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2016年10月26日21:47

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「淵に立つ」

今年は邦画が豊作なのです。
大豊作!






俳優亀岡拓次  横浜聡子

リップ・ヴァン・ウィンクルの花嫁  岩井俊二

太陽  入江悠

ひそひそ星  園子温

ディストラクション・ベイビーズ  真利子哲也

団地  阪本順治

海よりもまだ深く  是枝裕和

クリーピー  黒沢清

葛城事件  赤堀雅秋

セト・ウツミ  大森立嗣

お父さんと伊藤さん  タナダユキ

淵に立つ  深田晃司

永い言い訳  西川美和

オーバー・フェンス  山下敦弘

シン・ゴジラ  庵野秀明





ね、すごいでしょ?
今年は邦画だけでベスト20が作れちゃう充実ぶりなのです。
昨年は 選外も含めて

恋人たち  橋口亮輔

味園ユニバース  山下敦弘

野火  塚本晋也

0.5ミリ  安藤桃子

岸辺の旅  黒沢清

の5本だったんですよ。
それに比すと
今年の邦画はホントにすごい!

で、その充実の中でも
おそらくこれがマイベスト邦画になるんじゃないか…ってのが
「淵に立つ」なんです。
なので
短評よりちょっと気合を入れて書きました。





「淵に立つ」 ’16 (日・仏)


監督・脚本・編集:深田晃司 撮影:根岸憲一 録音・効果:吉方淳二
美術:鈴木健介 サウンドデザイン:オリヴィエ・ゴワナール
衣装:村島恵子 音楽:小野川浩幸 歌:HARUHI
m:古舘寛治,浅野忠信,太賀,三浦貴大
f :筒井真理子,篠川桃音,真広佳奈

’16 カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 審査員賞


深田晃司は
可もなく不可もないある夫婦が、各々が抱える“秘密”により
自分たちの“家庭”が壊れたかのような幻想だけを糧として
そもそも初めからなかった“家族”を生き続け、
ついには
子どもたちは死に 自分たちだけが生き残るという悲劇を
寄る辺ない喜劇のように提示してみせるのだ。
鈴岡夫妻は“ごく普通の平凡な家庭”という幻想を共有しているが
八坂が現れるまで
自分たちの家庭が幻想だと気付いていない
(多くの人々が気付かぬまま一生を終える)。
彼の登場で日常が微妙に歪み初め
互いが互いの秘密に沈潜して行くにつれ
幻想はゆらぎ ゆらぐことで幻想であることを露呈する。
そうして八坂の悪意が発現し娘 蛍が損なわれることで
夫妻は互いが秘匿した“よくないこと”により
家庭が崩壊した(自分の秘密のせいで家族が壊れた)と密かに悔悟し続ける。
その悔悟は
妻 章江の病的潔癖症や 夫 利雄の八坂探しとなって
夫妻の人生を不毛にするのだが、
その不毛にすがることで
彼らは“幻想としての家族”を生き続けるのだ。
八坂の息子山上孝司の登場が
不毛により平衡を保っていた幻想を波立たせ
救いを求めるかのように
壊れることで辛うじて繋がっている鈴岡家は
吸い寄せられるように人生の深淵に臨むことになる。
“辛うじて繋がっている”あえかな絆にこそ人生の機微は宿り
ささやかな幸せを培うこともできただろうに、
章江と利雄は自身の“罪”ではなくその後ろ暗さに囚われて
八坂と対峙すれば何か新しい展開が得られると思ってしまう。
その人間の卑小さが痛い。
人間とはかくも脆弱なのだ。
果たして
渓谷の清流に洗われて生き残った夫婦は
どのように自身と向き合うのだろうか…?
救済はどこからも訪れない。
最初から救済などないのだから自身の恥も罪も全部自らで引き受けて
愚かな私は愚かな私を携えて生きるしかないのだが、
神に照らして“愚かな私”を受用できない利雄は
キリスト者であるはずの章江もまた
深淵の前で抜き差しならぬまま立ち尽くす。
深田晃司は二人をそのように描いて 観客を彼らの“淵”に誘い
ただただ震撼させるのである。
秀作。
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