature Ambient-Pressure Superconductor
　Author
Quantum Energy Research Centre, Inc. (韓国) Sukbae Lee, Ji-Hoon Kim
KU-KIST Graduate School of Converging Science and Technology, Korea University (韓国) Young-Wan Kwon

2　https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/2307/2307.12037.pdf
　Title: Superconductor Pb10-xCux(PO4)6O showing levitation at room temperature and
atmospheric pressure and mechanism
Author
Quantum Energy Research Centre, Inc.(量子エネルギー研究センター(韓国)) Sukbae Lee, Ji-Hoon Kim, Sungyeon Im, SooMin An, Keun Ho Auh
ICT Basic Research Lab. ETRI(韓国), Department of Physics, College of William & Mary(USA) Hyun-Tak Kim
Hanyang University(韓国) Keun Ho Auh

　掲載サイト：arxiv=プレプリントサーバー
　→(主に)投稿前の論文を掲載するサイト。「俺たちはこういう結果を得たから覚えておくように。当然、特許出願権保有者と第一発見者は俺たちだから、この後おまえらが論文を発表しても遅いぞ。なお、文句ある奴はかかってこい。納得できたら取り下げることもやぶさかではない。」という意味合いのサイト。

くろみみずくによるコメント

・結論から申し上げますと、失礼ながら、かなり怪しい論文だと思います。
・この手の報文には珍しく、著者の一部が重なる上に、結論が同じ二つの論文が同じタイミングで同じサイトにアップされています。こういう事態が発生するということは、データの解釈か権利の問題で研究者間で内部対立がある可能性が高いと思われます。それだけでも論文の信頼性が落ちます。
・著者が微妙に異なるだけで無く、二つのプリプリントは、結論こそ同じだが、その他の部分は違うことを言っている部分が多いように思われます。

1の方
　超伝導性の確認＝臨界温度Tc、電気抵抗ゼロ、臨界電流Ic、臨界磁場Hc、マイスナー効果の確認。
　超伝導性が表れる理由＝リン酸鉛(II)(鉛アパタイト)のPb(II)の一部がCu(II)と置換される→結晶体積が収縮する→Pb(II)の一部がPb(I)に還元される→電子が通る通路がねじれる→超伝導量子井戸ができる。(Pb原子の一部が還元されることがミソ、と読める。)
　新超伝導体の実物の写真＝7ページ目 Fig3(b) (完成図のみ)
　粉末X線回折チャート＝5ページ目 Fig2 (Cu2S(=多分、不純物)が含まれていることを示している)

2のほう
　超伝導性の確認＝臨界温度Tc、マイスナー効果の確認。
　超伝導性が現れる理由＝リン酸鉛(鉛アパタイト)中のPb原子の一部がCu原子と置換される→絶縁体が金属導電体になる→結晶体積の収縮が起こる→Tcで超伝導収縮おきると→c軸方向の一次元構造の構造再構築→(導電パス内の)クーロン反発力が強化される。(Tc温度になることによって結晶構造の一部が再構築されることがミソ、と読める。)
　新超伝導体の実物＝3ページ目 Fig1(e)〜(i) (合成方法と試料の変遷図)
　粉末X線回折チャート＝5ページ目 Fig2 (チャートのピーク位置ずれなどから結晶格子定数が変わっていることを図示している)

　・著者の所属について
　　けったいなことに、KU-KIST Graduate School of Converging Science and TechnologyとICT Basic Research Lab. ETRIはGoogleで検索しても出てこない。(KU-KISTとICT Strategic Research Lab. ETRIは存在しています。)

　さて、Gigazineでも7月26日付でこのニュースを取り上げています。
　「室温かつ常圧で超電導状態になる物質」を開発したとする論文＆ムービーが公開される - GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20230726-room-temperature-superconductor/
　
　・マイスナー効果が確認できたとする動画もアップされています。
　　これを見ますと、LK-99とおぼしき半欠けの円盤の一部が持ち上がっています。これだけでマイスナー効果が確認されたとしているようです。

　しかし、この手の新発見は「再現性があってなんぼ」です。最近でも、以下の事案が発生しています。

2020年10月15日
　100年以上も低温下の現象とされた「超伝導」を室温で発生させることに成功(Nature誌) - GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20201015-room-temperature-superconductivity-first-time/

しかし、2022年9月28日
夢の「室温超伝導」の論文はいかにして白紙になったのか - GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20220928-room-temperature-superconductivity-study-retracted/
→不透明なデータ処理が見つかったため、(9人の著者全員が反対したものを押し切って)Nature誌が論文を強制取り下げ。

2023年3月9日
「室温超伝導」を実現したという画期的な論文が発表されるが研究チームの過去の不正疑惑から疑念の声も - GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20230309-room-temperature-superconductor-meets-resistance/
→同じ著者が同じNature誌に再掲載。しかし、信用してもらえず。

当然、今回のLK-99についても再現性が問題になっています。Gigazineに再現性確認状況をまとめた記事がありました。

2023年8月2日
夢の常温常圧超電導体「LK-99」の存在を支持する研究結果が相次いで発表される、再現したLK-99が超電導物質だと示唆する動画も公開 - GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20230802-superconductor-breakthrough-lk-99-replicated/
砂粒みたいなサンプルが磁石に反応してピン、と立っています。ただ、超伝導である、とするには証拠が足りないのは明らかです。(単なる強反磁性体かもしれません。)

2023年8月3日
超伝導とは何なのか？そして常温常圧で超伝導を実現するという「LK-99」とは何なのか＆再現実験の結果まとめ - GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20230803-lk-99-superconductor-summary/
記事の下の方に、再現性結果が表としてまとめられています。お気づきと思いますが、なぜか、部分的にも「成功」としているのは、中国とロシアの研究者だけです。LK-99は西側諸国ではうまく働いてくれないのかもしれません。

ES細胞データ捏造問題で痛い目に遭っている韓国は、早速検証委員会を立ち上げて本当かどうか調べるとしています。しかし、Quantum Energy Research Centre, Inc.は協力的では無いようです。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-08-04/RYUB0KT1UM0W01

また、Bloombergによりますと、Quantum Energy Research Centre, Inc.はソウル市内の雑居ビルの地下にあり、記者が訪ねたところ、誰もいなかったようです。また、HPも「工事中」のままのようです。要するに、件の論文のFirst Author(実験とデータ出し、解析の主担当者)は行方不明、と言うことになります。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-08-05/RYWEYRT0AFB401?srnd=cojp-v2

もう、ね。これだから困るんだよね。何が目的だか知らないけど、ちゃんと手順を踏んで研究して欲しいものです。論文発表時に高騰した関連株は8月4日には軒並み暴落だそうです。どうするの。

株価操作したかったのかなぁ。