mixiユーザー(id:1762426)

2018年11月12日06:37

190 view

我が町ー4−5 原宿:夢の時代ー5 ジャー・ヒロ

80,90年代に下北沢にあった、レゲエの飲み屋、不思議亭のママさんがアフリカに旅した話も印象的だった。当時店のバイトをしていたアフリカ人のラスタの紹介でガーナに行った時、或る村で大歓迎を受け、名誉村長の栄誉を与えられた。輿に乗って村を練り歩く写真を見せてもらったけど、一番印象的だったのは、旅のすべてが、ラスタからラスタへの紹介の連続で居心地の良い旅が出来たことだった。昔「マスコミは一切信じない。自分の目で聞き、耳で見たことしか信じない」とい言ったラスタ(香港からきた)がいたが、彼の言うように、ラスタの言葉には絶対の重みがあり、その紹介は国家を超える価値を持っている、と僕は感じた。友人のラス・ニコ(ガンジャで、現在懲役5年の刑に服し ているが)の旅もそうだった。

彼は日本で活動した信心深いラスタマン、ラス・ガッドと兄弟のような付き合いをしていた結果、ガッドがイギリスに帰国した後、彼を頼ってイギリスに行き、彼の家に滞在して地元のラスタ・コミューンの日々の行事に参加。その後、またガッドの紹介でエチオピアのアジス・アベバで会ったヨハネ<当時国連の臨時職員(だったような気がする)>の世話になり、また彼の紹介であちこちに泊めてもらいながら、ラスタの聖地、シャシャマニまで行き、そこでも世話になって帰ってきた。飢餓で有名なエチオピアでもみんなに食べさせてもらったと聞き、僕は呆れたもんだった。ほんとほとんど一文無しでよく旅を続けたと感動もした。しかしその秘密は、彼自身が固いラスタの信仰を持ち、シャシャマニでエチオピアのラスタファリアン達に感心されたように、聖書を読むことを義務としていたから。日本では何の意味も持たない熱い信仰心が世界中で彼に道を開いたと言えるだろう。そうそう、もう一人可笑しな奴のことを思い出した。そのドレッドの男は「金がたまるとアフリカに旅に出るんです」と言った。興味を抱いた僕は彼の旅を詳しく聞いたが、驚くやら呆れるやらの不思議な旅だった。なんと彼はアフリカの村々をモーゼのような衣服でいわくありげな杖をついて歩いて訪れるのだそうだ。ドレッド頭と彼の格好を見た村人は「神の使い」と信じて、最大級のおもてなしをするのだという。(それって詐欺じゃないの?)と思った。その大歓迎がたまらなくて、日本で掃除の仕事をして金をためるとアフリカに行くのだと言った。今でも彼は杖をついてアフリカのどこかの村で接待されてるのかなあ?それともばれて袋叩きになったかなあ?今まで出会ったなかで一番風変わりな旅をしていた奴だった。そうそう風変わりと言えば、ジャマイカで文無しになり、キングストンのストリート・ギャングのボスの家の庭でテント暮らしの日本人の噂も聞いたなあ。そしてもう一つ、ジャマイカに行くと、必ず寄生虫のように取りついて、金をせびり、巻き上げようとする奴が現われる。彼は「こいつは俺のもの」と他の人間を寄せつけない。日本レゲエ界の大スター、ランキン・タクシーもそういう奴に取りつかれてるという噂を聞いた。或る日店にやってきた男もそんな犠牲者だったが、彼の体験は普通の人の一歩先を行っていた。彼もやはりジャマイカでたかられ続け、とうとう最後に「もう俺は一文無しだ。お前にやる金は一銭もないぜ」と言ったら、相手が「それなら俺についてこい、一緒にカモを見つけよう」と言い、白人の観光客から二人でたかったらしい。彼の「金がなくなってからが、面白かった」という言葉がとてもジャマイカらしくてよかった。こういう外れた旅話は大好き。沢木耕太郎の「深夜特急」。これを読むと、「金がない旅」の素晴らしさを感じる。国から国へと旅を続けるうちに、何度も人に救われながらの旅って最高。でもこれを体験するには若さと貧乏と無謀と勇気が必要。多分人生で一回しか出来ない旅だと思う。お金が充分あって、高いホテルに泊まって、観光地を楽しむ旅とは正反対の旅。そういう旅をした人間に店で会った。また知人のレゲエの店でも会った。二人が共通するのはアフリカ人であること。彼等は幸せを求めて地球を這うように仕事して金を作りながら旅を続けて日本にたどり着いた。一人は「イタリアのローマでホモの神父に誘惑された。キリスト教は腐ってる」と憤慨してたし、もう一人はギリシャで船乗りの仕事中に約一週間暴風雨に船が翻弄されて、「もう一生船には乗りたくない」と言っていた。彼等は密入国を繰り返し、過酷な違法労働をしながら地球を旅する。もう日本人にはそういう力はないだろな。そう思いながら、彼等の生きる気力に圧倒されたことを覚えている。

原宿トレンチタウンは午後1時開店で、それもよく遅刻した。するとよく店の前の竹のベンチで寝たり、座ったりして、のんびり待ってるお客さんがいたりした。「やあ、ごめんね」と言って、扉の鍵を開ける。そういえばトレンチは二度泥棒に入られた。その都度戸締りが厳重になっていき、二度目の後は、木の扉には三箇所の鍵、扉の窓には金網、大きな窓には雨戸と、まるで要塞のように、まるでジャマイカのダウンタウンの店のように、ガードが固くなった。だから、店を開けるのに時間がかかった。最初の泥棒の時は警察を呼んだが、「こんなものを盗るなんて」と刑事が呆れたように言ったらしい。そして「マニアの犯行だな」とも。そうだよな、店に現金は置いてなかったから、ラスタ・カラーのTシャツ、トレーナー、タムや雑誌と、どうみても「レゲエ・フアンの犯行」としか思えなかった。それまで僕たちは(レゲエの好きな人に悪い人間はいない)と信じていたが、その時初めて悪党もいることを知った。(それほど世間知らずだったんだなあ)


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する