mixiユーザー(id:431351)

2018年11月20日06:08

138 view

夏の一日    7

珍しく俺と柳は二人で遠出をした。
遠出といっても横浜の八景島に来ただけだったのだけれど。

ヤローと二人で海になんか来てもつまらないぜ。お前は好きな俺と一緒で嬉しいだろうが。
なんだよ!そっちからどっか行こうって言い出したくせに!
行ったけどなんでこんなデートコース!あ、俺とデートしたかったなんてほざいたら殴るぞ!
違う!ただ仁科と冬の海を見たかっただけ。

12月初旬の海辺はお世辞にも穏やかとは言えず、二人とも防寒用の分厚いコートを着込んで足早に歩いていた。

水族館で暖を取るしかないな。

八景島シーパラダイスの水族館は、恭子と来たのが最後だった。あの頃は本当に恭子のことが好きだった。

人間てなんで気持ちが移り変わるのかな。
僕は移り変わらないけど。
お前、浄化するって言っただろ!俺はとっくに浄化したぞ。
はやっ。

そんなやり取りも何だか今日は楽しかった。
そうだったのだ。いろいろあったけれど、俺たちは大学時代からの付き合い、かれこれ10年近いのだから。

本当にお前と今も友達同士で良かったよ。
えっ?珍しい仁科先生、やけに素直。
俺はいつだって素直だよ。分かってねえな。
いや、分かってるけど。改めて口に出されると照れるな。

こいつは本当に面白い。
これで変な性癖さえなければ。いやいや今のは大いなる偏見だ。
柳はジェントルマンじゃないか。抱き着かれたのがたったの一回で、あとは何もしてこない。
軽いノリの俺よりもかなり真面目なんじゃないか。

二人ともフリーになって、なんかすっきりしたな。
そうだな。
柳は群れをなして泳ぐ熱帯魚を眺めながら、目を細めた。
当分このままでいいよ。女の子はもう疲れたよ。
疲れてたのは美樹ちゃんの方だろうよ、もういいけど。

二人で水族館のレストランで遅い昼飯を食べた。

これからは少し仕事に集中して、また来年度宅建の試験を受けるよ。
頑張れよ。

親友っていいな。俺は漠然と思った。
無理せず自然体で付き合えるのは柳だけだ。
この先もずっとこの関係でいたい。

柳?
?なに?
あのさ、もしも二人ともいい年齢になっても独身でいたらさ。
うん。
一緒に住まない?恋愛感情なしで。
それは苦しいかも。
苦しくならないかもよ、その頃になれば。
………そうだ、な。そうかもな。いいよ。

そうなんだ。告白には応えられなかったけれど、俺は柳を失いたくはなかったのだ。
柳は、俺にとって、空気のように大切な存在。

でもさ、オンナ好きな仁科先生だから、結婚はすると思うよ。
そしたら僕は当分立ち直れないけどね。
祝福してくれよ!そうなったら。
どうなるか分からないけど、親友ではずっといたいよ。
俺もだよ。


八景島の夕暮れは美しかった。
来てよかったなと思った。
友情を再認識出来たし、信頼関係も確信出来た。

遠くで、船の舵取りの音が聞こえた気がした。
俺たちの時間はこれから再スタートされる。




ーendー

フォト


6 6

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する