これは、明治末期から大正時代の前半にかけて喧伝されていた都市伝説です。
■ある財閥を統べる資産家一族の邸宅には、ある家宝とも呼べる品物が大切にしまわれていたという。
この品物は非常に美しく、彼らの先代が何処からか譲り受けたという、出自不明の岩石のかけらであった。
折りしも、この石を手に入れて以降、
一族の人生は見事に好転。稼業は順調に進み、あっという間に彼らは関東でも指折りの名士となることができた。
しかし、折角の栄華も、ろくろく味わう暇もないまま、石を手に入れた先代は死去。その体は
グズグズと煮込んだように傷んでいた。
一族の中には、遺産相続の際に声高に分与を主張する者もあり、中でも最も強欲
な人物が、件の石を強引に我が物にした。
そしてこの人物
もまた、同じく無惨な死に様をさらすことになった。
ここにきて一族は、災いの根源がこの石ではないかと考えるに至り、東京帝国大学
の西田篤教授
に鑑定を依頼することとした。
西田教授は、まさしくこの石こそが災いの根源であることを確信した
鉛でできた箱に石を詰め、完全に密封してから自分が引き取ることにした。一族の誰も反対しなかったそうだ。
かくして石は、西田教授
の監視下に置かれた。
彼の目から石が
逃れることになったのは、それからすぐ後に発生した関東大震災
以降である。
教授
はこの震災で命を落とし、石の行方は、鉛の箱ごと分からなくなってしまった。
今でも各地を点々としているという噂もある。
ざ・都市伝説:転載
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