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2019年06月29日08:11

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恐怖の誤配


僕の深夜特急ー5
「恐怖の誤配!」

人間のやることだから、まちがいは誰にでもある。しかし神奈川生協の配送に関しては「間違い」つまり「誤配」(他の店の商品を間違って配送してしまう)は「あってはならないことだった」。もし「誤配」すると、会社は雇用主の生協から厳しい処置(時には減車)を受け、誤配をした運転手は「何故誤配したかの反省文と以後絶対しませんという宣言文」を詳しく書いて提出、そして数日間の業務停止(一部間違いはあるかもしれないが)という「穴があったら入りたい」という絶対絶命の心境に追い込まれるのだ。
皆それが嫌で、できればごまかしたいというのが人情だろう。僕は始めたころに一度やった。でも正直にPC(本部)に連絡して、別の人に届けてもらい、あとで厳しく会社から叱られた。でも「まあ初心者だから仕方ないか」という感じで、それほど重い処分は受けなかったが、それでもかなりきつかった。で、ごまかそうとする訳だが、実際どうするかを紹介してみよう。
普通一回の配送で3〜4店舗分の荷物を積み込むのだが、それらはポナコン(キャスター付きのアルミボックスで、人の背の高さと畳半畳よりちょっと小さめの平面をもつ)と鉄製のかごにわかれている。それぞれに店の番号が貼り付けてある。だいたい荷台に積み込むときに、店舗ごとに分けて積むのだが、びっしり積もうとすると、どうしても離れ小島のようなやつが現われる。それが曲者だったりする・・・。とにかく下ろす商品の番号を確かめればよいのだが、なにしろ時間に追われる、まるで毎日配送競争をしているような現場だから、いちいち番号をきちんと確かめずに、またはきちんと確かめたつもりで、どんどん昇降ゲートに乗せて、「うい〜ん」と下ろしてしまう。普通一応は確かめるものだが、それでも魔がさしたというか、運が悪いというか、確かめたつもりで確かめていなかったということが起きたりする。それが分かるのは次の店舗に行って、さあ荷下ろしという時、ふと見た店舗札が間違っていると、ゾーと背筋が寒くなる。
そしてここからが問題だ。「すいません、誤配しました」とPCに報告すればいいのだが、それをしたくなくて、必死に前の店に戻り、商品を差し替えようとする。でもそれがばれたりするんだよね。何故か店の人が早く出勤してきて、誤配に気づき、本部(PC)に連絡したりする。そして揉み消しがばれると即座に登録抹消、つまり首になる。僕が仲良くしていた、いつも冗談を飛ばす愉快な人だった早坂さんはPCに「タイヤがパンクしたので、すこし帰りが遅くなります」と言っているのを、僕は運転中に聞いた。配送センターに戻って、休憩時間に早坂さんの車を見つけ、「パンク大変だったですね」と話しかけた。すると、いつもと別人のように暗い顔で「誤配ごまかそうと思ってパンクって言った。でもばれちゃったから登録抹消だよ・・・」としょげていた。まさかと僕は思ったが、その日の翌日からは彼の姿は消えていた。
ここまで厳しくしなくてもいいんじゃないかと僕は憤慨した。う〜ん、今考えても厳しすぎる。三年間の、僕にとって地獄の、配送生活が終わった後も、しばらく当時仲良く付き合っていた職場の仲間との交流があり、たまに電話したりしていた。その時の話で、一番驚いたのは、初めて会ったとき、「会社をつぶして借金が3億円」と言ってた星野さんが、何度もちょっとした事故で怪我をしては、不死鳥のように職場復帰していた彼が、やはり誤配をごまかそうとして登録抹消、首になったというニュースだった。長く働いていた人だったから、PCの連中とも友だち付き合いしてるような人なのに首かあと、この厳しい社会に老いて放りだされた彼の苦境に悲しい気持ちになる。何人も何人もこのように消えていった。そんな厳しく切ない男達の現場だった。

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