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2020年08月19日03:05

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「昇進」は改善も賃金格差 女性活躍どこまで進んだ

「昇進」は改善も賃金格差 女性活躍どこまで進んだ
原ひろみ 日本女子大学准教授
経済教室
2020/7/30付日本経済新聞 朝刊
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ポイント
○高賃金の男女で説明できない格差が拡大
○昇進に伴う昇給の格差もガラスの天井に
○外形的な働き方の差解消だけでは不十分
日本の男女間賃金格差は改善されてきている。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、労働の対価である賃金の男女差は30年間で約23%も縮小した。だがこれは女性の教育水準や勤続年数の上昇が反映された結果でもあるので、手放しで評価できない。

女性労働者の教育や勤続年数は上昇しているが、今でも男性労働者の水準には届いていない。教育、勤続年数、労働市場での経験などの人的資本は生産性ひいては賃金を規定するので、人的資本量が異なる労働者の間に発生する賃金格差は合理的な範囲といえる。よって私たちが注目すべきなのは、人的資本量に男女差があることを考慮しても残される男女間賃金格差、すなわち人的資本の男女差では説明できない格差だ。

この説明できない格差は「目には見えない障壁」の存在を示唆する。「ガラスの天井」はその一つで、企業や官公庁、アカデミアなどで女性が地位の高い仕事に就くことを阻害する見えない障壁のことだ。人的資本の男女差をコントロールしたならば、男性の中での高収入と女性の中での高収入に違いはないはずだ。

例えば人的資本の差をコントロールしても、女性の中で上位10%である女性の賃金が、男性の中で上位10%である男性の賃金よりも低いという状態が起きているとしよう。この状態は人的資本の男女差以外の理由で、女性の中では高賃金だとしても、男性ほどには高賃金の仕事には就けていないと解釈できる。よって賃金分布の上位で説明できない男女間格差が観察される場合、ガラスの天井があるととらえられる。

逆に賃金分布の低位で説明できない格差が観察される場合、「床への張りつき」があると考えられる。低賃金の女性は低賃金の男性と比べても、低い賃金しか得ていないことを意味する。

こうした説明できない格差は、要因分解という計量経済学的手法を用いることで推定できる。分析手法の発展のおかげで、賃金分布を通じた要因分解が可能となり、平均だけでは把握できなかったことが分かるようになってきた。

例えばジェームス・アルブレヒト米ジョージタウン大教授らが、女性が働きやすいとされるスウェーデンですら、ガラスの天井が強く観察されることを発見した。これをきっかけに、世界各国で同様の分析が競って進められている。以下では、筆者による日本の分析結果を紹介したい。

◇   ◇

図は1980〜2015年のうち5カ年分のデータを使い、人的資本の男女差では説明できない男女間賃金格差を分位数(パーセンタイル)ごとにプロットしたものだ。縦軸の値が大きくなるほど説明できない男女間賃金格差が大きいことを意味する。なお短時間労働者は分析から除外した。


まず15年のラインの左側に着目すると、賃金が下位20%の男女の間の説明できない格差は15.4%で、中央での格差12.5%より2ポイント以上大きい。このことから、低賃金の男女の賃金格差が相対的に大きいことがわかり、床への張りつきが起きていると解釈できる。

次に15年のラインの右側では、分布の中央から高位に向けて加速度的に男女間格差が大きくなっている。上位10%の男女の賃金格差は25.7%で、中央での格差との差は13.2ポイントとなる。高賃金の男女の賃金格差も相対的に大きいことがわかり、ガラスの天井の存在を強くうかがわせる。

時系列で比較すると、90年から15年に向かうにつれて、分布の低位と中央での男女間格差の差は小さくなっている。近年では床への張りつき現象は弱まっていると解釈できる。逆に分布の高位と中央での男女間格差の差は拡大し、ガラスの天井現象はより強く観察されるようになっている。

諸外国の研究から、発展途上国の多くで床への張りつきが観察される。一方、先進国の多くでガラスの天井が観察される。欧州では床への張りつきが観察される国はイタリアやスペインなどに限られることが明らかにされている。日本はガラスの天井と床への張りつきの両方が観察される先進国では特殊な国といえる。

本稿では詳細な説明は省略するが、床への張りつきとガラスの天井は、事業所間よりも事業所内で強く観察される。つまり女性が賃金の低い企業に配置されることから生まれる男女間格差よりも、企業内で女性が賃金の低い仕事に配置されることから生まれる男女間格差の方が大きいわけだ。

◇   ◇

ではガラスの天井は何に起因するのだろうか。当然、女性の管理職への昇進が難しいことが一因と考えられる。以前と比べれば、管理職の女性は公表統計を見ても増えている。だが学歴や勤続年数などの男女差をコントロールしたうえで管理職への昇進確率を計算しても、部長・課長・係長のいずれの職位に関しても、90年と15年の両年で男性より女性の昇進確率が低いことに変わりはない。一方、女性の昇進確率を両年で比較すると、90年より15年の方が昇進確率は高いことが明らかにされている。

はら・ひろみ 70年生まれ。東京大経卒、同大博士(経済学)。専門は労働経済学、実証ミクロ経済学
はら・ひろみ 70年生まれ。東京大経卒、同大博士(経済学)。専門は労働経済学、実証ミクロ経済学

にもかかわらず、近年ガラスの天井が強く観察されるのはなぜだろうか。女性の管理職への昇進確率が高まると同時に、昇進に伴う昇給の男女間格差が大きくなっていると考えられる。

90年と15年の昇進に伴う昇給を推定すると、男性では部長・課長・係長のいずれの職位に関しても、90年よりも15年の方が高くなっている。一方、女性ではどの職位に関しても、15年の方が低くなっている。

企業には同じ役職でも基幹的なポストとそうではないポストがある。例えば将来の幹部候補が配属される花形のポストがある一方、さほど重要ではないポストや名ばかり管理職のようなポストもある。分析結果を踏まえると、女性は後者のポストに配置されている可能性が高いと考えられる。

女性は以前より教育や勤続年数を高めて職位も上がっているが、賃金という処遇の最終段階では必ずしも報われていない。この状況は、比喩的に「swimming upstream現象」と呼ばれる。流れに逆らいながら懸命に上流に向かって泳いでも、逆流に押し戻されてしまい最後まで登り切れない状況だ。こうした現象は日本だけでなく米国、英国、カナダでも観察されている。

職位などの働き方や仕事の男女差が縮小しても、労働の対価である賃金の男女差が解消されなければ、労働市場での男女間格差が解消されたとはいえない。

日本では女性活躍推進法が施行され、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、女性従業員の勤務状況を数値で把握し、改善のための数値目標を立て、実行に移すことが義務付けられた。22年4月には101人以上の事業主に拡大適用される。そこでは、管理職に占める女性労働者の割合や平均勤続年数の男女差などが必ず把握すべき項目とされる。だが男女間賃金格差の解消には、外形的な働き方の男女差の解消を目指すだけでは不十分であることが、この分析結果から示唆される。
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