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2018年03月11日16:03

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三月十日

   三月十日    和泉 鮎子

暁(あかとき)を唸りつつ水を飲むといふ
   井戸のほとりの楠大樹(くすのきだいじゆ)

三月十日夜明けの東京の空爛(たゞ)れ
   お家(うち)燃えてるの?燃えてないよね

池の亀を案じて泣きゐる弟を
   江戸弁でぴしりたしなめし母

知りびとのひとりなき地に移り来て
   疎林に沈みゆく太陽(ひ)見てゐる

暁(あかとき)の闇に香を放つ一隅の
   ありておびかれし弟ならずや

人を呪ふことから始まる小説でも
   書かうか無住寺に雨を聴きゐる

神経の束のやうなる折線グラフ
   何を示ししものとも分かず

ひとり啼くほかなき一羽か無住寺に
   昨日と同じこゑのしてゐて

雑十首A4に拡大コピイする
   どうも気になる古墳訪ふとて

空襲に枯れ枯れ残れる井戸の辺(へ)の
   大楠(おほくす)つひに伐られ畢(をは)んぬ
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