mixiユーザー(id:453082)

2022年01月22日22:53

96 view

2021年映画ベストテン【日本映画】

 遅くなりました。
 毎年恒例、誰にも相手されず、自己満足でやっている映画ベストテン。後半「日本映画編」の発表です。
 時間が余っているという映画好きの人は何かの参考にしていただけると僥倖であります(長いです)。

■日本映画
1:ドライブ・マイ・カー(濱口竜介監督)
2:すばらしき世界(西川美和監督)
3:映画 太陽の子(黒崎博監督)
4:茜色に焼かれる(石井裕也監督)
5:あのこは貴族(岨手由貴子監督)
6:君は永遠にそいつらより若い(吉野竜平監督)
7:花束みたいな恋をした(土井裕泰監督)
8:子供はわかってあげない(沖田修一監督)
9:ボクたちはみんな大人になれなかった(森義仁監督)
10:護られなかった者たちへ(瀬々敬久監督)

11:浜辺の彼女たち(藤元明緒監督)
12:うみべの女の子(ウエダアツシ監督)
13:サイダーのように言葉が湧き上がる(イシグロキョウヘイ監督)
14:BLUE/ブルー(吉田恵輔監督)
15:浜の朝日の嘘つきどもと(タナダユキ監督)

以下〜20位まで:「孤狼の血LEVEL2」、「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」、「偶然と想像」、「街の上で」、「ベイビーわるきゅーれ」

 ベストテンと言いつつ、ベスト20まで挙げているが…。いや、それほど昨年の日本映画は豊作であった。
 それではさっそく各作品へのコメントを。

1位は、もうあちこちで賞を獲りまくっているけど、わがベストテンでもやっぱり1位にしてしまった。上映時間約3時間の長尺なのだが、飽きずにずっと最後まで見ていられる。それはなぜかと考えると、劇中に、西島秀俊の主人公の物語と並行していくつもの物語が入れ子構造のように組み込まれているからだろう。登場人物たちの物語はもちろん、妻の語る夢(?)の物語、多言語演劇の「ワーニャ叔父さん」まで実に様々。それがどう本筋と関わるのか、あるいは関わらないのか。観客はいやが上にも意味を読み解こうと物語の迷宮を彷徨うことになる。俳優の演技は常に抑制され、淡々と静かだ。ドライバー役の三浦透子など物語の設定からしてそうなのだが、実にハードボイルドだ。煙草を吸い、本を読み、無駄な会話はほとんどしない。私は彼女の所作の一つ一つを見ているだけで退屈しなかった。手話をする夫婦の家で犬が彼女になつくところなどは、本編そっちのけで気になって見ていた。またそういう見方が許される映画なのである(実際それがラストに繋がっていた)。やがて罪の意識を持った者同士であった劇作家とドライバーは、ドライバーの故郷の北海道の実家に行くことになる。これで二人が恋に落ちたりすると台無しなのだが、もちろんそうなることはないので安心して見ていられる。映像もこれ見よがしな表層表現はほとんどなく上品だった。煙草をサンルーフから二人で出すところだけはちょっとわかりやすくベタだったけど、基本的にはプロドライバーの走りのように、穏やかで心地よかった。うまく説明できていないかもしれないが、純粋に映画を見る喜びが堪能できる作品であった。

2位は『すばらしき世界』。西川美和の作品は映画の面白さよりテーマの方が際立ちすぎていて苦手なのだけれど、今回は素直に良いと思った。殺人で出所してきたヤクザ(役所広司)を描くことによって、現在の生きづらい日本社会をあぶり出す。一度レールから外れた者が社会復帰することの困難さ、また弱者という強者が闊歩するのが今の法律なのだということがよくわかる。こういうことを書くと嫌われるのだが、本作と比べたら、一部で評判の、同テーマの作品『ヤクザと家族 The Family』などオリジナリティもリアリティもない紛い物であることがよくわかる。その両作に、違った役で好演している北村有起哉がいとおかし、であったが。今回もテーマ重視じゃないかと思うかもしれないが、役所広司を主役の元ヤクザにしたことでかつての『シャブ極道』などが想起され、映画の匂いが立ち上ってきていた。

3位は元々NHKのドラマだったらしいが、興味深く面白かった。第二次世界大戦中、日本でも原子核爆弾の開発が京都大学で行われていた。こういう知られざる戦中秘話にスポットを当てた意義がまず大きい。研究生たちは他国より先に開発して日本を勝利に導こうと躍起になる一方、科学を大量殺人兵器に利用することへの疑問を持ち、葛藤する。また爆弾開発に携わっていると兵役から逃れられることに対する後ろめたさなども描かれる。原爆研究=戦争によって青春を犠牲にした主人公を中心に描きつつも、その恋人や母親といった女性たちが気丈に描かれているのも印象に残った。ラストはアインシュタインによる「今後も人類は同じことを繰り返し、そのたびに科学を発展させていくだろう」みたいなナレーションで結ばれ、単なる過去の話で終わらせようとしないのも見事だった。同じNHKドラマ発である黒沢清『スパイの妻』よりよっぽどかいい映画だと思うのに、どうして話題にならないのだろうか。

4位も『すばらしき世界』と同様、現在の日本社会の生きづらさを描いた作品。『すばらしき〜』は出所した元ヤクザだが、こちらは上級国民の引き起こした交通事故によって(池袋暴走事故を想起)一家の主を失ったシングルマザーを主役にして描く。中学生の息子を育て、介護施設に入っている義父の生活費を払い、また夫の不倫でできた子の養育費まで払っているので、極貧生活を強いられる(何か買うと画面に文字で使った金額が出るのが効果的)。おまけにコロナで経営していたカフェがつぶれ、昼は花屋で働き、夜はファッションヘルスで働く。しかし次々とさらなる不幸が降りかかり…まさに今の時代の理不尽さを詰め込めるだけ詰め込んだような内容である。詰め込み過ぎてリアルでなくなっているところもあるくらいだ。しかしその母親を尾野真千子が演じることによって、この嘘くさくなりそうな映画に説得力を与え、救っている。というのは、この母親像がいわゆる従来の日本映画が描いてきたような立派な母親ではないからだ。どんなに不幸な目に遭わされても「ま、がんばりましょ」と笑っていたかと思えば、男に裏切られ包丁を振り回したりする。言動に矛盾も多い。けれども譲れないところは絶対に譲らない。こういうキャラクターは石井裕也しか描けないし、それを熱演・怪演した尾野真千子も凄かった。同僚の風俗嬢(片山友希)や店長(永瀬正敏)の脇役もよかった。

5位は外国映画の1位に選んだ『ソウルメイト』と同様のテーマである現代女性の生きづらさを描いた作品。ただ『ソウルメイト』と違って、二人のヒロインが友情で強く結びついた関係ではなく、それぞれ正反対ともいえる立場にあるというところがミソ。片や東京の上流階級のお嬢様(門脇麦)で、片や富山から努力して東京に出てきて、起業しようと頑張っている女性(水原希子)。この二人の物語が並行して描かれる。当然、観客は門脇麦が何の不自由もない恵まれた生活をしているのだろうな、と思いながら見るわけだが、ぜんぜん違う。上流社会の方が女性はいろいろな制約に縛られているし、封建的な部分がいまだに当然のように残っている。二人のヒロインは大学でちょっと知り合いになっただけ、ぐらいの関係で、二人が一緒の場面は前半と後半のたった二度しかないのだが、そこから今、日本で不自由を強いられて生きる女性全般の姿が浮かび上がってくる。佐々木靖之の撮影は、ちょっと市川崑の『細雪』を思わせるようなショットがあったりしてビックリしたが、全体的に大都会・東京のイメージがうまく捉えられていたように思う。

6位も5位に続いて、今を生きる女性の姿を描いた作品。こちらの方が『ソウルメイト』に近いシスターフッドものである。ただこちらは『ソウルメイト』や『あのこは貴族』のように女性の生きづらさを主題にした作品ではなく、思春期を迎えたごく普通の若者が一度は通りすぎなければならない「性」と「死」をめぐる葛藤を二人のヒロインが支え合って乗り越える物語である。私も学生時代に似たようなことを考えたことがあるので、素直に共感することができた。ヒロイン二人を演じた佐久間由衣と奈緒が素晴らしかった。

7位は、本から音楽から映画からマンガから…サブカルの好みがバッチリ一致した若い二人(菅田将暉と有村架純)の、付き合い始めてから同棲生活を経て、やがて別れるまでの5年間(2015〜2020)を描く恋愛映画。その年流行していたサブカルチャーの固有名詞が具体的に出てきて、それが二人の浮き沈みある物語とうまくリンクしている。またリンクしているのはサブカルだけでなく、いま東京で若者が生活することの生きづらさみたいなものとも繋げていた。イラストレーター志望だった菅田が理不尽なクライアントの仕打ちに挫けて、二人で働き始めるもなかなか仕事が決まらないとか。結局その働くこと、つまり生活の部分で二人の気持ちはすれ違い、どんどん離れていく。それは夢を諦めた菅田が運送会社に入り、その過酷さから、好きだったマンガ『ゴールデンカムイ』が途中で読むのが止まっているだけでなく、もう最新刊が何巻なのかすらわからないとか、今村夏子の小説を読んでも今の自分はもう何も感じないかもしれない、とかいったサブカル絡みのセリフで表現され、これがまた「本当にそうなんだよなぁ」と共感できてしまう。坂元裕二の技アリ脚本が綺麗に決まった一本である。

8位は、フジテレビアナが東京五輪のスケートボード実況で発した「13才、真夏の大冒険!」をもじって、「朔田美波、真夏の大冒険!」と言いたくなるようなさわやかな快作。原作マンガを先に読んでいて、沖田修一監督で実写映画化と知り、楽しみにしていたら、コロナで一年延期。やっと見てみたら、ちゃんと面白かった。普通、原作を読んでいたら、映画化はがっかりすることが多いのだけれども、これは原作マンガのトボけた味わいが、沖田修一監督の作風とうまくマッチしていて素晴らしかった。美波を演じた上白石萌歌もかわいかった。本作と13位のアニメ『サイダーのように言葉が湧き上がる』は、2021年度の気恥ずかしくなるくらいピュアな青春ラブストーリーの双璧として讃えておく。

9位は一見よくある青春時代の回想もののようだが、付き合っていた女性ごとに昔へ戻っていく構成がなかなか巧みである。つまり嘘ばかりついていい加減な女性関係をしている最近と、雑誌のペンフレンド募集から始まった恋を戸惑いながらも実らせようとするピュアな初恋時代とが並べられるわけで、そのギャップの激しさが効いている。1995年から2020年までの25年間を森山未來が一人で違和感なく演じているのも凄いが、初恋の彼女を演じる伊藤沙莉の初々しさも目を瞠る。『タイトル、拒絶』や『ホテルローヤル』で脱ぐ必然性があったにもかかわらず脱がなかった彼女が、ここでは脱いでベッドシーンを演じる! いや、脱いだからエライんじゃなくて、彼女のこの作品に賭ける本気度が伝わってくるよね。移り行く時代を表す役割のみならず、二人の付き合う契機となる共通のサブカルネタの挿入は『花束みたいな恋をした』以後の作品という感じがする。NETFLIX作品は日本のものでもレベルが高いのを確認。

10位は多作な瀬々敬久監督作品。東日本大震災の行き場を失った被災者への生活保護の問題を扱っているが、それだけにとどまらず、現在のコロナ禍における失業者問題などにもそれは繋がってくる。これは2位の『すばらしき世界』とも通じ合っている。そういった硬派な問題意識を提示しつつも、エンタメミステリーとしても同時に成立しているところがいい。何といってもキャスティングが絶妙で、緒形直人や吉岡秀隆など、普段いい人を演じている役者が逆の使われ方をしている。そして真犯人もまさかの俳優で、それゆえに非情な行政への怒りがひしひしと伝わってくる。

 11位以下は特筆すべき作品のみ、コメントしておきます。

11位、『浜辺の彼女たち』。技能実習生として日本に来たベトナム人留学生たちの過酷な世界を描いた。見ているだけで寒々としてくる東北の風景が忘れられない。私事だが、今、私が働いている派遣先の職場ではそういうベトナム人労働者がたくさん来ている。毎日この映画を思い出してしょうがない。

12位は「浜辺」ならぬ「うみべ」でややこしいが、こちらは浅野いにおの漫画が原作。てっきり『ソラニン』みたいな青春ものかと思ったら、地方に住む中学生男女のドロドロとした性愛関係を描く。設定は中2なのに濃厚な性交場面があり、昭和のロマンポルノを思い出させた。もしかして浅野いにおの自伝的作品なのか? その暗い展開に見た後しばらく気分が滅入ったが、今のやたらに明るい日本映画の中で、こんな陰気な青春性愛映画の存在は貴重である。

14位『BLUE/ブルー』は誰よりもボクシングが好きで、毎日ジムで練習を重ねているにもかかわらず、いつになってもチャンピオンになれないボクサー(松山ケンイチ)の話で、後から来て、それほどボクシングが好きでもない東出昌大に追い抜かれ、彼女も取られてしまう。それでも松山はくさらずに、ひたむきにボクシングに打ち込む…。映画が大好きで映画のベストテンを毎年アップしているにもかかわらず、誰にも読んでももらえない自分とちょっと重なるが…って冗談だけど、夢を追いかけても現実は甘くなく、報われない世界をうまく描いている。いい映画だと思うのに、渋い題材すぎたのか、あまり話題にならなかったのが残念。なので、せめてここに選んでおく(ってライバルが多くてテンに入らなかったけど)。

 2021年度の日本映画はやはり秀作が多かった印象。これはもしかしたら、コロナの関係でいくつかの日本映画の公開が延期になり、2021年度になだれ込んだ影響もあるのかもしれない。って延期になってベスト入りしたのは『子供はわかってあげない』『サイダーのように言葉が湧き上がる』『映画クレヨンしんちゃん』『街の上で』の4本ぐらいかな? あまり影響してないか。あと外国映画のところでも書いたように、後半はあまり見られなかったので、『燃えよ剣』『由宇子の天秤』『空白』『草の響き』など見逃し作品も多いです。

 次回はワースト映画と、ベストテンまとめ、および2022年度の映画鑑賞について少し書こうと思います。誰だ、まだ続くのかよって言っているのは!

1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年01月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031