『薄いし』

『薄いし』
若い一組の男女がカフェで向かい合った席で話している。関係は分からないが、おそらく男が職場の先輩、女の子が後輩らしい。女の子が言う。この前、入った喫茶店でアイスコーヒーが凄く薄かったんですよ。びっくりするぐらい。でも、店員の人も、当たり前みたいに出してくるし、お客さん達も、普通に喋ってて、気付いてるはずなのに、何だか不思議な感じでしたよ。それで思ったんですけど、世の中のものって、役割さえはっきりしてれば、中身はどうでもいいのかなって。確かにそうだね。ウチの営業のリーダーって名前だけなのにいるもんね。でも、居なくなったら、仕事が上手く行かなくなりますよね。その店でかかってる音楽も誰も知らないような洋楽とかインストゥルメンタルで、でも誰も気になんかしないし。音楽だって分かればいいんですよ。ウチは優しいけど、父や母の役割だけでも誰かいれば、ぐれないかもしれないし。学校の先生も、質はどうでも、いれば何とかなってますよね。何の話なの？それで、彼なんですけど、何か薄い気がして。男の方が笑い出した。それでも彼の役割は果たしてくれるし、充分なのかなって。プレゼントもくれるし、デートもするし。男の方が面白がって言った。まあ、充分かもしれないけど、そのアイスコーヒーを出した店には、また、行くの？女の子が笑い出した。もう、二度と行かない。