絵を描くのが大好きでおっとりした少女すずが、やがて結婚し様々な葛藤を抱えながら成長していく様子を丁寧に描いている。それ故に、日常の生活が徐々に戦争に浸蝕され、悲劇を乗り越えて再生していく様子が却って胸に沁みた。地元呉が舞台でもあり愛着が深い作品である。
劇場版アニメも公開翌日に早速鑑賞したが、正直期待外れであった。その原因は、『ユリイカ』平成28年11月号「特集*こうの史代」で再確認することができる。
「対談 片隅より愛をこめて」において、こうのは次のように発言している。
「映画としてまとめるうえでいろいろカットしなきゃいけなかったという話は聞いていたので、てっきり(略)こまかいオチを切ってひとつながりの物語にするのかと思ったら、そういうことはちゃんと残っているんですよ。(略)物語上は別になくてもいいのにすごく丁寧に描いていて…むしろもっと重要そうな部分がバッサリなくなっていたのでびっくりしました(笑)」
例えば、すずの夫周作とリンとの関係がごっそり除かれたため、自ら求婚してすずと結婚しておきながら周作が祝言の席で強張っている謎のシーンだけが残ることになった。原作を読んでいない観客にとっては不可解であったことだろう。
この点について、監督の片淵須直は別のインタビューで次のように答えている。
「すごく単純に、大事なところをあえて切ろうと思ったんですよ。そうしたら、『そこをつくらないと話しにならないよ』って文句を言うひとが出てきて、また続篇をつくれるかもしれない(笑)」
この後監督独自の解釈を展開しているが、いつも思うのは、尺の問題はあるにせよどうしてこういう人たちは自分の勝手な解釈で原作を歪めてしまうのだろうかということである。確かに、映像は素晴らしかった。しかし、物語としては極めてストレスフルだったと言わざるを得ず、続篇が必要となる「不完全な」作品を見せられた観客に対して監督としてどう責任をとるのか。笑っている場合ではないだろう。
もちろんアニメを見るのもよいが、その前に、またはその後にぜひこの原作をご一読頂きたい。
http://booklog.jp/item/1/4575941468
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