つくづく僕は、この家族のために肉体を改造されたんじゃないか？と思う。
昨日は５回目のワクチン接種。
その晩から体の節々に痛寒さを感じ出したので、昨日は早めに就寝。
午前３時に目覚めると、体は何一つ動かせないくらい痛く、目の奥も痛い。
身体もほてっていて間違いなく発熱している。
「これは今日は仕事無理かな？」
淡い期待が胸をかすめる。
午前６時半、まだ体はだるく、発熱はしているようだ。
さいわい昨日の頑張りのおかげで今日は自分の受け持つ仕事はない。
「よし、今日は休もう」そう決めた瞬間、ラインが鳴る。
昨日僕と同じにワクチン接種をした兄だろう。嫌な予感がした。
「おはよう。案の定発熱した」
なんと！！なんと卑怯な事か！
自営業で経営陣側の人間としては、必ずどちらかは出社していなければならない。
このラインを流された瞬間、僕の出社は確定してしまったのだ。
「冗談じゃない！俺も具合悪いっちゅうねん！！発熱してるっちゅうねん！」
自分の発熱具合を知るために両親の部屋に行き、体温計を探す。
なんということか！どれもこれも古くて使えない体温計しかないではないか！
まるでこの俺に体温を測らせまいとしているかのようなこの仕打ちはなんだ！
仕方なく重たい体を引きずって出社。
思えば昔からそうだった。体調を崩すときでさえ、
自分の体は自営業のこの一家の都合のいいように風邪をひいていた。
自分が体調を崩すときは、大概、土曜の夕方頃から調子が悪くなり、
唯一の休日である日曜日に丸１日寝込む。
月曜日にはケロっと回復し、何事もなかったかのように仕事に出る。
自分にとって唯一の休日を無駄にさせられただけで、職務には一切影響を与えない。
なんとも便利な身体じゃないか。仕事に穴をあけることも無く、迷惑もかけない。
逆に兄は普段、不必要な程に仕事に熱を入れる。基本ワンマン姿勢だ。
その反動で、体調を崩した時には、こちらに迷惑がかかるような休み方をされる。
残された側はその彼のワンマン業務の応対に追われる。
この差に僕は釈然としないのだ。
くわえて先ほどの先手を打つようなライン。
もちろん本人にそんな意図はないのだが、上記のような感情を
抱いてしまっている僕は釈然としないのだ。
「なんで自分ばっかり！」
「俺にも仕事を休ませろよ！」と、意味不明な境地に達してしまいそうになる。
基本的に我が家は、母親が自分に無理をする昭和気質の人間。
自分の太すぎる物差しでしか物事を測らない人間なので、僕は
小学校の頃から「たかが風邪」なんかで休ませてもらったことはない。
中耳炎になった時でさえ、耳を冷やすための保冷剤をもたされて通学し、
学校が終わってからしか耳鼻科へ行かせて貰えなかったくらいだ。
基本的に薬を飲むという習慣がない。
化学薬品を身体に取り込むことを良しとしない母にとって、
全ては「寝て治る」ものなのだ。
風邪で学校を休む人を「羨ましい」と思ったものだ。
そのおかげで（？）、今でも体はいたって健康。
そのせいで、家族から「こいつは便利だ」と思われているに違いない。
じゃなければ、家族旅行でいつも運転業務をこなしている僕が、
「盆や正月休みは、家族旅行帰って来てから１日休みが欲しい」
と訴えているにもかかわらず、「翌日から仕事」なんていう
スケジュールを組まないはずなのだ。
こんなに家族に貢献しているにもかかわらず、
僕の希望が一切通らないなんて事があるはずがないのだ。
そんなスパルタファミリーに生まれた異物、ＨＮ。
「会社行くから、とんぷく薬飲んでいくわ」
そうして今日も一家の歯車として働くのだった。
ログインしてコメントを確認・投稿する