mixiユーザー(id:18441979)

2017年04月26日21:25

164 view

天童荒太『孤独の歌声』,いい小説でした。                 v

 通常の価値観をぶちこわす勢いのある小説はおもしろい。久しぶりに手応えを感じた小説でした。
 小説(本)は毒です。いい子が賞賛され,悪い子が罰せられる世界とは対極にあることを改めて思い知らされた作品です。毒だからおもしろい,毒が真実の一面をさらけだしている,それが小説(本)の存在意義です。

<以下引用>
P215
 隠し事のないことが,よい家族であるような幻想があるけれど,わたしには,家族ほど秘密の多い集まりはないし,秘密を抱えたままだからこそ,どうにかまだ家族として暮らしていけるのだという気がする。
 真の哀しみ恨みを家族と共有しあわないことを,淋しいと思ったことがまったくないとは言えない。でもわたしは,濃密な息苦しさより,個々の時間と空間を尊重した,一種の冷たさ虚しさのほうをむしろ愛したい。ひとりには耐えられる。だが,自分が削られ失われてゆくことには,とても耐えられそうにない・・・・・・。

P357
「おまえはひとりだぞ,永久にひとりだぞっ」
「・・・・・・いけないの」
「何を言ってる。ひとりでいていいわけがないだろ。ひとりはつらい,ひとりは悲しい,ひとりはつらい。生きている意味もない,価値もない」
「・・・・・・ひとりだから,出会える」
「なんだと」
「・・・・・・ひとりで歩いているから,出会える・・・・・・出会って別れるまでの,短い関わりのなかに,わずかにでも生まれるものが,大切なんだと思う・・・・・・」
「ばかだっ,君は本当にばかだっ。こっちに来い。見せてやる。本当に大切なものを・・・・・・。大事なものは,家族だ。愛だ。永遠につづくものだ。けっして別れないものだ。それが愛なんだ。絆なんだ。こっちに来てみろ,この部屋に入ってみろっ」

P375
 私たちは,いま病室で,微妙な笑顔を向けあっている。お互いに何を考えているのか,真実はわからない。自分でも,考えはすぐにめまぐるしく変わって,一定しない。しかし,彼の笑顔と,わたしの笑顔に,言葉にできない理解が生まれているのはわかる。
 そう,すべてがわかるだなんて,ぜいたく。信じられる一点があれば,幸せなんだと思う。
<以上引用>

 友達,家族,わかり合える,・・・・・・といった単語は通常無条件に肯定されます。1年生になったら友達百人できるかな」とよい子は心配します。でも,この小説はこういった「通常」を疑います。
 友達なんて百人できないし,家族がわかり合えたことがない。それが心地いいか悪いかは別として,真実でありそこから目を背けるのは欺瞞でしかない。その事実を抉り出した小説だと思います。そこに抗いようのない真実を見せつけられます。
 友達も,家族も・・・・・・,わかり合えない,と。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する