mixiユーザー(id:6086567)

2019年03月22日14:17

95 view

【創作】竜喰いのリド  episode2:竜殺しの英雄【その14】

【創作まとめ】 
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1954402789&owner_id=6086567 

【前回】
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1970822098&owner_id=6086567


seen23

 中央都市カザリアに戻ったブックマンとルキナは、汚れた衣服を着替えるために一度解散した。
 ブックマンはともかく、女性のルキナを袖や裾が破けたワイルド仕様の服装のまま、街中を連れ回すわけにもいかなかったからだ。
 そしてブックマンも一人になって、考えを整理したいと考えていた。
 冒険会社シャインウォールの前に立ち、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、何事もなかったかのようにドアを開ける。
「いらっしゃいませっ!……て、あらあら社長様でしたか。おかえりなさいませ」
 笑顔で出迎えてくれたのは、真紅のドレスに身を包む麗しの秘書、アルトリアだった。
「ただいま。変わった事は無かったかい?」
「はい。いつも通り平和なものですよ」
「それはよかった。しばらくしたらまた出かけるから、今日は店番を頼むね」
「かしこまりました」
 ブックマンとルキナが追いかける事件の調査から外されても、アルトリアは嫌な顔一つせずにこやかに了承した。
(すまないね。今回の事件にスズキ・ケンタの死が関わっている以上、彼と面識のあったキミを巻き込むわけにはいかないんだ)
 今回の事件の犯人とされている存在エックスに殺されたスズキ・ケンタは、異世界からやってきた転生者だった。
 転生者が死んだ場合、一部の例外を除き、その転生者と少しでも関わった人間からその記憶が消えてしまう。そして消えた記憶に本人が気付いた時、ロスト・リバウンドと呼ばれる記憶障害を起こし、最悪の場合は廃人となってしまう。
 アルトリアはリンゼとカリファがスズキ・ケンタを会社に案内してきた時に会っていた。スズキ・ケンタとの関係は浅いものの、彼の記憶を思い出そうとすれば、何らかの記憶障害が発生することは間違いない。
 だからブックマンは彼女を調査から外したのだ。
 そして記憶を失わない例外とされている二種類の存在。一つは同じように異世界から転生してきた者であること。そしてもう一つが、その転生者の死に立ち会った者である。
 つまり、転生者であるブックマンは前者、存在エックスは後者としてスズキ・ケンタの記憶を持っていることになる。
 ブックマンは建物の最奥にある社長室へと移動した。
 中はシンプルな造りで、奥の壁際から出入り口と向かい合わせになるように、少し高級な机と椅子が一セット置かれていた。右奥にはコートやマントを引っ掻ける衣装ラック、左奥には各種書類が納められている戸棚が並んでいた。
 椅子の後ろの壁にはマギアルクスト全体を描いた世界地図、その横には『万里の道も最初の一歩から』というスローガンらしきものが書かれた紙が貼られていた。
 机に向かって左側の壁には売り上げ目標と各冒険者の依頼達成件数を棒グラフで表したものが、右側の壁には年間の売り上げを表す折れ線グラフが貼られていた。グラフを見る限り、どうやら売り上げは右肩上がりのようである。
 社員からは趣味が悪いと言われている社長室だが、経営者であるブックマンにとってデータは重要な参考資料であり、右肩上がりのグラフを見ると晴れやかな気分になれるため、割りと気に入っていた。
 ブックマンはマントを衣装ラックに引っ掛け、拾ってきた剣を壁に立て掛けた。そして椅子に深々と座ると、大きめの息を吐き出す。
「どうしたもんかねえ」
 小さく呟いて、自身の両手をまじまじと見つめる。
 現場調査で山賊団アジト跡行った際、現場から少し離れた場所で一本の剣を見つけた。周辺を調べると大きな血痕も見つかり、そこで戦闘があったことは間違いないと推測される。
 そしてその場所こそが剣の持ち主だったスズキ・ケンタと、一緒に行動していたリンゼとカリファが殺害された現場だということも推測できた。
 あとは三人をその場所に誘導した案内役、もしくは情報屋を突き止めれば存在エックスが明らかになる。
 しかし、ブックマンは悩んでいた。
 彼は既に、存在エックスが何者かが理解していた。
 仲間の無念を一緒に晴らすべく、彼の剣を引き抜き持ち帰ろうとした時、剣にまとわりついていた黒いオーラ……スズキ・ケンタの死に際の残留思念がブックマンに流れ込んできた。
 その時、流れてきたスズキ・ケンタの記憶から、彼等に何が起きたのか理解したのだ。
 残留思念はブックマンに最後の意思を伝えると使命を果たしたのか、力尽きるように霧散して消えた。

 残留思念から感じ取った内容はこうである。
 リンゼとカリファは、スズキ・ケンタの冒険者登録を済ませた後、捕縛依頼を受けていた暁の山賊団のアジトについて話し合っていた。
 二人はスズキ・ケンタと出会った際に山賊団と一戦交えており、冒険者を警戒した山賊団がアジトを別の場所へ移動させる可能性を懸念していた。
 それをたまたま盗み聞いた情報屋ゼアルが三人に接触し、案内役を買って出たという。
そしてゼアルに導かれるままにアジトに向かうと、途中の丘で謎の剣士リドが待ち伏せしており、交戦するが三人は殺害された。
 リンゼ、カリファ、スズキ・ケンタの順に殺害され、最後に残ったスズキ・ケンタの無念と怒りが残留思念となって剣に宿ったということだ。

 結論から言うと、三人を殺害した存在エックスはリドと名乗る謎の剣士。その殺害を手引きしたのが、情報屋ゼアルということになる。
 死してなお残留する思念に嘘の情報があるとは思えない。
 つまり、一連の事件の謎は解けたことになる。リドとゼアル、この二人組が犯人で間違いない。
 しかしブックマンは迷っていた。残留思念の話を明かすべきかどうかを。
 この話を明かすということは、ブックマンのジャッジメント・アイの説明も必要となってくる。
 それはアルトリアや社員の面々、そして事件調査に付き合ってくれたルキナの心を常に覗き見、いや盗み見ていたことを明かすことになる。
 それを知った時、彼女達はブックマンの事をどう見るだろうか。
 真の意味で心通じ合う仲間として認めてくれるだろうか。いや、そんなブックマンにだけ都合のいい展開にはならないだろう。
 事実を隠し、ずっと心を盗み見ていた変態と思われるかもしれない。社員達の信頼を裏切った卑怯者として罵られるかもしれない。人の心を弄び、操っていた犯罪者としてギルドに突き出されるかもしれない。
 それだけは出来ない。
 たった一人で降り立ったマギアルクストの地で、やっと出来た自分の居場所。
 自分を信じ、付いてきてくれる愛すべき仲間達。
 その信頼と関係をぶち壊して、また一人に戻ることだけは出来ない。
 どんな手段を使ってでも、今の立場を手離すことは出来ない。
 それに残留思念から得た情報など、ギルドやルキナを納得させる証拠にはなり得ない。
 二人を犯人として告発するには、誰が見ても一目瞭然の証拠か証言が必要になってくる。
 今の状態では証拠が不十分なのだ。
 そして気になる事がもう一つ。リドとゼアルの目的である。
 転生者のもたらす知識や技術がマギアルクストを歪ませるという思想。そして世界を歪ませる転生者の抹殺という行動目的。
 同じ転生者であるブックマンとしては無視出来ない情報である。
 なにより、剣を見つける直前まで、ルキナに対しマギアルクストに存在しない学問について、意気揚々に講釈してしまっていたではないか。
 いや、それだけではない。複数の冒険者でリスク分担する会社経営システム。これもブックマンが居た世界の知識を応用したシステムである。
 転生者を狙う組織があるという噂は何度か耳にしたことがあった。しかし、まさかここまで身近に迫っていたとはつゆにも思っていなかった。
 マギアルクストに転生してきて、たった一日で殺害されたスズキ・ケンタ。その行動力は本物と言わざるを得ない。
(いや、本当に彼らの狙いはスズキ・ケンタだったのか?)
 ブックマンの脳裏に新たな可能性が生まれる。
(あの日、転生してきたばかりのスズキ・ケンタの情報を得ることは、彼らにとっても困難なはず。なら別の目的があった?)
 転生してきて半日ほどしか経っていない状態で、スズキ・ケンタが転生者である証拠を掴む手段が無い。ブックマンでさえ、リンゼとカリファに紹介してもらわなければ、知り得なかった情報なのだから。
(彼が転生者と知るには、転生してきた瞬間を目撃するしかない。だけどそんな偶然があり得るのか?)
 偶然の可能性はあり得ない事ではないが、それを基準に考えるには無理がある。今まで論理的に推理を組み立ててきたブックマンは、当たり前のように偶然の可能性を排除した。
(都合よく転生の瞬間を目撃したなんてあり得ない。もっと別の可能性があったはずだ。もっと確実な情報を元にした理由が……)
 そこで一つの仮説に、ブックマンは辿り着く。
(彼は僕と間違えられて殺されたのではないのか?)
 ブックマンを転生者と知る者は、社員と魔法学院の研究者以外では限られている。彼女達の感情を見てきたブックマンは、社員や研究者達が裏切る可能性は限りなく低いと断言出来る。
 しかし、情報とは隠せば隠すほど、知られたくなければ知られたくないほど、価値が高まりどこかから漏れるものである。
 しかもブックマンは、会社経営による冒険者の運用という、今までマギアルクストになかった手法を取っている。
 転生者がマギアルクストにない知識や技術をもたらすことに敏感な彼らなら、気づいていてもおかしくはない。
(間違いない。彼らの本当の狙いは僕だったんだ。ケンタ君は、僕の代わりに殺されたんだ)
 いや、それだけじゃない。
 彼らがブックマンを狙っていたなら、顔くらい知っていてもおかしくはない。
(ならば殺すのは冒険会社の社員なら誰でもよかった? 冒険会社の社員に手を出すことで、犯人を捕まえるために僕が動き、表舞台に出ることを待っているのかもしれない)
 その結論に至った時、言い知れぬ恐怖がブックマンの全身を駆け巡った。
(存在エックスをあと一息のところまで追い詰めたと思っていた。しかし罠に食いついて追い詰められていたのは僕の方かもしれない)
 彼らはまだカザリアにとどまり、ブックマン達が意気揚々と存在エックスの正体を突き止め、悪事を暴こうと踏み込んでくるのを待っているのかもしれない。なぜなら彼らにとって、ブックマンは鴨が葱を背負っている状態なのだから。
(アルトリア君はケンタ君と接触している。下手に連れていくとロスト・リバウンドを起こすかもしれない。絶対に連れて行けない。そうなると対抗手段が無い…………。駄目だ、彼らに僕が事件を嗅ぎ回っていることを知られてはいけない。そして、もちろんジャッジメント・アイの事も、みんなには話せない。…………全てが手遅れだ)
 犯人をこれ以上追いかけると危険を伴う。しかし、真実を仲間に打ち明けることも出来ない。
 多くの社員と、彼を慕う仲間にたくさん囲まれながらも、それを頼ることが出来ないジレンマに襲われる。ブックマンの心は、今もなお孤独を感じていた。
 あらゆる人の感情を色で知ることの出来るジャッジメント・アイ。
 しかし、たった一つだけ見ることが出来ないものがあった。
 ブックマンは秘密が漏れることの恐怖と、自身が狙われている事実、そしてそれらの事実を隠蔽しようと考えるドス黒い邪悪なオーラが、自身の身体から燃え盛る業火の如く吹き出ていることだけは見えていなかった。
(ケンタ君、すまない。僕にはキミの意思は継げそうもないよ)
 両腕を交差させ、自身の肩を抱き締め孤独と恐怖の寒さにブックマンは耐えていた。


seen24

「ここに畜産農家のヴェルシュバインさんが分けてくれた各種お肉があります!」
「おお〜!」
 キスティアが持ってきた追加食材が調理台に並べられると、一同から拍手が巻き起こった。
「ミルキィモーム、コケバード、ビッグピグ、スリーピンメリー。どうだ、スゴイだろ?」
「ちょっと多過ぎじゃない? 予算は大丈夫だったの?」
 胸を張るキスティアに、リューネは念を押すように聞いた。
 社長であるブックマンから、今回の竜討伐用にかなりの予算を預かっている。
 しかし、それは討伐依頼にかかる全てを賄う予算であり、炊き出しの食材だけに全ては使えない。
「避難先に家畜は連れていけないからって、タダでさばいてくれたんだよ。タ・ダ・で!」
「いや、その事情聞いたら尚更お金払いなさいよ。避難のために畜産農家を廃業させた上に、最後の出荷品までタダで貰ってくるとか鬼畜じゃない」
 さらに胸を反らせて、タダを強調して自慢するキスティアに、冷ややかな怒りを露にするリューネだった。
「ヴェルシュバインさん家(ち)の場所を教えなさい。さすがにタダで貰えないから、お金払ってくるわ」
「えー、せっかくタダでいいって言ってくれたんだし、別にいいじゃん」
「あ? 何か言った?」
「いえ、なんでもないです」
 タダを主張するキスティアも、リューネの本気の怒りの眼光を受けては黙らざるを得ない。
「人の行為に感謝を示せない者は…………クズよ!」
 目をカッと開き、気迫だけで場を張り詰めさせる。
 守るための戦いを選び、冒険会社に入社したリューネは、曲がった行いを嫌っていた。
 ましてや守るべき弱者を踏みにじる行為など言語道断である。
「ヴェルシュバインさんだって、避難先でお金は必要になってくるのよ。畜産農家として築いてきた生活を捨て、新たな土地で暮らすのなら、お金はいくらあっても邪魔にはならないわ。だけどヴェルシュバインさんは村の為に、村を守ろうとする私達のために、明日必要になるかもしれないお金を受け取らなかった」
 リューネはキスティアに詰め寄り捲し立てると、今度はくるりと背中を向けて言い放った。
「その優しさと心意気だけ受けとりましょう」
 そう言い残して、リューネはヴェルシュバインさん家に向かって歩き出した。
「相変わらず暑苦しい人ですね」
 その様子を見守っていたカノンはひとりごちた。
「あれがうちのリーダーだよ」
「ええ、暑苦しいけど、嫌いじゃないですよ」
 怒られたはずのキスティアは、誇らしげにリューネの背中を見送り、カノンも頷いてみせた。
 一度目は刃を、二度目は拳を交えた相手ではあるが、己の間違いを受け入れ、本当に大切なものを守る戦いがどういうものかを知って変わろうとするリューネを、カノンは嫌いにはなれなかった。
「さてと、お肉の調理は苦手だし、私も一度工房に戻るわ」
 レヴェネラは本来、巨大寸胴を工房から購入して用意するだけの予定だったのだが、リューネの包丁さばきがあまりに下手だったため、今まで手伝ってくれていたのだ。
 だけど彼女には冒険会社メンバーの武器のメンテナンスという重要な仕事がある。
 偵察に向かったリリアナ隊とエレナ隊が帰還し、竜に関する情報をもとに作戦を練れば、いよいよ決戦が始まる。
 それまでに全員分のメンテナンスを終えねばならない。
「武器のメンテ、あと何人分くらい残ってんだ?」
「もうほとんど終わってるわ。あとは簡単な微調整だけよ」
 自分の武器の状態が気になるキスティアの質問に、レヴェネラは包丁を手渡しながら答えた。
「ま、あと一刻くらいで終わると思うわ」
「そっか。なら終わったら炊き出し食べに来いよ。それまでに作っとくからさ」
「りょーかい。楽しみにしとくわ」
 そう言ってレヴェネラも広場から去っていった。
 広場に残ったのは、キスティア、トッティ、カノンの三人。
「さて、残った三人でカレーなる謎の料理を作るわけだが……」
「別にカレーでなくてもいいんじゃないですか?」
 レヴェネラから包丁を受け取り、現場の指揮権を得たつもりのキスティアに、カノンはさりげない意見を投げ込む。
「カレーじゃなくても……か。いかにも一匹狼の言いそうな意見だな。だが今は我々冒険会社が主導権を握っている。そして我が総隊長はカレーを作ると言った。ならばここは総隊長の意思に従ってカレーを作るべきだと思わないか?」
「ふむ、それは一理あるです」
「ありました!?」
 キスティアの暑苦しい講釈に、トッティが真剣な眼差しで納得した。しかし対照的にカノンは全く納得出来ていない様子である。
「そもそも完成形を知らない料理を作るのは、無謀すぎませ……」
「いや、もうそういう方向で進んでるから、カノンも空気読んで協力頼むわ」
「え?」
 正論で抗議したカノンの言葉は、キスティアの強引な言葉に掻き消された。
「だからそういう感じで決まってるから」
「急に雑な進め方になりましたね」
「オレに頭脳プレイを求めるな」
「はあ……仕方ないですね」
 キスティアのなんとも力ずくな展開に、カノンは困惑しつつも諦めて協力をすることにした。
「とりあえず、どの肉を使う?」
「どれって聞かれても、私達は何が正解か知りませんからね」
「奪った命を粗末にしてはいけないです。全部使うです」
「食べ物を粗末にしてはいけないのは解りますが、もう少し考えません?」
「正解が解らない以上、考えるだけ時間の無駄です」
「トッティ、冴えてるな!」
「どこが!?」
 トッティの言葉に、キスティアは納得した様子で、カノンの抗議を無視して各種肉をまな板の上に並べていく。
 そして包丁を眼前に真っ直ぐ縦に構え、目を瞑って精神を集中させた。
「ハッシュバルト流剣術改式包丁術、流水乱閃斬(りゅうすいらんせんざん)!」
 キスティアは流れる手つきでまな板の上の肉をくるくると回転させながら、器用に一口大に切り分けていく。
「変な技名を言った時はヒヤッとしましたが、なかなか見事なものですね」
「うちの流派は全ての刃は剣に通ずるって教えで、最初に包丁術を叩き込まれるんだよ」
「はあ、変わった教え方ですね」
「ただ単に、弟子に飯の用意させたいだけだよ 」
 会話はぶっきらぼうだが、包丁捌きは繊細にて流麗だった。
 そんなこんなで雑談を交えながら、見事な手つきで肉を全部捌き終えた。
「で、どうする? 全部鍋にぶちこむか?」
「お肉でしたら、先に焼いて味を封じ込めた方がいいでしょう」
「面倒なので全部投入するです」
「…………え?」
 キスティアとカノンが真面目に相談している隙に、トッティが肉の乗ったバットをかっさらい、素早く鍋に全てを流し込んだ。
「考えたところでカレーの正しい調理方法などわからないです」
「そりゃそうかもしれないけど……」
 淡々と喋っている間も、トッティはザルに纏められた野菜を鍋に投入していく。
「おい、勝手にするな」
「気にするなです」
 トッティは親指を立て、口角の片側を引き上げニヒルな笑みを浮かべる。
「味付けはどうするです?」
「たしか社長の話によると、各種スパイスを使うって言ってたような……」
「各種スパイス……つまり複数の辛味調味料わ使うということです」
 トッティは未使用の食材から山ワ・サビーを取り出し、鍋の中にすりおろしていく。鍋の中身は緑の色味を増し、鼻腔をつーんと刺激してくる。
「やるなトッティ、ならば辛さならこの練りカラッシーも負けてないぜ」
「ホーククロウもかなりのものです」
「こっちも負けてられないぜ」
「あなた達、もう少し味の調和を考えて味付けしませんか?」
「こまけぇことはいいんだよ」
 キスティアとトッティはまたもカノンの忠告を無視し、対抗心を燃やしながらそれぞれ思い思いの辛味調味料を投入していく。
 鍋からはなんとも言い難い刺激臭が漂ってきた。
「これ、本当に老若男女問わぬ国民食になるんですか? 今のままだととてもじゃないですけど、辛すぎて子供は食べれないと思いますよ」
「なら子供が喜ぶ甘味も必要だな。この甘味の王様、つぶつぶアンコロを入れるぜ!」
「ふふ、甘味なら断然、山栗ひん剥いちゃいましたです」
 カノンの忠告にキラリと目を光らせながら、二人は自分の好きな甘味料を大量に投入していった。
「だから味の調和を考えましょうよ!」
 その光景にカノンは膝を折って、手を地についた。
「私はまた間に合わなかった。このままでは村の人達の胃袋に危険が……」
 未知の料理カレー、完成形を知らぬ二人の飽くなき探求心が新たな味を開拓する。
 それは果てなき荒野を冒険するが如く幾多の困難が待ち受ける。
 二人はイマジネーションをフル回転させ、見たことのない料理の完成形を思い描いていった。
 それは未知なる大地に踏み出す冒険のはじまり。
 それは不可能への挑戦。
 キスティアとトッティは無知の荒野を駆け抜け………………暴走する。
「これは…………彼女達を止められなかった私の罪だわ」
 カノンは左肘を前に突き出し、拳を顎の下に添える。そして腰から引き抜いた星奏剣スターライトの峰を幻響器ヴァイオリニオンの弦と十字を描くように交える。
「奏でなさい、彼女達を止めるメロディを!」


その15へ続く↓
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1970846946&owner_id=6086567
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する