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2019年03月21日14:02

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【創作】竜喰いのリド  episode2:竜殺しの英雄【その13-2】

【創作まとめ】 
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【前回】
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seen22の続き

「何か青春してるわね」
「こっちの苦労も知らないでね」
 テーブルと椅子の準備を進めていた二人と、追加の食材を持ってくる予定の一人に冷ややかな視線を送る。
「いやいや、リューネは何もやってないんだから苦労も何も無いでしょ!」
「いやいや、何もやってないとか言い過ぎでしょ」
 ジト目で抗議するレヴェネラに対して、リューネは心外だと言わんばかりに手を振って主張した。
「じゃあ、何やってんの?」
「…………………………………………応援」
 視線を斜め上に逸らしながら、リューネはぼそりと小声で答えた。
「はぁ〜。これがうちの総隊長とか、先が思いやられるわ」
「溜め息をつくと悪霊がやってくるそうよ」
「何それ」
「エルフに伝わる諺だって」
 砦に来るまでの間に、トッティから教わったうんちくを披露する。
「何でも、溜め息と一緒にアニマが吐き出されて、それに釣られて悪霊が来るそうよ」
 リューネは両手を前に垂らして幽霊のモノマネをして、おどけてみせた。
「アホらし。ドワーフの私が、エルフの諺なんぞに怖がるわけないでしょ」
 一般的にはドワーフ族とエルフ族は犬猿の仲だと言われている。
 大地の精人と呼ばれるドワーフ族は、山を生活圏に持ち、鉱石や粘土の採掘や加工に長けている。対して森の精人と呼ばれるエルフ族は森に生き、自然環境や生態系の維持に従事している。
 人の技術発展に貢献してきたドワーフ族と、人々が安心して生活出来るように影で支えてきたエルフ族。違う文化を持つ種族だからこそ、違った価値観を持っている。
 故に二つの種族は顔をあわすと喧嘩が絶えないと言われていた。
 とはいえ、気持ち的には遠縁の親戚が知らない人と喧嘩しているような感覚なので、レヴェネラ本人がエルフ族のトッティに嫌悪感を持っているわけではない。
「お、やってるな?」
 トッティとカノンとの青春劇を終わらせたキスティアが食材の入った紙袋を持ってきた。
「キスティア、何で料理素人のリューネに調理させようとしてんの?」
 レヴェネラはギロリと視線をキスティアに叩き付けた。
「あー、それな。一応止めたんだけど……下手なヤツほど包丁握りたがるだろ?」
 頬を人差し指で掻きながら素知らぬ顔で、キスティアは言い訳にならない言い訳をした。
「それ、一番危険なヤツじゃない。素人に刃物持たせちゃダメよ」
「私も冒険者で刃物の達人だぞー」
 レヴェネラはリューネの言葉を無視して、肩を竦め呆れた表情を作ってみせた。
「わかったよ。次から気を付けるよ」
「アンタはリューネの保護者なんだから、ちゃんと見てなさいよ」
「だから次から気を付けるって」
「総隊長は私だぞー」
 怪我人が出てからでは遅いと、レヴェネラは何度も念を押すが、言われる側のキスティアは面倒臭そうに相槌を打った。もちろんリューネの抗議を無視して。
「ところで何を作ってるんだ?」
 レヴェネラによって切り分けられた具材は、大きめのザルに入れられていた。芋をはじめとする根菜が中核を担っているようで、葉野菜はあまり入れられてない。
「カレーよ!」
「えーと、前に社長が言ってたやつか?」
「そうよ。老若男女問わずに人気がある圧倒的国民食。しかも残ったとしても、日が経てば経つほど美味しくなる奇跡の味。炊き出しにピッタリじゃない?」
 作業的には何もしていないリューネが胸を張って断言した。
「それはいいとして。お前ら、作り方知ってんの?」
 キスティアの言葉に、レヴェネラはくるりと首を回転させリューネに視線を向ける。
 そしてリューネはレヴェネラと視線が合う前に、同じようにくるりと首を回転させ空を仰ぐ。
「……………………………………さあ?」
 音の出ない口笛を必死に吹いて誤魔化していた。
「…………」
「…………」
「…………」
 そのリューネの態度に二人とも言葉を失い固まり、場に重たい空気がのしかかった。
「なによそれ、聞いてないわよ!?」
「だって私が異世界の国民食の作り方なんて知ってるわけないでしょ」
「じゃあ何で作ろうと思ったのよ!」
「異世界のモノとはいえ国民食だよ? 誰か知ってると思うじゃない」
「思わないわよ! 何で自分の知らない異世界知識を、他の誰かが持ってるって思えるのよ!」
「だってー」
 憤怒に彩られたレヴェネラの怒声が、怒濤の勢いでまくし立てられる。飄々と言い訳するリューネの言葉が、怒りの業火に油を注ぐ。
「どうしたです?」
「何か問題でもあったのですか?」
 二人の騒ぎを聞き付けたトッティとカノンも心配した様子で駆け寄ってきた。
「いやあ、問題っつうか緊急事態っつうか」
「このおバカさんは、作る料理のレシピも知らずに作ろうとしてたのよ」
 困り顔のキスティアにレヴェネラが捕捉する。
「レヴェネラが包丁持ってたので安心してたですが、まあいつものことです」
「え?」
「リューネみたいな脳筋に料理なんて繊細なものが出来るわけないです」
「いつものことって……」
 トッティの落ち着いた対応にレヴェネラは言葉を失った。
 この脳筋槍女はいつもこうなのか。料理が出来ないくせに知ったかぶりして、周りに迷惑をかけているのか。
「よくリーダーが務まるわね」
「リューネは脳筋で自己中で思い込みが激しくて人の話を聞かないクズで、エルフ族より寿命の少ない人間なのに休みの日は一日だらだらして無駄で怠惰な人生をおくってるですが、戦いになると重装士らしく弱者の為に盾となって、決して仲間を見捨てない頼りになるリーダーです」
「だいぶ下げてから持ち上げるのね」
「普通に持ち上げると調子に乗るタイプなのでです」
「あーわかるわ」
 トッティの言葉に少なからずのダメージを受けて膝を折っているリューネを横目に、普段の彼女を知らないレヴェネラとカノンは納得した。
「問題はこれからどうするか、ですね」
「食材を無駄には出来ないです」
「全員でフォローするしかないだろ」
「この炊き出しを食べる村の人達の胃袋を守るためにね」
 カノンの言葉に、トッティ、キスティア、レヴェネラの四人が心を一つにする。
 かくして、誰も完成形を知らない謎の料理《カレー》の再調理ミッションが始まった。
「こんだけ居れば何とかなるって!」
 能天気なリューネの言葉には一切耳を傾けずに。


その14へ続く↓
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