僕が愛する極私的名盤シリーズも、今回がいよいよ最終回です。
最終回は60年代編。
僕にとっては一番なじみが薄い、遠い存在のはずの60年代なんだけど、僕はこの年代の特に後半が大好き。
後追いながらロックが一番熱かったのは、60年代後半じゃないかなと思っています。
ここに挙げた10枚は、僕がロックにのめり込み始めた10代後半に出会ったアルバムばかりで、出会ってから20年ぐらいたつんだけど、どれも当たり前のように今でも我が家で流れているアルバムばかりです。
僕が大好きなロックのを、体現している10枚といっても過言ではないのかもしれません。
� �THE KINKS ARE THE VILLAGE GREEN PRESERVATION SOCIETY」／THE KINKS
僕が世界で最も愛するバンドの、1968年発表7作目。
THE KINKSは1966年発表の4th「FACE TO FACE」あたりから、アルバムを個々の楽曲の寄せ集めではなくてトータルの作品としてその流れを意識するような作風に展開していったんだけど、このアルバムはその流れをくんで、いよいよ本格的なトータルコンセプトアルバムとして発表した作品。
当時隆盛していたサイケデリックを意識したようなアルバムジャケットも印象的ながら、中身の音は牧歌的な美しいメロディに彩られたフォークロック調の曲で占められていて、ちょっと鼻に抜けるような声で歌うレイ・デイヴィスのボーカルが冴えに冴えわたっている。
コンセプトアルバムとしては凄く完成度が高くて、自然に曲が流れていくんだけど、ここの曲の出来も非常によくそれぞれの曲もしっかり楽しめるのがミソ。
デイヴ・デイヴィスも職人気質な渋いながらもユニークなギターリフを連発していて、この頃のデイヴの溢れんばかりの才能はもっと評価されてもいいのではないか。
後年、再評価はされているようだけど、当時、総スカンをくらった影響もありまだまだ正当に評価されているとはいいがたい。
ロックが好きなら、ぜひ、一家に一枚は置いてほしい名盤だと思う。
�◆�LET IT BLEED」／THE ROLLING STONES
ロックの代名詞といってもいい、名盤中の名盤。
THE ROLLING STONESといえばブルース発のノリのいい陽気なR&Rというイメージかもしれないが、このアルバムとその前作「BEGGARS BANQUET」は、ちょっと作風が異色。
ブルース発のR&Rなんだろうけど、作品から発信されている雰囲気は陰鬱で影が濃い、暗いもので、その重々しい雰囲気が独特の緊張感を与えている。
これは当時の世相や、ブライアン・ジョーンズが脱退寸前というバンドの不安定な状況だったことも影響しているのだろうが、それにしてもこの雰囲気にミック・ジャガーとキース・リチャーズは見事にハマった素晴らしい仕事をしている。
特に、ミックの呪術的な悪魔のようなボーカルは見事。
鬼気迫るパフォーマンスとは、こういうことを言うと思う。
��「ODESSEY & ORACLE」／THE ZOMBIES
60年代の隆盛したサイケデリックロックの中でも、独特の輝きを放っている名盤中の名盤。
ピアノ、ストリングス、メロトロンが彩るカラフルで美しい音世界が圧倒的に素晴らしい。
ロッド・アージェントとクリス・ホワイトの2人のソングライターも非常にいい仕事をしていて、抒情的かつ美しいメロディを、全編にわたり繰り広げている。
幾重にも重ねられていくコーラスワークも壮麗。
ロックならではの適度な隙間をしっかり作っていて、聴き手に心地よさを与えている点もGOODだ。
まさに万華鏡のようなサウンド。
この時代が生んだ最高峰の芸術作品として、もっと注目を浴びても良い存在だと思う。
�ぁ�IN THE COURT OF THE CRIMSON KING」／KING CRIMSON
僕の個人的な見解なんだけど、プログレッシヴロックというのは、実はこのアルバムの登場で完結していたんじゃないかと思う。
このアルバムで展開される、圧倒的な構成のアレンジ。
クラッシクもジャズもロックもぶち込まれ、さらには未来に登場するであろうヘビーメタルも顔を出すこのアルバムを一言で形容するのは難しいし、だからこそ、前衛的ロック、プログレッシヴロックなんだと思う。
それでいてしっかりと聴き手を離さない、一般リスナーをも惹きつけるのは、素晴らしいメロディがこれでもかと盛り込まれていることで、これだけ行き届いたロックアルバムというのは、ほかにはちょっと見当たらないんじゃないだろうか。
だからこそ、このアルバムは現在も孤高の存在にあるのだろう。
KING CRIMSONはこの後も、幾度となくメンバー変遷を経ながら特に「RED」あたりまで圧倒的な名盤を繰り出すし、プログレッシブロックの名盤はKING CRIMSON以外にもいくつも発表されるんだけど、ユニークな存在、となるとこのアルバムを超えるものはなかなか出なかったのかもしれない。
だから、プログレッシヴロックはこの作品で完結していたんじゃないか、と思う。
�ァ�THE BEATLES」／THE BEATLES
今回のこの企画を始めるにあたり、THE BEATLESは避けられないだろうと思い、改めて彼らのアルバムを聴きなおした。
どのアルバムも個性的で非常に素晴らしいんだけど、結局、一番耳を惹かれ聴きなおしたのは通称「ホワイトアルバム」と呼ばれる本作だった。
このアルバムは、最近ではジェフ・エメリック著の暴露本「ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実」でも語られている通り、最悪のバンド状態でのレコーディング作品でメンバー自身もあまり評価はされていないんだけど、だからといって見過ごすことはできないアルバムだと思う。
このアルバムではこの時代に顕著だったサイケデリックから、彼ら自身は脱却することを目指していたんではないだろうか。
実際、このアルバムで聴ける“Birthday”や“Helter Skelter”、“Yer Blues”あたりの音はまさしくハードロックだし、ジョージがエリック・クラプトンの力を借りて作り上げた“While My Guitar Gently Weeps”はAORと呼ばれる音のひな型ともいえる作品で、よく言われていることなんだけど、要はこのアルバムで聴ける音は60年代ではなく、来るべき70年代、80年代、90年代の音なのである。
THE BEATLESの凄いところは、成功してもそれに甘んじて踏みとどまることをせず、常に前を向いていたことで、その姿勢はバンドがどんな状態にあっても変わらないし、実際このアルバムの各楽曲の完成度は圧倒的である。
THE BEATLESの存在の凄さを、一番わかりやすく伝えているのは、実はこのアルバムなんじゃないかと思う。
�Α�PET SOUNDS」／THE BEACH BOYS
ブライアン・ウィルソンは、ロックが生んだ最高の音楽家の一人だというのは、一般的な評価だと思う。
実際に彼が作り上げた名作は、サーフロックの域だけでとどまらない、溌剌とした美しいR&R。
その彼の才能が、異次元のレベルで爆発したのが本作だ。
THE BEATLESの「RUBBER SOUL」を聴いて驚愕し、それを自身への挑戦だと考えて制作された本作はトータルコンセプトアルバムと呼ばれても差し支えのない、統一感のとれた完成度の高い作品となった。
それまでの西海岸の陽気なサウンドとは距離を置いた、全体的に落ち着いた作風で、それはのちのソフトロックの基盤となった作風になった。
圧倒的なアレンジと、ポップで甘美な美しいメロディが全編で繰り広げられており、THE BEACH BOYSのお得意のコーラスワークも効果的に働いている。
ロックの名作といえば、必ず挙げられるといっても過言ではない本作だが、それが伊達ではないことは、聴いてみると一聴瞭然である。
�А�VINCEBUS ERUPTUM」／BLUE CHEER
サンフランシスコ出身のトリオ編成のバンドの1st。
ジャケットからして、サイケ感満載。
飛び出してくる音は、エキサイティングかつヘビーな、重くて攻撃的なハードロック。
録音時にマーシャルの壁を作った、なんて逸話もあるぐらいだが、スタジオ盤の本作にも全編その爆音感が振れている。
ディッキー・ピーターソンのヒステリックな叫び声をフューチャーしたボーカルは、これはすでに後のヘビーメタルに見られるようなスタイル。
サイケの枠にとどまらず、ここからはヘビーメタル、パンク、ハードコアの香りが充満しており、まさにヘビーロックの草分けがここにいたという実感がこのアルバムを聴くと湧く。
冒頭の“Summertime Blues”はTHE WHOとはまた異なったぶっ飛び方をしており、このバンドのユニークさを象徴していて面白い。
�─�TRUTH」／JEFF BECK GROUP
ヤードバーズを脱退したジェフ・ベックが自身の名前を冠した（というよりもソロ名義でバックバンドを従えた）プロジェクトの1968年発表の1stアルバム。
ブルース発ハードロックのひな型ともいえる、正統派ハードロックアルバムで、ジェフ・ベックのダイナミックなギターが全編にフューチャーされているエキサイティングな内容。
それに呼応するかのようなバンドメンバーのパフォーマンスが素晴らしくて、ロン・ウッドはベックのギターに挑むかのような挑戦的なリードベースともいえるぐらいの手数の多いフレーズを連発しており、これがまた非常に素晴らしい。
ロッド・スチュワートのボーカルも素晴らしく、力強い叫び声とマイルドな歌唱と変幻自在なパフォーマンスを披露しており、ここでのロッドのボーカルはハードロック史でも頂点のひとつだといっても過言ではない。
ハードロックの原型がここに誕生したといっても言い過ぎではない内容で、実際に、後のハードロックはこのアルバムの影響がいたるところに聴かれるのではないかと思う。
ロック黎明期が生んだ、非常に画期的な一枚。
��「OGDEN'S NUT GONE FLAKE」／SMALL FACES
モッズアイドルとして登場したイギリスのバンドの、1968年作。
それまでのR&B狂いといっても過言ではない、溌剌とした爽やかなイメージから、サイケデリックな芸術的思考に舵を切った作品。
これが、見事にハマっている。
イアン・マクレガンのキーボードが大活躍の一枚で、浮遊感と幻想感を持ちながら、 SMALL FACESならではのとっつきやすいポップな感覚をしっかり残した音世界を繰り広げている。
スティーヴ・マリオットのボーカルも実に見事で、従来のソウルフルかつパワフルな歌唱を聴かせつつ、この作品の世界観にあった穏やかで優しい歌声も、しっかり説得力を持たせて聞かせている。
収録曲も充実しており、 SMALL FACESという存在がただのモッズスターに留まらない、ロックの重要な存在だったことを示している一枚だと思う。
��「THE NOTORIOUS BYRD BROTHERS」／THE BYRDS
1968年発表の5th。
デビュー当時はフォークロックの旗手として、見事なコーラスワークと、12弦ギターとアコースティックサウンドが織りなすキラキラサウンドが特徴的な作品を発表していたが、3rd「FIFTH DEMENTION」あたらいからサイケデリックなサウンドを大胆に導入するようになった。
このアルバムは、その過程を経ながら、それまでの音世界をバランスよくまとめた作品になっていると思う。
ブラスサウンドやストリングスを効果的に取り入れながら、従来のフォークロックサウンドを殺さず、今後、導入されるカントリー風味も適度に加味し、浮遊感と幻想感を演出するサイケサウンドも適度に取り入れられている。
各楽曲も非常に素晴らしくて、秀逸なメロディをお得意のコーラスで盛り上げているのもGOOD。
後のソフトロックにも大きな影響を及ぼしていることが容易に想像できる、非常に素晴らしい音世界を繰り広げている名盤。
ログインしてコメントを確認・投稿する