仏教学者佐々木閑と物理学者大栗博司とのトークセッションをまとめた対談本である。お二人の対談や特別講義を通じて仏教学と物理学とが交錯し、大栗の指摘に応答しながら理系出身でもある佐々木の仏陀像が明らかにされていく。仏陀は超越者の存在を認めず現象世界を法則性(縁起)によって説明しようとし、その結果、世界には始まりも終わりもなく諸要素が法則に従って永遠に集合離散を繰り返していると考える。そこには本来意味も目的もない。先ずはこのような世界を正しく深く理解すること、その上で仏陀は「苦」からの解脱を求めたのだった。佐々木はこのような仏陀の姿勢を忖度して更に輪廻や死後の世界も否定した上で、「苦」からの解放を説く仏陀に帰依する。その意味で佐々木は「仏教者」なのだ。それにしても、「仮説と検証」という近代科学の方法論によることなく、思索のみによってこのような世界観に到達した仏陀には驚嘆するばかりだ。仏陀がもし現代世界に生まれていたら、間違いなく仏教者ではなく物理学者としてこの世界の真理の探究に専念していたことだろう。
http://booklog.jp/item/1/4344984390
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