『犬王』 2022年61作目 ☆☆☆☆ MOVIX仙台
https://inuoh-anime.com/
画のクセが強過ぎるのと話自体が難しそうだったので、観る予定は無かったのですが、予告を観たら「これは絶対に観なければ」となったので観ました。
南北朝が統一される少し前の時代。
壇ノ浦で平家と共に海に沈んだ、三種の神器の剣を探している男達が地元の漁師を雇う。
漁師は息子、友魚(ともうお)と共に男達と海へ出て、海底に沈んだ剣の入った箱を引き上げ、男達が止めるのも聞かず剣を手る。
すると、天罰なのか胴が両断され、息子は両の目を切られる。
目を切られた息子は盲目となり、琵琶法師に拾われる…
てな感じで話が始まる。
今年、2022年はよく平家が滅亡しますね。
三種の神器も「鏡と玉は箱に入っていたので浮いたが、剣は粘土が詰まっていたので沈んだ」となっているのが、良く考えてるな。と感心しました。
職人が作った箱なら完全に密閉されるので中に水が入らずに浮きますからね。
ただ、「剣は粘土が詰まっていた」云々は、「源氏に奪われない為に帯に刺した」「硬く体に縛り付けた」等と云い伝わっているあれでしょうか?
「神器を見てはならない」「見た者は目が潰れる」をこんな形で表現するなんて、この時点で作品に込めたスタッフの熱意が伝わってきます。
目を切られ、盲目になった少年が琵琶法師に拾われ、座に入るのも「しっかり勉強してるな」と感じました。
もう一人の主人公がタイトルにある犬王。
猿楽が能楽として確立した当時に、観阿弥と並び称された能楽師。
実在の人物でありながら記録に乏しい事を逆手にとって、異形の存在として描かれていました。
猿楽の座の棟梁である犬王の父が芸道を極めんとするあまり、怪異の類に息子を生贄として捧げ、その結果、犬王が異形として生まれて来る。
異形ゆえ犬同然の扱いを受けた犬王は、父から指導を受ける兄達とは違い見様見真似で舞を覚え、ある日霊達と通じる事で体が少しだけ戻った。
父が己の欲望の為に息子を魔物の生贄に差し出し、そのせいで息子が異形の姿で生まれて来る。
息子は霊と通じる、慰める事で体が少しづつ人間に戻る。
百鬼丸?
ビックリした。
犬王が実在の人物だって知らなかったし、あんな化け物なのも驚いたけど、百鬼丸と醍醐景光だなんて…
京の町で知り合った二人は、友魚の唄に犬王の舞でたちまち人気の一座に。
友魚の唄は南北朝の時代だから楽器は琵琶と太鼓と笛ぐらいしかないのですが、琵琶がギターやウッドベースになってて、太鼓はドラムでビートを刻んでる。
太鼓に書かれた「カブトムシ」が「beetle」じゃなくて、beatのビートに思えてしまうぐらいに「和楽器でこんな音出せるんだ」て驚くし、声を充てたのが森山未來さんなので劇団☆新感線に見える。
ポップを通り越してロック。
それも、オペラやクラシックを取り入れた感じでノリは「ドンドン、パン」でQueenみたい。
歌に合わせて踊る、舞うのが犬王なんだけど、段々と人間の姿形に近づいて行くものの、異形であるので腕が異様に長くそれを上手く使った舞がダイナミック。
舞うたびに平家の亡霊が成仏し、その都度体の部分が人間に戻り最終的には顔以外人間に戻るので、そうなってからは身体能力の高さで派手なパフォーマンスを見せてくれる。
電気が無い時代なのに、今と変わらない照明や駆動装置やスクリーンで、舞台演出をしてくれる。
唄、曲と同じく「同時の技術じゃ無理じゃね」と思うものの、松明や人力で今と変わらない舞台演出。
犬王の声を充てたのが女王蜂のアヴちゃんで、「異形の役」がアブちゃんなのは意味深なのですが、実際に歌う友魚が森山未來さんで劇団☆新感線に見えたように、今、現代と変わらないパフォーマンスを見せてくれる犬王がアブちゃんに見えた。
このままで終わればミュージカル、オペラで終わるんだけど、そうはいかない。
友魚は琵琶法師の座から苦言を呈される。
法師を名乗っているように、僧形あらねばならない琵琶法師が髪を伸ばし、肌も露に女のような出で立ちをするのは何事か。と。
犬王は父に疎まれる。
自身の子を生贄に捧げた父はそれでも飽き足らず…
ここで振出しに戻るが事く出て来るのが室町幕府と将軍。
元々、友魚と父が三種の神器の天罰を受ける切欠を作った男達は幕府の手の者で、今度は「平家物語は幕府が作る世伝以外は認めない」と友魚に座を通して圧をかけるし、犬王に至っては直々に呼び出す。
物凄い作品でした。
冒頭の「平家の滅亡」「神器の天罰」「座への入所」で「ちゃんと勉強してるな」を感じ、犬王と父の関係は「百鬼丸じゃん」でびっくりし、唄と舞は現代にも引けを取らないミュージカル。
「時を超える物語」物語でもあって、曲もヴィジュアルも話も、全部が全部、見所だらけでした。
年間ベスト確定です。
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