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2017年07月12日05:49

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続『数学原論』

 ニコラ・ブルバキ(Nicolas Bourbaki)はフランスで活動した数学者集団で、1939年から1998年にかけて『数学原論』というタイトルで数学の各理論を述べた著作を次々に世に送り出したことで知られている。現代数学を集合論を基礎に構造という観点から構築しようとした壮大な試みだった。
 ブルバキとは架空の人物名で、その実体はフランスの若手数学者の集団。彼らは集合論の上に現代数学を厳密かつ公理的に打ち立てることを目標に、「秘密結社」として活動し、『数学原論』を出版し続けた。
 「公理(axiom)」というのは証明なしに正しいとする約束であり、少ない公理を基礎にしてできるだけ多くの定理を証明するというのが公理主義の主張。それを『数学原論』で実行しようとしたため、教科書のように「理解させる」という配慮が全くなく、可能な限り無駄を排除し、論理的に展開されているため、実に無味乾燥な内容になっている。この点ではユークリッドの『幾何学原論』の精神を踏襲している。
 ところで、1960年代に登場して発展した「構造主義」という思想がある。私が高校生の頃は実存主義が、大学生の頃はこの構造主義が流行していた。数学、言語学、精神分析学、文芸批評、生物学、文化人類学など、さまざまな分野で展開された。フランスではソシュールの言語学が出発点で、人類学者のレヴィ・ストロースによって構造主義は普及した。数学における構造主義の代表例がブルバキの『数学原論』であり、この本には「代数構造、順序構造、位相構造」という三つの構造概念、そしてフィルターなどいくつかの新しい概念や術語が導入された。『数学原論』の公理主義や構造主義、その論理的な厳密性は20世紀の数学自体、そして思想に大きな影響を与えた。
 そのような『数学原論』も1998年に最終巻が出版されたのを最後に枯れてしまった。ブルバキの活動や影響力が衰退した理由は何だったのか。ブルバキの影響を受けた本が他にも出版されるようになり、ブルバキの独自色というものが失われた。さらに、集合論以外の基礎理論、例えば圏論などについての考察がなされていないためでもある。ブルバキのメンバーの一人アイレンベルグやグロタンディークは圏論を積極的に論じたが、圏論を導入するには、それまでに発表されてきたブルバキの著作に根本的な修正を与えなければならなかった。
 『数学原論』の執筆は1998年から止まったままだが、ブルバキの活動はブルバキ・セミナーの形で今でも行われ、それはホームページで検索できる。

*数学における三原論
ユークリッド『幾何学原論』、ブルバキ『数学原論』、グロタンディーク『代数幾何学原論』

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