ところで、肝心なことを書くの忘れてましたが、トムクルーズ扮するネイサン・オールグレン大尉のモデルとなったのは、「江戸幕府のフランス軍事顧問団として来日し、榎本武揚率いる旧幕府軍に参加して箱館戦争（戊辰戦争（1868年 - 1869年））を戦ったジュール・ブリュネである。」
ということですが、映画ではアメリカ人で、南北戦争やインデアン戦争で、非戦闘員、村の子供達を虐殺した経験があり、それがトラウマとなって、アルコール中毒になってる人、という設定です。
彼は、新政府による西洋式軍隊の教授職として、高給で雇われ、日本にやって来たのですね。
でも訓練が未熟なまま、勝元率いる不平士族と1戦を交えなければならず、新政府軍は敗走し、彼自身は勝元軍の捕虜となってしまうのですね。
そこで、勝元の妹「たか（小雪）」に、闘いで受けた傷を世話をしてもらいつつ、その士族で作る村の人々の生活、精神世界次第にに心惹かれるようになっていく、という設定です。
何故あのアメリカ人を殺さないのか？という周囲の非難に耳を貸さず、勝元はオールグレンとの会話をたのしむようになるのですね。
実は勝元は、オールグレンの持つ不思議な魅力に惹かれ、その場で殺す？（処刑）すべきところを、引き取ったのです。
後でその理由がわかるのですが、彼ら二人は、同じ資質を持った、よく似た者同士だったから、なのですね。
監督は、この映画を作るに当たって、最初に心に浮かんだのが、この最初の戦闘シーンだった、と言ってました。
最新の銃装備に身を固めた新政府軍に対して、侍の軍団が迫ってくるシーンです。
「深い霧が立ち込める中、竹林（？）の中から、物の怪のように現れる、騎馬侍の恐ろしい姿。それを撮りたかった」と。
日本の侍というのは、世界でも最も恐ろしい戦闘集団の一つとして、世界中の人が英雄と見做す人達らしいです。
オールグレンはそれを目の当たりにして、強い衝撃を受ける。
一方勝元の方は、敗走する政府軍の中にあって、一人、果敢に戦うオールグレンの凄まじい戦いぶりに、自分がいつも心に思い描いていた「虎」のイメージを見るのですね。
国境を越えた、二人の類まれな人物、似た者同士の出会いの場です。
タカ、という女性も、勝元の妹だけあって、風にも耐えぬか弱い存在であるように見えて、やはり「武士の子」なんですね。
アル中のオールグレンが、酒の禁断症状に苦しみ、夜通し「Sake、Sake！」と叫ぶのをじっと耳にしながらも、一滴も与えません。
勝元の弟、忠信（小山田真）が「酒くらい飲ましてやったらよいではないか」と言っても、「この家のことは私が決めます」と言って、耳を貸しません。
そうして、とても健康的な和食をたっぷり食べさせ、養生するうち、オールグレンのアル中は治ってる・・・・大和撫子ですね〜。
あくまでもたよやかに、優しく静かでありながら、大の男にも負けない芯の強さと賢さを持っている・・・それが大和撫子なんですね。
監督の言う、「日本人の精神世界」と言っている意味が、最初わからなかったのですが、こういう、「欲望に強い」、という日本の武士道から来ているのかもしれません。
「腹が減ったくらいで文句を言わない。
辛いだのしんどいだの、怖いだの、不平を言わない。常に誇り高く、礼儀正しく、
毅然と振る舞う」という。
だから、禁断症状に苦しむオールグレンにも、「酒ごときの誘惑を克服できないようでは、男とは言えぬ。人間とも言えぬ」
くらいの気持ちで接したのでしょう。
西洋人、特にアメリカ人と日本人の違いは、この辺にあるように思います。
日本人は比較的、物質的な欲望に対して、己を制御できる人達だ、と思うのですよ。
そうすることで、体も健康に保ち、精神的にも静けさと平和が保たれる、という考え方。
これは古代から日本に受け継がれてきた、基本的な生き方なのではないでしょうか？
この映画は、オールグレンの回想日記が、トムクルーズによるナレーションで語られる形式をとってますが、その中で彼は言ってます。
「日本人は不思議な人達だ。
皆礼儀正しく笑顔を見せるが、その下には複雑な感情が隠されている。」と。
その通り！とたまきは思わず言っちゃいました。
アメリカ映画なんか観てると、「あんたのそのクソみたいなアイデアは置いといて。こうしようよ」と言った直後に、「オオっ、すごい、あんた、天才！」と言って抱きついたり、感情の起伏が激しく、それをはっきりと態度に出すので、それでも多くの場合、和気あいあいとやってるので驚きますね。
あと、「朝目覚めた時から全力で自分の務めに励む」とも言ってた。
日本人がアメリカ人と大きく違う点は、「欲望に忠実」「楽しく生きることに大きく価値を置く」という生き方を、ある意味恥だ、と考えていたことでしょうか？
どちらにも、一長一短、ありますね。
だからたまきは、世界のグローバル化はいいことだ、と思ってます。
違う価値観、文化を持った他国同士が融合することで、よりよいものができる、と
考えるからです。
一つの国の人間が、他国の人の目によって己をまったく違う角度から知ることができる、というのも異文化交流のいい点ですね。
個人単位で言うと、人は、他者の目によって、自分の姿、能力を知るのだから。
だから国際的に仕事をしている人の多くが、高いレベルの成果を挙げることが多いのは、その為か？とも思う。
人間の知能は、最初から今のようなレベルだったわけではなく、ちょっとしたきっかけで、急速に頭脳が発達する、という機会が幾たびとなくあって、だんだん賢くなっていってるんですよね。
いい音のする楽器を作ろう、と工夫を重ねるうちに、人類の頭脳が急速に発達したのもその一つの例らしい。
どの国も、外国からの異文化を取り入れることによって、自国の文化を大きく向上させてきてるわけで、まったく違う発想を持った人同士の交流が、人々の頭脳を刺激し、向上させるのだ、とたまきは信じてるんです。
気持ちを日本人に合わせて、彼らの生活や価値観に同化しよう、と努力するオールグレンを、トムクルーズは時にユーモラスに、時に真剣に、非常に好ましく演じてました。
ここで、明治天皇について一言。
当時天皇は、新幕府に擁立されて西洋化に積極的、と見られたかもしれないけど、
実際にはそうでもなかった。ただ自分の考えを一切言えなかったのです。
大政奉還された、とは言っても、天皇の権限は相変わらず形ばかりで、ほとんどは
新政府（幕藩と言って、薩長の武士階級の人達でほとんど占めていた）の考えに従うしかなかった。
尊王攘夷派だった西郷は、西洋式軍隊を作ろう、とはしていても、それはあくまでも敵を退ける為の道具として、であって、西洋べったりになるつもりは毛頭なかったわけですね。
映画では、西郷をモデルとした勝元が、最後まで一切銃を使用してないのです。
西郷は銃も使用したのだけど。
銃など使うことは、武士の恥、と心得て、手に入れることもできたはずだが使わない、という設定になってます。
監督たちは、あくまで「武士道」に殉じた、高貴なサムライの精神をこの映画で描きたかったのですね。
この物語は、というか明治維新自体が、「刀」が「銃」に敗れた話。
刀に象徴されていた「侍」の終わり。
「武士道」、つまり「侍の精神」が葬られた話なんですね。
そんなこと、どこの国でもある話で、西洋の騎士の時代の終焉、ローマ帝国の終焉、オスマン帝国の崩壊、等、キリがないほど、時代の変遷と共に消滅していくものは数知れない。
でも、完全にそれらが消えてしまうわけではなく、何がしかの影響を残すわけですね。
そうやって考えると、日本の武士道というのは、大変価値の高いものだった、と
この映画で改めて認識しました。
勝元が凄まじい最後を遂げ、彼の刀を持ったネイサン・オールグレン大尉（トムクルーズ）が天皇に謁見して、刀を渡すシーンは象徴的ですね。
西洋列強に全てを乗っ取られてしまいそうな雰囲気の中、欝々としながらも、何も言えずにいた天皇に、勝元の戦場での戦いぶり、そしてその刀に込めた思いが、天皇に届いて、勇気を与えるのです。
その場で、列強国になめられているような（恐らくそうでしょう）条件を示した書簡にサインを、と迫られていた天皇は、勝元の話をオールグレンから聞き、形見の刀を渡されると、初めて命がけの勇気を示し、その書簡を退ける。
そしてサインを、と迫っていた大村に、私腹を肥やすことに専念し、西洋化をその為に利用しているかのような態度を、正面切って、初めて鋭くなじります。
天皇の立場、というのは藤原の時代以降は極めて危うく、軍事力を持たない為、実質の政治に対する権限はなかったのです。
その時々の権力者達は、その天皇の「日本の象徴」としての権威を利用し、天皇は
いかに反対の気持ちがあっても、それに逆らうことはできず、利用されるがまま、
その屈辱に耐えていたのです。
でもここで初めて、勝元の刀を手にしたとき、天皇の中で何かがはじけたようでした。オールグレンの伝えた「この剣が、天皇をお守りする」という勝元の遺言を耳にした時、天皇の表情が変わりました。
びくびくして武人たちの言いなりになっていないで、自分の意見をはっきり言うべき、と覚悟を決めたのですね。
これ以降の明治天皇は、政治力を発揮するようになり、偉大な日本の指導者へ、と成長していく、とナレーションがありました。
こういった、日本の、時代の変化に柔軟に対応できる賢明さと、圧倒的な軍事力の脅威にさらされながらも、こちら側の言い分は命を賭けてでも通す、簡単に屈服するわけではない、という強さ、頑固さは、恐らく「武士道精神」からきているのですね。
武士道精神が、武力に押しつぶされていた天皇まで動かし、勇気を与えた、という話。
監督たちが描きたかったのはそれなんですね。
歌舞伎俳優、中村七之助の明治天皇、よかったです。
監督が言うには、歌舞伎役者というのは世襲制なので、独特のルックスが作られ、
彼らは皇族と非常によく似た雰囲気を持っている、ということ。
そう言われてみると、確かに皇族の雰囲気を持ってますね。外見も似てる。
ところで、たまきは監督の話をメモを取りながら聞いたのですが、彼曰く、テーマは１と２があり、第一主題は「扉が閉まる」だそうです。
異文化への扉でしょうか？
そしてよく扉を閉めるシーンが小雪さん演じるたかの動作で何回も出てくるんですね。これは象徴的な所作だ、と言ってました。
やがて扉が、オールグレンに対して開かれる。
受け入れられたことの象徴として。
第二主題は「己との対峙」だそうです。
あと、無意識の主題が、「禅の離脱の境地」だそうですが、たまきには何のことかわかりません。
映画を観た人、わかったら教えてください。
たかとオールグレンび恋愛を、最小限にして表現していたのもよかったですね。
最後のシーン、たかと二人の子供達が、以前と同じように庭の畑仕事をしている。
ここでも「七人の侍」を思い出しましたが、戦の世では、男性が主役、女子供はまったく力のない、か弱い存在に見えます。あと、農家の人々も。
でも生死を分ける闘いが終わると、そこに見えるのは、最もか弱い、取るに足りない存在に見えていた女子供達の変わらぬ姿。そして農民。
彼らは戦なんかに、ちっとも影響を受けてないように見える。
相変わらず元気に野菜を作り、遊び、幸福そうにすら見えるのです。
確か「七人の侍」では、「最後に勝つのは百姓だ」と生き残りの野武士が言ってたけど、この映画ではそれが女と子供に変わってるわけですね。
監督はこのシーンについては何もコメントなし、でしたけど。
トムクルーズは子供が好きなんですね！
共演した子役には、毎年クリスマスケーキを送り続けたり、この「ラストサムライ」の池松壮亮にも来日の度に声をかけているそうです。
いい人ですね！
たまきはトムクルーズと共演することにします。
子役で。
目尻に「カラスの爪痕」の付いた子役・・・う〜ん・・無理か。
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