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2019年04月03日14:05

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【創作】竜喰いのリド  episode2:竜殺しの英雄【その26-2】

【創作まとめ】 
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【前回】
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seen41の続き

「アルトリアさんから聴きましたけど、新しい社員が入ったんですって?」
「ああ、そうなんだ。ルキナ君といって臨時嘱託社員としてなんだけど、かなり優秀な子だよ」
 ブックマンは、子供が良い成績をとって親に自慢するようにはしゃいでいる。
「みんなが退院したら快気祝いと歓迎会を兼ねてパーっとやるから楽しみにしておいてくれよ」
「社長のその様子だと、やはり凄いんですか?」
 リューネは子供のようにはしゃぐブックマンに苦笑しながら、車椅子を押してくれているアルトリアに尋ねた。
「ええ、かなり面白い人ですよ」
「かなり優秀で、かなり面白い?」
 人を見る目のある二人にそう言わしめる、ルキナなる人物に興味が湧いてくる。
「そんな凄い人が、よく入社希望してくれましたね」
「え、ええ」
 その言葉にブックマンとアルトリアの笑顔が急に翳った。
 何かまずい事を言ってしまったのかと心配になるが、心当たりは全く見当たらなかった。
「その……ルキナ君はある調べものをしている時に偶然知り合ったんだよ」
「はあ…………」
 ブックマンにしては珍しく、歯切れの悪い言葉である。
「リンゼ君とカリファ君の事は知っているだろ?」
「ええ。まだ駆け出しとはいえ、アルトリアさんの鬼のシゴキにもへこたれない、かなり頑張り屋の子達ですよね」
「私の特訓、そんなに厳しいですか?」
「特級冒険者基準のシゴキは、三等冒険者にとっては地獄ですよ」
「そんなにですか!?」
 リューネから見る限り、アルトリアは自分が超人の部類に入っている自覚がないようである。
 だから、自分に出来ることは、他人も出来て当然と考えている。
 逆に言えば、他人に出来ることは、自分にも出来て当然と考えていることになる。
 そういったストイックな考え方をしていたからこそ、レマルギア王国月光騎士団第四位の地位に辿り着けたのだと思う。
 実はリューネとアルトリアの間には、とても浅い因縁があった。
 リューネが入社した時、一番驚いたのがアルトリアの存在である。
 リステア公国とレマルギア王国は長年の戦争状態であり、リステア公国鳳凰騎士団一般騎士であるリューネは、騎士団の在り方に疑問を感じて退団した。
 そして冒険会社の面接に来ると、敵国第四位の強さを誇る大幹部が居たのだから、生きた心地がしなかったのも当然である。
 アルトリアからすれば仇敵とはいえ、一般騎士だったリューネの事など全く知るよしも無かった。しかし、履歴書を読んだ瞬間に殺されるのではないかと戦々恐々としたのは今も忘れられない記憶である。
 まあ、その程度のとても浅い因縁ではある。
 入社後、リューネも例に漏れる事なくアルトリアのシゴキ……もとい特訓に参加したのだが、元騎士団のリューネでさえ厳し過ぎると感じたのだ。
 依頼の途中で死なないための特訓とはいえ、防御力向上を理由に崖から突き落とされたり、火で炙った鉄板の上で演舞をさせられたり、よく特訓で死ななかったと思う。
 その地獄の特訓を三等冒険者であるリンゼとカリファがクリア出来たのは、持ち前の明るさと頑張り屋なのもあったとは思うのだが、奇跡としか思えなかった。
「そのリンゼとカリファがどうかしたんですか?」
 二人はアルトリアの特訓をクリアすることで、冒険会社において依頼を受ける権利を得た。
 とはいえ、まだまだ駆け出しのひよっこであることには違いないので、今回の竜討伐の選抜から外したのだ。
 その代わり、簡単な内容で構わないから、何かしらの依頼に挑戦することになっていた。
 リューネの質問にブックマンとアルトリアの表情が、再び伏し目がちに翳った。
 その様子に、二人の身に何かが起きたのだと確信した。
「まさかヘマして入院でもしたんですか?」
 駆け出し冒険者が、初めての依頼挑戦に緊張して怪我をすることは、よくあることである。
 姉のリンゼはともかく、妹のカリファはかなり好戦的な性格をしていたと記憶している。おそらく、カリファが無茶をして怪我でもしたのだろう。
 アルトリアは師として合格を出した手前、初挑戦で失敗したことに落ち込んでいるのだ。ブックマンも依頼失敗した二人を叱責しなければならないが、優しい性格なために乗り気べはないのだ。
 そこまで考えたからこそ、次に続いた言葉を理解するのに時間を要した。
「依頼途中で何者かに襲われ、殺害されたんだ」
「…………え?」
 冒険者とは、様々な危険に飛び込み依頼を達成する職業である。
 依頼内容によってはモンスターと戦うこともあり、簡単な依頼であっても失敗すれば命を落とす危険性もある。
 とはいえ、二人は今回初めて依頼に挑戦する駆け出し冒険者である。階級も三等冒険者と低く、命懸けになるような危険な依頼は早々無いはずだ。
「どうして? 誰に殺されたんですか!?」
「それは…………まだ犯人の名前までは解っていない」
「名前までは…………って言うことは、何かしらのアテがあるってことですか?」
「まあね。二人を直接殺害した犯人はまだ特定に至っていないが、それを手引きしたと思われる情報屋は判明している」
「情報屋……ですか」
 リューネに偽りの英雄を押し付けた男の顔が脳裏によぎる。
(つくづく情報屋に縁があるな……)
 オロビア村で出会った情報屋は、秘密主義で嫌味な態度は取るし、リューネに嫌な役目を押し付けてきた。決して良いイメージではないが、竜を相手に全滅しかけていたところを助けてくれた。国家機密級である竜に関する情報も教えてくれた。情報料はカノンの支払いだったが。
 嫌なヤツではあるが、根は良い奴で憎めないのも事実である。
「その情報屋がどんな目的で手引きしたのかは解りませんが、駆け出し冒険者を狙うなんて最低のクズですね」
「まったくだ。このままでは亡くなった二人に顔向けが出来ない。冒険会社の威信にかけて、この情報屋を捕まえなければならない」
 ブックマンは拳を振り上げガッツポーズで力説するが、すぐに肩を落としてしまう。
「だけど情報屋の足取りが途中で途切れて掴めないんだ。まったくもって歯痒いね」
 下ろされた拳は強く握り締められたまま小刻みに震え、彼の悔しさを物語っていた。
「そんな…………何か情報は無いんですか?」
「色々と手は尽くしたんだ。なんとか似顔絵を作るまでは出来たんだが、目撃者も少なくてお手上げ状態だよ」
「その似顔絵、見せていただいてもいいですか?」
「かまいませんよ。こちらになります」
 アルトリアは戸棚に仕舞われていたファイルから、一枚の用紙を取り出しリューネに手渡した。
 それを受け取ったリューネは似顔絵を見て息を飲んだ。
「…………これはッ!?」
 短く刈った黒髪はおっ立てられ、灰色のバンダナが巻かれていた。目は特徴的な糸目で表情が読めない。リューネが最近出会った、よく知る顔だった。
「何か心当たりがあるのかい?」
 思わぬ相手が描かれていたことで身体が緊張して強ばり、その様子を見たブックマンが尋ねてきた。
 描かれていた似顔絵の男は、間違いなくオロビア村で出会った情報屋だ。
「二人が殺されたのは…………いつの話なんですか?」
「ちょうど十日前だ」
 リューネ達が竜と戦ったのが七日前、その前日に砦で一泊し、カザリアからオロビア砦までの移動に三日かかった。カザリアを空けていた期間は十一日。
 つまりリューネ達が出発した翌日に二人を殺害し、現場から逃げるように砦へ来たことになる。かなりの強行スケジュールではあるが、辻褄は合う。
「今まで得た情報によると、情報屋の名前はゼアル。凄腕の剣士と、食事の時にオヤジ臭くなる妖精と一緒に居る可能性が高いとされている」
 凄腕の剣士と食事の時にオヤジ臭くなる妖精にも心当たりがありまくる。
 本名か偽名かは判らないが、自分達の情報に関して秘密主義を貫いていた、あの情報屋の名前が判明していることに違和感を感じる。
 情報屋は『ある目的で旅をしている』と言っていた。
 どういう経緯で名乗ったのかは解らないが、この駆け出し冒険者狩りが『ある目的』なのだろうか。
 解らない。
 解らない事ばかりだが、一つだけ断言出来ることがある。
 情報屋、凄腕の剣士、妖精、この三つの条件が全て当てはまる者など限られているということだ。
 ここまで条件が揃えば疑いようが無い。間違いなくアイツらだ。
「何か心当たりがあるようだね。よかったら教えてくれないかい?」
 ブックマンは静かにリューネの言葉を待った。動揺する彼女を焦らすことなく、しっかり心の整理が着くのを待った。
「…………いえ、知りません」
「…………なに?」
 リューネには真実を告げる事が出来なかった。情報屋について知っている情報を話すと、オロビア村での出来事を全て話さなければならない。偽りの英雄についても。
 報告を偽ったことを責められることは構わない。だけど竜殺しの真実を話せば、カノンと共有している秘密を明かすことになってしまう。
 カノンはリューネに決断を委ね、その選択を受け入れた。一生偽りの聖女を演じると約束してくれた。
 そのカノンが居ないこの場で、約束を反故にすることは出来なかった。
 何度もぶつかり、意見を交換し、友情を育み、同じ罪を背負うと誓った盟友を一方的に裏切る事だけは出来ない。
 ここで真実を明かし、情報屋を追えば、彼を捕まえることは出来るかもしれない。だけど彼が捕まれば偽りの英雄のことを証言するだろう。
 彼との約束を破ったリューネが糾弾される事は仕方がない。罪を暴かれるということは、そういう事なのだから。
 だけど、それだとリューネを信じて同じ罪を背負ったカノンまで、何も知らないままに糾弾されてしまう。むしろ真実を明かしたリューネよりも、人々をずっと騙し続けてきた偽りの聖女として糾弾されるだろう。
 それだけは避けなければならない。彼女の覚悟に報いるためにも。
「本当に…………何も知らないんだね?」
「はい。竜討伐に出ていた私が、カザリアで起きた事件の関係者を知ることなんて不可能じゃないですか」
「それもそうだね」
 人の心を見透かすような目を向けてくるブックマンに、笑顔でそう返した。
 守る戦いをしたいと願う自分を受け入れてくれた、愛する人の信頼に応えることが出来ない自分に歯噛みした。
「報告は以上です。そろそろ病院に戻らなければならないので、失礼させていただきますね」
「ああ、ゆっくり休養してくれ」
「それと入院してるメンバーにも聴いてみますので、この似顔絵を戴いても……」
「かまわないよ、それは聴き込み調査用の写しだからね」
「ありがとうございます」
 リューネは頭を下げ、自分で車椅子を操作して部屋をあとにした。


その27へ続く↓
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